福井の伝統工芸品・越前箪笥の『小柳箪笥』歴史を重んじながら新たなプロダクトの提案も

福井県の伝統工芸品の一つ『越前箪笥』。
越前箪笥の産地である福井県越前市には、江戸後期から木工技術を持った職人が住むようになり、明治中期ごろには本格的なタンス造りの職人が中心となってタンス町をつくりました。
国道365線沿いの200mほどの道は、現在もタンス通りと呼ばれており、和洋家具のお店や建具商など、数十軒のお店が軒を連ねています。
今回はその中の一つ、『小柳箪笥店』にお邪魔しました。

※こちらの記事は2019年9月に公開したものを再編集したものです。

100年以上の歴史あるお店『小柳箪笥』

タンス通りから歩いて数分の場所にある小柳箪笥さん。
明治40(1907)年に指物屋として創業し、100年以上の歴史を大切にしながら、現代風のプロダクトも多数提案しているお店です。
(指物:板を差し合わせて作られた家具等のこと)

出迎えてくれたのは、小柳箪笥の四代目・小柳範和さん。

小柳箪笥の四代目として生まれ、19歳の頃から修業を始めたベテランの職人さん。
「家具手加工1級技能士」、「職業訓練木工科指導員免許」を取得し、平成26年に伝統工芸士に認定されました。
(伝統工芸士:経済産業大臣指定伝統的工芸品の製造に現在も直接従事しており、試験実施年度の4月1日に12年以上の実務経験年数を有し、原則産地内に居住している者だけが試験を受けられる)

代々、語り継がれてきた伝統と指物技術を今も尚継承し続けながらも、木材を用いた型にはまらないクリエイティブなモノづくりを追求するべく日々、精進中。昨今では、『木』と『漆』の親和性と奥深さに改めて魅了され、杢目を活かす漆のさらなる可能性を探求している。

出典:小柳箪笥公式サイト

ということで、小柳箪笥では、越前箪笥らしさ満載のテレビボードなど、完全受注生産のオーダー家具も手がけています。

テレビボード

実は私も、越前箪笥風のテーブルをオーダーし、一部自分でも作業をお手伝いして、世界に一つだけのテーブルを作っていただいたことがあります。

詳しくはこちら>>小柳箪笥でオリジナルの家具を注文&手作り体験しました!

小柳箪笥の歴史

小柳箪笥は、現在の社長・小柳範和さんで四代目。
つまり、小柳社長のひいおじいさまの代から越前箪笥に携わってきたわけです。

しかし、小柳社長はひいおじいさまに会った事はなく「本当に箪笥を作っていたのかなあ」なんて、半信半疑なところもあったそうです。

ところが先日、工房の改装の際にこんなものを見つけた!とあるものを見せてくれました。

今で言うカタログのようなものなのでしょうか。
障子のデザインなどが描かれたカードや、それに関連する書籍のようなものが見つかったそうです。

この辺りの職人さんは、かつては主に建具を扱っていたとのこと。
障子一つとっても、まるで芸術品のようにこだわっていたであろうことがうかがえる資料に感動しました。

最近では簡素化したデザインの家具も大量に作られており、数千円で家具が買える時代になりました。
しかし、こうした伝統技術や職人さんの思いが込められた建具や箪笥は、値段が高くて当たり前なんだなとすごく納得できました。

kicoruで新しいプロダクトもどんどん誕生

とはいえ、伝統を重んじるだけでなく、それを活かして新たなプロダクトを開発し、時代に合ったものづくりをしているのも小柳箪笥の特徴。
現在は「木にこだわる」というコンセプトのもと、『kicoru』というブランドも展開しています。

「木にこだわるというのは、『この木を使わなくてはいけない!』とか気負うことではなく、いろいろな木の特性があって、表情も違くて、無限の可能性があるということを知って欲しい」と小柳さん。

店内にはそんな小柳さんの想いが詰まったたくさんの製品が並べられています。

積めん木

例えばこちらの積みにくい積み木。
その名も『積めん木』。

福井県産の杉を使用し、小柳さんが一つ一つ丁寧に制作しています。
自然素材の積めん木は舐めても安全。
さらに、赤ちゃんやお子様が誤飲しないように、大きさにもこだわっています。

触れると木のぬくもりが指先から伝わってきます。

縁起物コースター

大人向けならこんなにおしゃれなものも!

こちらの「縁起物コースター」は、「青海波:平穏な暮らし」「七宝=良縁・家庭円満」など、それぞれの模様に意味が込められています。

結婚祝いや新築祝いに良さそう!

越前箪笥テーブルの作業後に出していただいたお茶は、kicoruの紙コップソーサー付でした!

小柳範和さんのものづくりへの思い

丁寧にものをつくる

「いつも、とにかく丁寧にものを作ろうと思っています。
名古屋で修行していたときに、『魂を込めなかったらゴミになる』と教わったのが原点です。
大事にされないようなものを作ったってしょうがない。気持ちを込めて作ったものはずっと残るんです。
親父も丁寧にものを作っていました。それも見ていたので。
ただ、丁寧にやりながらも急ぐことも必要で、大変なんですが(笑)
技術とか技法はどちらかというとやっていけば身につくもの。ものづくりはそこではなくて、職人としてのモチベーションが大事だと思っています」

歴史的背景とともに越前箪笥を伝えたい

「これからは、越前箪笥がどういうものなのかを伝えていきたいです。
木工だけではなく、漆塗りも金具作りもできるので、歴史も踏まえてトータルで越前箪笥を伝えられたら。
今回いろんな質問をされましたけど、その中であった『金具の意味』とか、『歴史的背景』とかももっと深掘りしていきたいですね」と小柳さん。

越前箪笥が生まれたこの地の歴史も踏まえて、勉強し、伝えていきたいとのこと。そのために、「福井県のおもてなし認定」も受けているそうです。

ストーリーをつくるお手伝いがしたい

実は私が小柳箪笥さんにテーブルの制作をお願いしたのは、「ご結婚される娘さんのために、お父さんが金具作りから携わった越前箪笥をプレゼントし、最後の金具取りつけには娘さんも参加した」というお話をネットで見たからなんです。

その話を知り、小柳箪笥さんなら、素敵な家具を作ってくれるだけでなく、思い出に残る体験ができそうだと思って相談したのが始まりでした。

小柳さんも、「今後はお客様が作りたいアイデアを形にすることを積極的にやっていくのもありかなと思っています。
僕が作れるのは『物』ですが、例えば娘さんへの箪笥の件で言えば、それはもう『お父さんと娘さんのストーリー』になると思うんです。僕の作り手の魂も、使う当人の魂も込められるので、そういったことをこれからもっとやりたいです。
そこには、『伝統工芸士小柳範和が作ったこと』よりも価値があると思うので」と話してくださいました。

私も小柳さんと一緒に家具を作ったことは、本当にいい思い出になったと感じています。
大好きな福井の伝統に触れられただけでなく、夫と2人で力を合わせて一つのものを作り上げられたこと、これからの長い人生で、このテーブルがずっと私たちの生活の中心にいてくれるであろうこと。
そういうことに、すごく価値を感じました。

店舗情報などは以下でご紹介しています。

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