米国も重大警告!日本学術会議と中国千人計画|佐々木類 日本学術会議の問題は終わっていない!中国の軍事開発は許すが、日本のそれは断固反対。いったいどこの国の機関なのか?

騒げば騒ぐほど明らかになった実態

やぶ蛇とはまさに、このことを言うのではないか。日本学術会議をめぐる問題だ。

「学問の自由の侵害」だとか「人事への不当な介入」だと政府を批判し、正当性をアピールして既得権益を守るつもりが、逆に行政改革の対象となり、自らの首を絞める展開となっている。

その意味では、この問題を最初に報じた日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」はGood Jobだ。朝日新聞や毎日新聞、立憲民主党など学術会議の肩を持つ面々も、自分たちが騒げば騒ぐほど学術会議の実態が白日の下に晒され、存続の危機に追い込まれることには気づかぬらしい。

2020年10月26日召集の臨時国会で野党はこの問題を取り上げ、政府を追及した。

ならば、問題の核心が、国民の生命と安全にかかわる安全保障の問題につながりかねない点にあることを政府、与党は満天下に示すべきだ。過去に出された軍事技術への協力拒否を謳った声明の作成過程では、自衛隊が憲法違反であるという浮世離れした議論がまかり通っていた。

欧米諸国のような先進民主主義国でも、防衛当局と産業界が協力して先端技術を開発するのは当たり前のことだ。学術会議は、軍事研究を行わないとする一方で、海外から集めた先端技術の軍事利用を図る中国から多数の科学者を受け入れている事実には目を伏せたままだ。菅政権が行革対象に挙げたのは当然である。

6人の任命を見送った理由を語るべきとの批判がある。だが、人事はどの組織においてもデリケートな案件だ。学術会議が推薦した105人のうち6人を菅義偉首相が任命しなかった理由について、詳細を語る必要はない。語ることによって、任命されなかった候補らの名誉が傷つけられても良いというなら別だが。

ただ、政府も従来の形式的な任命から、なぜこのタイミングで方向転換したのか、その理由をもっと語る必要がある。国内外の環境変化についてどんな認識を持ち、いかなる理由で一律的だった従来の任命方法を変えたのかという点である。

「日本の軍事研究は認めるが日本はダメだ」という異常

批判の中心は、任命されなかった6人が集団的自衛権の限定的行使を可能にする安全保障関連法案や、重大な機密を漏らした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案に反対したという点にある。

菅首相は任命しなかった理由を明らかにしていないが、ここで留意したいのは、安保法反対派も任命されているという事実である。

10月に学術会議の新会員に任命された99人のうち、少なくとも10人が安全保障関連法案に反対していたことが、産経新聞の調べで判明している(2020年10月8日付電子版)。一部野党は、安保関連法案など政府提出法案への反対が理由ではないかと批判しているが、その根拠は必ずしも当たらないことが、この事実からはっきりした。

大事なことは、学術会議が根本的な部分で、どれだけ日本国民に背を向けているのか、政府、自民党が本当のことを明らかにすることだ。そうすれば、国民の多くはきっと理解してくれるはずだ。

たとえば、自国の防衛研究への協力を忌避する一方で、学術研究の軍事転用を図る中国の科学技術協会と協力促進を目的とした覚書を交わしている。この二重基準について、学術会議は国民にどう説明するのか。

中国との協力関係によって他国の知的財産を奪い、軍事研究に結び付けることを狙う中国の頭脳狩り「千人計画」への日本人研究者の参加に結果的にお墨付きを与えることになっていないか。

後述するが、自民党幹部のなかには学術会議と千人計画の関係に警鐘を鳴らす向きもある。菅政権の取り組むべき優先課題の一つであろう。

政府を批判する側には、「選べない任命」を強調する見解もある。内閣総理大臣を任命するのは天皇陛下だが、選ぶのは国会であって、拒否する権利はないという理屈だ。裁判官は内閣が任命するが、選ぶのは最高裁判所であって、内閣に拒否する権限はないという見方もある。

