「長年、原監督の下でやっている」 巨人亀井、劇弾を生んだベテランの経験値

坂本勇人らナインから祝福される巨人・亀井善行(左から2番目)【写真:荒川祐史】

開幕戦での代打サヨナラ弾はプロ野球史上初の快挙

■巨人 8-7 DeNA(26日・東京ドーム)

巨人は26日、DeNAと東京ドームで開幕戦を戦い、8-7でサヨナラ勝利を収めた。ヒーローは9回裏、代打で登場した亀井善行外野手。プロ17年目のベテランはDeNA守護神・三嶋のスライダーを完璧に捉え、右翼席へ運んだ。今季初打席で放った本塁打が、史上初の開幕戦代打サヨナラ弾。亀井が示した一打はリーグ3連覇、9年ぶりの日本一へ大きな足掛かりとなる。【楢崎豊】

エースの菅野が先発し、苦しみながらも試合を作った。大城がチーム1号となる3ランを放ち、リードは一時、3点あった。7回に1点差に迫られたところで、原監督は一度、勝負手を打った。1死から若林がヒットで出た後、代走に切り札・増田大を送る。しかし、得点圏に進めず、坂本が併殺打に倒れた。欲しかった1点は阻まれた。

8回裏には丸の二塁打からチャンスを作り、ウィーラーの適時打で1点を返した。さらにたたみかけたいところに俊足の重信、吉川尚を次々と代走として送り込んだ。しかし、吉川尚が走塁ミスを犯して1点止まり。悪い流れで9回に入ると、守護神の中川が2点のリードを守れずに同点とされた。

巨人にとって苦しいゲーム展開だった。原監督の作り上げる強いチームはスタメンだけに力のある選手を揃える野球ではない。投手も野手も後から送り出す選手も強い選手を揃える。だからこそ、個の力が試される。

思い出されるのが9年前、日本一になった時のメンバーだ。スタメンには長野久義(広島)、坂本勇人らが中心となって並んだ。代打には高橋由伸、谷佳知、矢野謙次、石井義人。代走には鈴木尚広。守備固めに寺内崇幸、松本哲也といった名前が並び、控えの選手層が厚かった。彼らがシーズンを通じて、持ち味を発揮。劣勢でも逆転できる、接戦での強さがあった。

亀井はプロ17年目で通算99本塁打、あと1本で大台到達も…

この日、サヨナラ打を放った亀井は言った。「長年、原監督の下でやっていますから。監督の考えを理解しながら、どのようにして動くのか、準備しています」。9年前の日本一メンバーの一人でもある。チームとしての強さを知っている。

今のチームにも力のある若手選手は多くいる。だが、細かなところでミスが出た。今季は規定により、延長戦はない。9回で決着をつけなくてはならないが、原監督はその前で試合を決めたかった。

指揮官は最後のイニングで亀井というカードを切り、勝利を掴みにいった。

打席に入る前、17年目のベテランは冷静な目で、三嶋の投球練習を見ていた。「ストライクが入っていなかったので、ワンストライクまでは見ようかな、と」。初球の151キロの直球はボールになった。2球目はスライダーを見送り、ストライク。そして3球目に甘く浮いたスライダーを一振り。打った瞬間にスタンドインを確信する一発となった。

ベンチでは試合の戦況を見ながら「準備だけはとりあえずしておかないといけないな、というのはあった」と、早い段階で一度体を作っていた。いつ、監督に名前を呼ばれてもいいように、気持ちを高めていた。

「こういう緊張感や苦しいことも経験もしてきましたから。力を出せたということは、今までの経験が力になっているのかなと思います」

カードを切る順番を考え、試合を運んだ原監督、そしてその期待に答応えた。プロ通算99本目の本塁打は、開幕戦を飾る価値のある一本になった。ベテランが示したこの劇的弾には、個々が勝つために何をしなくてはならないのか、強い巨人であるための意思が詰まっていたように見えた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

© 株式会社Creative2