まったく古くならないジッタリン・ジン、春風のようなメロディとグルーヴ 2021年 3月24日 ジッタリン・ジンのベストアルバム「8-9-10!!(Ver.3)」がリリースされた日

ジッタリン・ジン14年ぶりのベストアルバム「8-9-10!!!(Ver.3)」

1986年結成、1989年にメジャーデビュー。今も多くの人に愛され続け、エバーグリーンな輝きを放ち続けるジッタリン・ジンのベストアルバム『8-9-10!!!(Ver.3)』が本日リリースされた。 今回は、ボーナストラックとして2009年の「20th Anniversary day SPECIAL LIVE」の来場者特典CDに収録された「ラベンダー」が収録されているということでファンの注目度も高まっている。

ジッタリン・ジンはこれまで、『8-9-10!!!』(1999年)、『8-9-10!!!(Ver.2)』(2007年)と非常に緩やかなペースでベストアルバムを発表してきた。今回のVer.3は前回から14年ぶりのリリースとなる。ここからも時を経ても彼ら(彼女ら)のサウンドが多くのファンの心に普遍的なメロディとして突き刺さっていることが分かる。

バンドブームの成熟期、イカ天が輩出したジッタリン・ジン

ジッタリン・ジンと言えば、イカ天バンドという印象の人も多いと思う。確かにデビューのきっかけは1989年5月に初出場した深夜の人気オーディション番組『三宅裕司のいかすバンド天国』への出演だった。

5代目イカ天キングRABBITを倒し、6代目イカ天キングに輝く、しかし、翌週には挑戦者だったセメントミキサーズに倒されているので、実質の出演会回数は少なかった。それでも、その約半年後にはメジャーデビュー。それもデビューライブの会場が武道館だったことが今も記憶に残る人は多いはずだ。

バンドブームが成熟期を迎えた80年代の終わり、その集大成としてこのシーンをリアルに描き出していたのがイカ天だった。イカ天が音楽ファンの間で話題になるにつれ、バンドブームはヒートアップしていく。それは、自分の好みのバンドを “探す時代” から “選ぶ時代” への転換期だったと思う。

デビュー公演は武道館、その背景は?

1983年ぐらいか。インディーズブームが勃発した。そしてラフィン・ノーズ、ザ・ウィラード、有頂天がインディーズ御三家と呼ばれていた時代、好みのバンドを探すには主体的にアンダーグラウンドの情報に特化した音楽専門誌を読み漁り、ライブハウスのフライヤーをこまめにチェックし、自主制作盤を取り扱うレコード店に足繫く通うしかなかった。

こうして自身のアンテナの感度を良好にし、アクションを起こすしか、この周辺の音楽を掘り下げる手段はなかった。しかし、イカ天がブームになると、成熟し、多様性を極めたバンドシーンについても取り上げるメディアが多く登場。そのカタログは容易に手に入るようになった。

そう、“探す時代” から “選ぶ時代” へと時代は変わっていったのだ。そんな最中、正直、マスコミで謳われるジャンルの本質とはかけ離れていたり、とにかく時流に乗せることばかりを念頭においた “一発屋” 的なバンドも数多くいたのも事実。ロックバンドが市民権を得た分、レコード会社は、潤沢な資金でパイを広げていこうと目論む。本質はどこにあるのか? と、シーンは混沌としていった側面もある。だから、ジッタリン・ジンのデビューが武道館公演と聞いた時も仕掛が大きすぎて、その場限りのバンドで終わってしまうかも… という懸念もあった。

稀代のポップメーカー破矢ジンタが織り成す普遍的なメロディ

しかし、そんな思いと裏腹に、ジッタリン・ジンは着実にキャリアを重ね、活動休止をはさみながらも2019年にはYouTubeチャンネルを立ち上げるなど、現在も活動継続中だ。「プレゼント」「日曜日」そしてWhiteberryのカバーにより国民的ヒットとなった「夏祭り」などの名曲たちは今もエバーグリーンな輝きを保ち続けている。

郷愁を感じるのに時代を超えても古くならないジッタリン・ジンの楽曲は、稀代のポップメーカーで作曲を担当する破矢ジンタのセンスに拠るところが大きい。僕は、初めて彼のギターを聴いた時、正統的なバディ・ホリーの継承者だなと思った。

バディの代表曲「エヴリデイ」や「ハートビート」、リンダ・ロンシュタットもカバーした「イッツ・ソー・イージー」などに通じる、切なさ、温かみを感じながらも革新的なメロディライン。つまり50年代当時に後世に遺すべき雛形として生み出されたメロディを普遍的ものとして極めて日本的なアーシーな部分に落とし込む手法は他に類を見ない。

独特の “間” と安定したドラミング、入江美由紀が果たした役割

また、ロカビリー、スカという自分たちのバックボーンを、それぞれジャンルが持つプリミティブな衝動を抑え、それぞれのメンバーのキャラクターを全面に打ち出すかのようなアンサンブルがオリジナリティを強めた。

その中で、ドラムの入江美由紀の役割も非常に大きい。ロカビリーやロックンロールに内包された衝動こそを本質とする荒っぽさではなく、女性ならではのドラミング。言葉にするのは難しいのだが、ジッタリン・ジンの大きな特徴でもある2ビートのリズムに見られる “力” ではない、独特の“間” と安定したドラミングは、女性ドラマーならではのものを感じた。

それは彼女が “オリジナル” だった。つまり、それまでマッチョイムズこそが美徳と思いこまれていたロックンロールがジェンダーの壁を越え新たなカッコよさとして、そのスタイルを多くの人に提示していったと思う。

突き放した優しさ? 人間味を感じるシンガー春川玲子

春川玲子のヴォーカルもまた、稀有な表現者として他に類を見ないスタイルだ。一見無表情、冷淡なイメージすら感じるステージアクトが有名だ。しかし、だからこそ、突き放した優しさというか、それはたとえば、代表曲の「プレゼント」からもうかがうことが出来る。

彼氏からもらったものを羅列したリリックのあとに「彼女がいたなんて…」と歌うくだりからも分かる。そこには、心の奥底に潜む本音を垣間見られる瞬間のようなものが確かにあった。そんな人間味というか、温かみを感じることができるシンガーなのだ。

今も愛されるジッタリン・ジン、それぞれのキャラクターと力量に代役なし

ジッタリン・ジンは、この主要メンバー3人のキャラクターと力量が成し得た、それぞれ他に代役がいないバンドだ。3人が主軸でいたからこそ、マイペースながらも今も存続しているように思う。

今回リリースされるベストアルバム『8-9-10!!!(Ver.3)』には、初期を中心に代表曲をバランスよく網羅し、初心者にも、また往年のファンにも満足できる内容となっている。この機会に、郷愁があるのにまったく古くならない彼ら(彼女ら)の春風のようなメロディとグルーヴを感じてもらいたい。

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カタリベ: 本田隆

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