「推薦した候補は全員任命しろ」という傲慢さ

ただ、国会議員は選挙の洗礼を受け、最高裁判所は司法試験や国家公務員試験といった試験にパスした人物らが選んでいる。試験はともかく、学術会議は国民の審判を仰いだことがあるのか。選挙で選ばれたわけでもなく、どんな資格があって国民になり代わり、身内で都合のよい推薦を繰り返してきたのか。国会でおおいに議論したらよい。

学術会議の姿勢も問題だ。学術会議法で首相の任命権が規定されているのに、裁量権はなく、学術会議が推薦した候補は全員任命すべきだという言い分こそ、傲慢である。

任命を拒否された松宮孝明立命館大学教授はテレビ番組に出演し、「ここ(任命)に手を出すと内閣が倒れる危険がある」などと語っていた。野党に菅政権を倒してもらい、よもや再び学術会議に推薦してもらって会員に任命してほしいとは思っていないだろうが、勘違いも甚だしい。

学術会議は「学者の国会」とされているが、政府内に巣食う伏魔殿と化していないか。それが言い過ぎというのなら、「学者の全国人民代表会議」はどうか。会員は立派な業績を残した人格高潔な学者や研究者らの集まりと信じたい。会員のみながみな、このようなタチの悪い学者ばかりではないはずだ。仲間うちで新規会員を推薦し合って仰々しい肩書を手に入れ、よもや歪んだエリート意識に浸ってはいなかろう。

学術会議側のいまの反発ぶりを見る限り、中国科学技術協会との関係見直しや日本の防衛研究への協力検討に舵を切るなどの自浄作用は期待できそうにない。任命権者の菅義偉首相はリーダーシップを発揮し、学術会議の廃止を含め、聖域なき改革に大ナタを振るってもらいたい。

そもそも、日本学術会議の会員になれないことが、なぜ学問の自由の侵害に当たるのか。まったくもって不可解である。会員にならなければ自由な研究ができないわけでもあるまい。自分の所属する大学なり研究機関でおおいに研究すればよいだけの話だ。会員になれない、あるいはなっていない学者、研究者には学問の自由がないとでもいうのか。

もはや誰も必要としていない

学術会議の会員になることによって、自らのステータスに箔をつけたいだけではないのか。そんな疑念にもかられる。実際、学術会議はどれだけ機能し、どれだけ国家に貢献しているといえるのだろうか。活動実態をおさらいしておく。

日本学術会議は「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させる」(日本学術会議法)ことを目的に1949年に設立された。会員210人は特別職の国家公務員という身分だ。年間予算は10億円超で任期は6年。3年ごとに半数が交代する。科学に関する重要事項を審議したり、政府への政策提言を行ったりするのが役割だ。

疑問なのは、勧告や答申の少なさだ。学術会議によると、勧告とは科学的な事柄について、政府に対して実現を強く勧めるものだという。答申とは、専門科学者の検討を要する事柄についての政府からの問いかけに対する回答である。

勧告は、発足当初の1949年から58年の10年間は37、以後百21(59~68年)、63(69~78年)、27(79~88年)とペースダウンし、バブル絶頂期からバブルが崩壊した10年間は8(89~98年)、以降、3(99~2008年)と減り続け、2010年8月の「総合的な科学・技術政策の確立による科学・技術研究の持続的振興に向けて」を最後に、勧告はまったく出ていない。

一方、答申は2001、04、07年の計3回だけだ。もう13年間も出ていない。政府の諮問を受けなければ答申が出ないのは当たり前だ。しかし、これが何を意味するかというと、政府の怠慢が原因というよりも、政府が学術会議を必要としていないことの表れといえよう。

科学的な事柄について、部、委員会、または分科会が実現を望む意見等を発表する提言こそ、最近3年間で80を超える。だが、日本中がコロナ禍で苦しんでいる時に、国家の知恵袋として適切なタイミングで政策提言をしてきたと胸を張って国民に説明できるのかは疑わしい。

裏の顔

勧告や答申の回数以上に問題なのは、学術会議が裏の顔を持っているということだ。先に指摘したとおり、日本の防衛技術に関する非協力的な態度である。むしろ、この分野については、日本政府が進める安全保障政策に対して敵対的だ。どこの国の代弁をし、どこの国のシンクタンクなのかとすら思えてくる。

