ワクチン避ける心理的障壁「5つのC」

海外の研究が語る接種率向上へのヒント

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星良孝

ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師

星良孝

ステラ・メディックス代表取締役/編集者 獣医師

東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経 BP において「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017 年に会社設立。獣医師。

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ビオンテック=ファイザー製のコロナワクチン© BioNTech SE 2020, all rights reserved

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を避けようとする人々の考え方の根にある行動原理は、新型コロナの発生以前から研究されている。ワクチンには、はしかや水痘など、子どもの頃に受けるべきものが複数あり、接種者をいかに広げるかは公衆衛生を担う政府や医療関係者の課題になってきたからだ。

 前回の「ワクチンなぜ避ける? 掘り下げるのはやぶ蛇か 海外研究が指摘する2つの障壁、接種率向上の鍵は」では、ワクチン接種を妨げる構造的な障壁と心理的な障壁について、海外の研究成果から読み解いた。心理的な障壁について、海外研究を紹介しながらさらに詳しく見ていきたい。(ステラ・メディックス代表取締役、編集者、獣医師=星良孝)

 ▽忌避につながる考え方を5つに分類

 2020年3月、ドイツやデンマークなどの国際研究グループは、ワクチン忌避につながる考え方を5本の柱に整理して報告している。

 一部意訳するが、①信頼(confidence)②危機意識の欠如(complacency)③制約(constraints)④計算(calculation)⑤集団としての責任感(collective responsibility)。5つの行動原理と言えるもので、その定義は表の通り。それぞれの要素の単語の頭文字を取り「5C」としている。

ワクチン忌避につながる行動原理 出典:BMJ Open. 2020 Mar 10;10(3):e034869.

 ①信頼については「ワクチンが安全であると完全に信頼している」「ワクチンは有効である」「ワクチンに関して、国などはコミュニティーにとって最善の決定をしている」という3点を考えてもらい、点数化する。この結果を基に信頼という観点からワクチン接種を受けたい度合いについて推し量ることができると研究グループは説明する。

 同様に②危機意識の欠如については「ワクチンで防ぐことのできる病気はもう一般的ではないためワクチン接種は不要」「私の免疫系は強いので、病気に対して抵抗力がある」「ワクチンで防ぐことのできる病気は深刻ではないので、私はワクチン接種を受けなくてよい」という項目についての見方を点数化。③制約では「日々のストレスがワクチン接種を受けることで軽くなる」「ワクチン接種を受けることを不便に感じる」「医師のもとに受診するのが億劫で、ワクチン接種から気持ちが遠ざかる」などを点数化する。

 ④計算では「ワクチン接種について考えるとき、最善の選択のために利益とリスクを考える」「ワクチン接種について自分に意義があるかどうかを深く考える」「ワクチン接種を受ける前にワクチン接種についてのニュースをよく理解することが大事」について、⑤集団としての責任感では「みんながワクチン接種を受けていれば、自分はワクチン接種を受ける必要がない」「自分がワクチン接種を受けることで、免疫系の弱い人を守ることができる」「ワクチン接種は病気の拡大を防ぐための集団行動である」について、それぞれ考えてもらい点数化。そこから推量できるとしている。

 このように分解して考えることで、一口にワクチン接種を避けようとする心理的障壁と言っても、その背景にはさまざまな考え方が隠れている可能性をとらえることができる。これらはワクチン忌避への対策を考える上で役立つだろう。解決を図ろうとするとき、アプローチの仕方も一様ではうまくいかない。

西アフリカ・コートジボワールのアビジャンで新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける人=3月1日(ゲッティ=共同)

 ▽新自由主義的論理と社会的排除

 こうした5Cの視点も踏まえ、南アフリカとニジェールの研究グループは3月、ワクチン接種の困難さとその背景にある価値観について報告している。論文では「天然痘、ポリオ、黄熱病などがかつて世界の多くの地域で何百万人もの死亡や障害を引き起こしていたことを忘れてしまっている」とし、南アフリカの人々の36%が新型コロナのワクチン接種に消極的だと紹介、危機感を示した。

