【書評】生々しくもディープな地方選挙ノンフィクション 常井健一『地方選 無風王国の「変人」を追う』角川書店

こんにちは。自称日本一意識低い政治ライターのひがし(@misuzu_higashi)です。

担当編集にゴリ押しされたのでノンフィクションライター・常井健一氏の『地方選 無風王国の「変人」を追う』(角川書店)という本を読んでみました。

しかもこの本、ひとくちに地方選と言っても、扱っている選挙は全て町村長選というこれまたマニアックなもの。

前回書評記事を書いた『ヤバい選挙』とはまた違う熱意を感じました。

コロナ禍で地方政治マニアが「変人」でなくなる!?

筆者である常井氏は街頭演説と選挙にまつわる昔話をこよなく愛し、小泉純一郎氏を取り扱ったテーマで雑誌ジャーナリズム賞を受賞したこともあるそうです(すごい!)。

そんな筆者は町村長選というマイナー選挙のために何日間も辺鄙な場所に乗り込み、選挙カーを追っかけるわ地元の飲み屋で話を聞くわ、選挙運動期間を通じて体を張ってルポを続けます。その上で候補者たちを「変人」と表現しているのですが、筆者こそ「変人」なのでは……?

……とわたしは思ったのですが、このコロナ禍でそれがそうでもなくなってきたよ!というのがこの本が刊行されたきっかけ。

読者の皆様も昨年から現在にかけて、自分の住む自治体と他の自治体の新型コロナウイルス対応を比較してみたことが一度はあるのではないでしょうか?

地方政治から目を逸らせなくなり、自治体行政には特に大きな権限を持つ首長の決断に注目する人が増えた今、身近な選挙のリアルに目を向けてみようじゃないか。今回はそんなお話です。

生々しいノンフィクション。どこまでドロドロなの?

本書は大きく7章に分かれており、1つの章につき1つの町村の長を決める選挙について語られています。その土地のバックボーンや昔話も存分に語られており、読みごたえは抜群です。

舞台となる町村に共通する大きな特徴は、表題にもなっている「無風王国」であったこと。例えば、長期間選挙が行われなかった、何選もしている町長が無投票当選で選挙を経験したことすらない……そんな無風の土地に風が吹き、選挙と言う名のちょっとした革命が起きた瞬間を筆者がそのまま書き写しています。

親の地盤を持った候補者がどう考え当選しているのか、よそ者の意地を持ったチャレンジャーがどう挑んだのか、こんなことは序の口。親子ほど歳の離れた大人が若者に対して行った最早「イジメ」と言っても良い行動とは?地方政治においてバックについている有名国会議員が及ぼす影響とは?等、一般人がこんなことまで知って大丈夫なのだろうかとちょっとした不安さえ覚えるディープなノンフィクションです。

また、現実ならではのあるあるで、期待外れなことやオチがなく収束することももちろんあります。それがまたむずがゆくてたまらない。大人の汚さや慢心にちょこっとイラッときつつも、そんな中で「風」を吹かせた数々の候補者にリスペクトが止まらない。そんな1冊でした。

私だったら、無風王国で風を起こす行動は取れるのだろうか……。

まとめ:一歩踏み込んで選挙のリアルを知りたい人へ

『地方選 無風王国の「変人」を追う』、非常に面白い本でした!選挙が停滞していた無風王国で出馬の意向を見せ「風」を起こした人々から勉強させられるものはいくらでもありますね。

……が、残念ながら初心者向けとは言えないかもしれません。田中角栄氏をはじめ、著名な政治家の名前が当たり前に出てくるのです(勉強しながら読むと知識も深まりそう!)。政治に関する基礎知識がある方がマイナー事例を知り、選挙ってこんなこともあるんだ!と新たな知見を得るのにはピッタリですよ。

ちなみにこの本、どっしり読みごたえのある内容だったので読了までに3時間半かかりました。1章完結で話が進んでいくので少しずつ読み進めてもOK。

身近な地方政治、特に小さな自治体の選挙に興味のある方、ぜひどうぞ!

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