民間組織として防衛技術に協力したくないのであれば、そう宣言するのも勝手だが、学術会議の会員は特別職の国家公務員である。支給される手当が十分ではないとの不平も聞かれるが、まがりなりにも公金で運営されている。国民の生命と安全を軽んじる姿勢は許されない。

もともと、さきの大戦で軍部への協力を余儀なくされたという反省から設立された経緯があり、軍事的な研究にアレルギー反応を示すのは分からないでもない。

だが、戦後75年経ち、日本の周囲を見渡せば中国やロシア、北朝鮮といった独裁的、権威主義的なゴロツキ国家に囲まれ、隣には慰安婦像を使い、世界中で日本を貶める活動に嬉々として勤しむ団体の背中を後押しする病んだ政権がある。変えるべきは変え、改善すべきは改善するのが当たり前だ。成長した子どもに、いつまでも同じ服を着せようという考え方こそ間違っている。

学術会議のセンセイ方が知らないはずがない事実

だいたい、軍事と民生用の研究は表裏一体であり、線引きは不可能な分野が少なくない。

研究者や学者が、軍事研究を意図しなくても、結果として研究成果が軍事転用されるのは、生物・化学兵器などをみるまでもなく明らかである。いまでは多くの人がコミュニケーションの手段として利用する電子メールやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)も、もともと米軍が軍事目的で研究し、開発した。

その事実を学術会議のセンセイ方が知らないはずがなかろう。戦争を好む者などいない。戦争が起きないよう、抑止力としての軍事技術を磨き、防衛力を整備することが肝要であることは論を俟たない。

学術会議は1950年、「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」と題する声明を出した。67年にも同様の声明を出し、2017年3月にはわざわざ「軍事的安全保障研究に関する声明」で、過去2回にわたり発出したさきの声明を「継承する」と宣言した。

中国科学技術協会と技術協力を目的とした覚書を締結した1年半後のことである。

日本企業の産業技術が海外で軍事転用される

日本学術会議の問題は、図らずも国家の経済安全保障という大事な側面を浮き彫りにした。

自民党税制調査会長の甘利明衆院議員は中国への認識について、「内外に独裁的手法を包み隠さずあからさまにすることで世界覇権を行おうと思う事が驚愕です」と語っている。

さらには、「監視カメラと位置情報と顔認証とAI分析、公安の情報化である金盾システムで、国家監視社会モデルを築きこれをデジタル一帯一路に組み込んで行く、そして一帯一路参加国のデータは全て中国に集まる」2020年8月、甘利明の国会リポート410号)という。

金盾システムは、グレート・ファイアウォールと呼ばれる。目には見えないが、インターネット上に存在する中国国家にとって不都合な情報を遮断する技術のことを指す。言うならば、サイバー空間に広がる中国の万里の長城だ。

甘利氏は党ルール形成戦略議員連盟会長として、2019年5月、経済や安全保障政策の司令塔の創設を求める提言を安倍晋三首相に提出している。米国の国家経済会議(NEC)をモデルに「日本版NEC」を首相官邸に設ける内容だ。米中の貿易摩擦はデジタルや宇宙空間の覇権争いと絡んでおり、司令塔を活かして国家主導で一元的に戦略を立てる中国に対抗する狙いがある。

提言は日本版NECについて首相をトップに外務、経済産業などの各省や警察庁が組み、統一した戦略を練る必要性を指摘した。デジタルや軍事で影響力を強めようとする中国への警戒感が背景だ。巨大経済圏構想「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)、華為技術(ファーウェイ)などを列挙し、国家主導で世界経済の覇権を握る可能性に触れた(日経新聞2019年5月29日付電子版)。

甘利氏は、中国が経済的な手段で他国の外交や企業活動に影響を与える「エコノミック・ステートクラフト」を進めているとし、中国の監視システム「天網」が中国産の測位衛星やドローンの普及に伴い、自動運転車の開発や実用など企業活動や実社会への影響力を強める可能性を指摘。超電導など日本企業の産業技術が海外で軍事転用されるリスクについても警鐘を鳴らしている。

