【食堂のおばちゃんの人生相談】51歳・会社員のお悩み

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「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!

【お悩み/ノーサイドさん(51)会社員】
50歳を過ぎて表面上は繕っているが、じつは仕事やプライべートで突然のトラブルに対処するのが苦手で、うろたえてしまう自分が情けない。“動じない男” になるには、どうしたらいいのか?

【山口先生のお答え】
ノーサイドさんは管理職なんですね。それじゃ失いたくないものが沢山あるでしょう。地位とかお給料とか体面とか。突然のトラブルに狼狽えてしまうのは、失いたくないものが目の前にちらつくからだと思います。そして、それはとてもお幸せなことだと思います。

私は怖いものがありません。テレビでビートたけしさんとご一緒したときも、嬉しかったですが、まったく上がりませんでした。それは私が部外者で、芸能界で生きている人間ではないのも理由ですが、一番大きな理由は守るべきものが何も無いからです。

一生下積みで陽の目を見ることもなく、出版される見込みのない小説を書き続けて行かなくてはならないのか……と諦めかけていたら『月下上海』で松本清張賞を受賞して、運命が変わりました。

まるでオセロゲームのように、それまでの黒が全部白にひっくり返ったんです。食堂のおばちゃんも、大酒飲みも、お見合いを43回失敗したことも、全部マスコミ的に “美味しい” ネタでした。

その時覚悟しました。いつかこの白が全部黒に裏返る日も来るかも知れない。親切だった編集者に原稿を突き返され、居留守を使われる日も来るだろう。でも、何があっても全力で書き続ける。結果は後に付いてくるものだから、すべて受け入れるしかない……と。

こういう風に “ケツをまくった” のは、私には夫も子供もカレシもなく、社会的な地位も名誉も財産もなかったからです。つまり、恵まれない人だったからですね。

ノーサイドさん、狼狽えたって良いじゃないですか。それはあなたの幸せの証明です。人生がお宝に囲まれてるってことですよ。

ただ人間、死ぬときは一人です。トイレもご飯も病気も、他人に代わってもらうことは出来ません。最後は一人……これだけ覚悟していれば、狼狽したって失態は演じません。だから大丈夫ですよ。

やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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