『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』シュールでオフビートな社会派コメディー

(C)2020「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」フィルムプロジェクト

 楽隊の行進、汚れた窓ガラス、洗濯物…冒頭から“映画的”が濃密に漂う。むくッと布団から上半身を起こす人物をアクションつなぎで捉えた引き画の美しさに息をのむ。新鋭・池田暁の劇場初公開作だが、PFFや海外の映画祭で注目を集める彼は1976年生まれと決して若くはなく、長編はこれが4作目だ。

 川向こうの町と、朝9時から夕方5時まで規則正しく戦争をしている架空の町が舞台。兵隊から音楽隊へ異動となった主人公と住人たちの日常を描いている。対岸の町は「怖い」らしいが、具体的なことは誰も知らない。受付の女性はマニュアル通りにしか働かず、差別やハラスメントが横行する。風刺と戯画化の利いたシュールでオフビートな世界観は、アキ・カウリスマキやロイ・アンダーソン、あるいはイオセリアーニを彷彿させる。日本映画では珍しいタイプの社会派コメディーだ。誰もが思考を停止させて同調し合うこの町は、日本社会の縮図であり、経済活動が一見無意味な不要不急の行為に支えられていることも実感され、コロナ禍の今一層リアルに迫ってくる。

 さらに、固定画面を基調に、その効果が生きる日常のルーティン=繰り返しで成り立っている構造は、小津安二郎の映画に通じる。川という〈境界線〉や〈見る=見られる〉の関係性も含め、個々の画面に限らず設定や構造もまた“映画的”なのだ。先人のさまざまな遺伝子を受け継ぎながら、突然変異のような傑作が誕生した。★★★★★(外山真也)

監督・脚本・編集・絵:池田暁

出演:前原滉、今野浩喜

3月26日(金)から全国順次公開

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