生活費と併せ年収8000万円!千人計画との関係

甘利氏の指摘で注目したいのは、学術会議と千人計画の関係だ。

「日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の千人計画には間接的に協力しているように映ります。他国の研究者を高額な年俸(報道によれば生活費と併せ年収8‘000万円!)で招聘し、研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプランでその外国人研究者の本国のラボ(研究室)までそっくり再現させているようです。そして研究者には千人計画への参加を厳秘にする事を条件付けています」 「(軍民融合を掲げる中国における)民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究に与しないという学術会議の方針は日本限定なんでしょうか」(国会リポート第410号)

一方、加藤勝信官房長官は10月12日の会見で、「学術会議が、千人計画を支援する学術交流事業を行っているとは承知していない」と述べた。

千人計画をめぐっては、本誌月刊『Hanada』2020年9月号で詳しく報告したが、改めてポイントを押さえておきたい。

千人計画とは、ノーベル賞受賞者を含む世界トップレベルの研究者を1000人規模で集め、破格の待遇で中国に招聘する国家プロジェクトだ。言うなれば、最先端技術を中心とした知的財産を米国など諸外国から手っ取り早く手に入れる計画だ。

米捜査当局(FBI)は2020年1月28日、千人計画への参加をめぐって米政府に虚偽の報告をしたとして、ナノテクノロジーの世界的な権威として知られるハーバード大化学・化学生物学学部長のチャールズ・リーバー教授を逮捕した。

この2カ月前の2019年11月には、米連邦議会が「中国の千人計画は脅威である」との報告書を公表している。連邦上院議会の国土安全保障小委員会(共和党のロブ・ポートマン委員長、オハイオ州選出)が超党派でまとめた。

報告書は「中国の国外で研究を行っている研究者らを中国政府が募集する人材募集プログラムにより、米政府の研究資金と民間部門の技術が中国の軍事力と経済力を強化するために使われており、その対策は遅れている」と指摘。

ポートマン上院議員によると、契約書は千人計画に参加する科学者に対し、中国のために働くこと、契約を秘密にし、ポスドクを募集し、スポンサーになる中国の研究機関にすべての知的財産権を譲り渡すことを求めているという。

米ホワイトハウスが出した対中戦略書

中国は次世代通信網5Gや陸海空という伝統的な戦闘空間に加え、サイバーや宇宙、電磁波という新たな空間での世界覇権を目論む。日本はこれにどう向き合っていくのか。この視点なくして日本の明るい未来は描けない。中国科学技術協会との関係強化を図る学術会議だが、こうした現状について見て見ぬふりでは存在意義を問われよう。

米ホワイトハウスは2020年5月、対中戦略的アプローチを発表した。

報告書は対中戦略において、米国は経済覇権、米国の価値観、安全保障の3つの挑戦に直面していると指摘した。そのうえで、自由で開放的なルールに基づく国際秩序を破壊する中国の行動に対して、徹底した現実主義(戦略的競争相手に対して国益を守る)に基づき、日本をはじめとする価値観を共有する同盟国と協力して厳しく対処するとしている。

具体策として、中国の軍民融合戦略を念頭に、AI(人工知能)など新興技術の流出による人民解放軍強化を防ぐため、外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)制定と外国投資委員会(CFIUS)の機能拡大による投資規制強化、輸出管理規制強化に取り組むとしている。

日本などの同盟国に対しても、投資審査の充実と輸出管理政策の協調を呼びかける方針だ。

注目すべきは、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判したことだ。同自治区での人権侵害に関与する政府機関や監視技術を持つ中国企業に対する米国製品や技術の輸出停止を図るため、輸出を禁止するエンティティリスト(米国輸出管理規則)追加措置をとった。

学術会議はこうした米国や世界の動きに呼応し、中身のある提言をしてきたといえるのか。その実態は何ともお寒い限りだ。2020年6月末に施行された国家安全維持法で香港の一国二制度が骨抜きにされ、ウイグルでは人権弾圧が続いている。学術会議として日本政府に対し、中国との関係見直しなど、何らかの勧告や提言があってもよいはずだ。(初出:月刊『Hanada』2020年12月号)

佐々木類

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