コロナ第4波襲来に身構える菅政権 「お手上げ解除」で早期解散遠のいたか?

By 内田恭司

 菅義偉首相は新型コロナウイルス緊急事態宣言の「お手上げ解除」に追い込まれた。政権の行方はさらに不透明感が増すばかり。当面はリバウンド対策に全力を挙げざるをえず、「4月解散」の可能性は遠のいたようにみえる。ただ、自民党総裁任期まであと半年、衆院任期満了まで7カ月を切ったのも現実だ。首相は感染状況を見極めながら、衆院解散の好機を探るが、コロナ対応と公明党にどう折り合いをつけるかが課題だ。(共同通信=内田恭司)

記者会見で国民の協力に頭を下げる菅首相=3月18日夜、首相官邸(代表撮影)

 ▽「内閣総辞職では済まない」

 菅首相が大型連休(GW)の前後に衆院を解散する早期解散論が、永田町界隈から聞こえてくるようになったのは、2月後半に入ってからだ。コロナ感染者数が減り、内閣支持率が上昇に転じたことが背景だ。首相肝いりの「デジタル庁設置法案」を4月中に採決・成立させる日程が固まり、政府が生活困窮者への給付金支給の検討に入ったことも、この解散論の支えとなった。

 さらに首相が4月上旬に訪米する日程が固まると、帰国直後に解散に踏み切るとの説が急浮上する。懸念材料は、7月の東京都議選を国政選挙並みに重視する公明党の意向だが、衆院選の投開票日は5月中になるので、都議選まで1カ月以上空く。これなら「公明党もぎりぎり容認できる」(自民党ベテラン議員)との見立てがささやかれた。

 選挙に踏み切れば、自民党は現有278議席(議長含む)のうち20前後を失うが、自公両党で280議席以上を得るという政治評論家の予測も、まことしやかに流れた。

 こんな政局論を吹き飛ばしたのも、やはりコロナだった。3月後半以降、感染のリバウンドが明らかになると、4月解散論に懐疑的な見方が広がった。

 立憲民主党の枝野幸男代表は18日、「第4波が生じたら内閣総辞職では済まない」とけん制。首相は21日の自民党大会で「どんなに遅くとも秋までにはある。先頭に立って戦い抜く決意だ」と述べるにとどめた。GW明けを含め、「解散はまだ先」との見方が広がった。

 3月21日が期限だった緊急事態の全面解除は、花見や入学、会社の異動などで人の動きが活発になる時期と重なり、多くの専門家がコロナ感染の第4波襲来を強く懸念している。

新型コロナのワクチン集団接種訓練で、アレルギー反応が出た人への対応手順を確認する参加者=2月28日、大阪市

 ▽6月には一般向け接種も

 それでは、次のタイミングはいつなのか。取り沙汰されるのは7月4日投開票の都議選との同日選だ。コロナ対策の「切り札」となるワクチンの供給が鍵を握るが、河野太郎担当相は、6月末までに米ファイザー製ワクチン1億回分(5千万人分)を調達できるとの見通しを示した。実現できれば政権の成果としてアピールできる。

 菅政権としては、第4波を阻止するため監視を強めながら、局所的に感染が拡大すれば、新規の強制措置など対策を総動員して抑え込む構えだ。英アストラゼネカ製や米モデルナ製のワクチン承認も見込み、一般向け接種を前倒しする検討にも入った。

埼玉県北本市の第一三共子会社工場で始まったアストラゼネカワクチンの製剤化作業=3月11日(第一三共提供)

 アストラゼネカ製は国内製造が始まり、モデルナ製は6月までに4千万回分(2千万人分)が供給される計画だ。政権のもくろみ通りなら、6月中には高齢者3600万人全てにワクチンが届き、一般向け接種も進んでいることになる。同日選の最大の根拠だ。

 4年前の都議選(127議席)は、小池百合子都知事率いる地域政党「都民ファーストの会」が55議席を得て圧勝し、自民党は23議席で惨敗した。だが、都民ファにかつての勢いはない。自民党は今回、知事与党だった公明党と選挙協力協定を結んだ。

記者会見する東京都の小池百合子知事=3月19日午後、都庁

 都議会自民党幹部は「45~50議席は取れる」と皮算用しており、こうした見立ても同日選論を後押しする。首相としても、確執のある小池氏に一矢報いることができる。

 菅首相が「選挙の顔」になれるのかとの疑念が自民党内でくすぶるが、4月25日投開票の国政3選挙で「一つでも勝てば問題ない」(党関係者)というのが多くの見方だ。不戦敗の衆院北海道2区補選はともかく、買収事件を受けた参院広島再選挙は逆風下となるが「もともと自民党が強いので、いい戦いができる」(同)と見ているようだ。

 ▽変異ウイルスに警戒

 とはいえ、都議選同日選論に対し、公明党は「現実的でない」(石井啓一幹事長)と反対姿勢を崩さない。直後に迎える東京五輪開幕の準備を理由に挙げているが、同日選による選挙態勢の分散を嫌っているのは明らかだ。

 政府がワクチンの迅速供給に努めるとはいえ、第4波への懸念も強く、竹下亘元総務会長は3月18日、コロナの感染抑制に「一定のめどがつかなければ、(首相は)動かないのではないか」との見方を示した。

 実際、東京大の研究チームは、年度またぎの歓送迎会などで人の動きが活発になった場合、経済活動の制限を1カ月かけて緩和したとしても、東京の1日当たりの感染者数は、6月に1200人を超える可能性があると試算した。感染力が強いとされる変異ウイルスへの警戒も強まっており、接種が追いつかなくなる可能性は十分にある。

東京都の感染者数の予測

 自民党の森山裕国対委員長は同じく18日、同日選について「首相が決断をすれば、公明党には理解してもらえるのではないか」と踏み込んだが、首相の脳裏にはコロナの感染抑止が最優先事項として刻まれているのは間違いない。

 ▽「菅降ろし」日程も

 菅首相が7月同日選を見送ると、解散はいよいよ東京五輪後ということになる。この場合の焦点は、衆院選と自民党総裁選のどちらを先に行うか、だ。首相の立場なら、先に衆院選を実施し、勝利した余勢を駆って総裁選で無投票再選を果たしたいと考えるだろう。

 永田町では「9月27日解散、10月24日投開票」の日程が早くも出回っているが、これは総裁任期後の日程であり、「菅降ろし」が前提とも受け取れる。3月21日の千葉県知事選で自民党の推薦候補が100万票の大差で完敗するなど、地方で自民党が退潮傾向にあることも、さまざまな臆測や不安を招く要因となっている。

記者会見を終えた菅首相=3月18日夜、首相官邸

 コロナを抑え、都議選にも勝利すれば、首相は大手を振って五輪後に衆院解散する流れとなるのだろう。しかし、コロナ制圧に失敗し、3度目の緊急事態宣言発令という事態にでもなれば、都議選勝利どころか、安全・安心の五輪開催も一気に危うくなる。無残な形での内閣総辞職という最悪シナリオも、「ない」とは断言できないかもしれない。

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