 その上で、ワクチン接種をためらう原因を、アフリカの国の状況として「新自由主義的論理」と「社会的排除」という2つの異なる要因がからむと説明している。

 論文では、新自由主義的論理について「善良で責任を持つ個人は、自分自身で健康のリスクを評価し、根拠を求めて、疑問を持って、積極的に回避、管理、結果は引き受けるという考え方を持つ」と分析。この発想に基づく行動が、集団的な責任や公衆衛生とは相反する部分があるとした。

 一方、社会的排除は、政府と市民との関係性の破壊であり、疎外されたものがワクチン接種に不信感を抱く。そして予防接種がもたらす時間と機会のコストを理由に避けるようになる、としている。

 研究グループはワクチン接種を避けようとする心理的な障壁は国ごとに違うと指摘。行動や社会的なデータの収集をして、効果的に解決策を練っていくのが肝要だとしている。ここではアフリカの国における価値観の変化とワクチン接種忌避の関連性について論じているが、こうした背景にある社会情勢などは国によって異なるのは当然だ。その分析は解決策のヒントを与えてくれる可能性がある。

 米国のメイヨークリニックを中心とする研究グループは3月に「ワクチン開発の急速なペース」「一般的なメディアやソーシャルメディアにおける誤報」「二極化した社会的、政治的環境」「大規模なワクチン接種の取り組みに内在する複雑さ」を、ワクチン接種から人々を遠ざけてしまう社会の不満として報告した。一定数のワクチン接種忌避がある中で、こうした問題を丁寧に解いていく必要があるだろう。

アルゼンチン・ブエノスアイレスで新型コロナウイルスワクチンを巡るスキャンダルに抗議する人々=2月27日(ゲッティ=共同)

 ▽世界の教訓生かし、ワクチン忌避直視した対策を

 ワクチン忌避をできるだけ減らす施策は、研究では数に限りないといえるほどアイデアが挙がっている。日本でも、こうした世界で得られた教訓を確認した上で盤石の方策を練っていくべきだろう。

フロリダ大学のグループは「国や国際的な機関からの推奨」「緊急的な使用許可がなされた意味の理解」「ソーシャルメディアによる宣伝」「超党派での支持の醸成」「地域リーダーとの関係構築(歴史的に接種を阻害されたようなグループでの接種を促進するため)」が重要だと指摘している。英国医師会雑誌(BMJ)では、英国の大学の研究グループが、企業がスポンサーになるワクチン研究に偏りがある点がリスクだと指摘。研究関係の健全性こそが求められているのではないかと評している。

 2020年7月の筆者の記事「新型コロナワクチンの重しになる「接種を避けたい人たち」 日本では予防接種の基本方針を今夏策定へ」で伝えているが、情報発信の効果としては、ソーシャルメディアはイメージほど影響力がないという指摘もあった。啓発の手段は、リアルの場での情報提供も含めて、対処できるところは隅々まで対応していくという難しい局面になっていると考えるべきだろう。

 世界はワクチン忌避に目を向けている。日本も策を講じないまま「打つ手なし」に至らないよう気をつけなければならない。国内にあるワクチン忌避の動きを直視し、海外のアイデアも取り入れながら接種率向上を図っていくべきだろう。(終わり)

 関連記事;ワクチンなぜ避ける? 掘り下げるのはやぶ蛇か 海外研究が指摘する2つの障壁、接種率向上の鍵は https://www.47news.jp/47reporters/6012762.html

 ▽参考文献

BMJ Open. 2020 Mar 10;10(3):e034869. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32161160/

Hum Vaccin Immunother. 2021 Mar 8:1-3. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33684019/

Glob Health J. 2021 Feb 9.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33585053/

N Engl J Med. 2021 Mar 3.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33657291/

Mayo Clin Proc. 2021 Mar;96(3):699-707. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33673921/

J Med Ethics. 2021 Mar 9:medethics-2020-106805. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33687913/

新型コロナワクチンの重しになる「接種を避けたい人たち」 日本では予防接種の基本方針を今夏策定へ https://www.47news.jp/5019824.html