「私宅監置」、今に問う 映画「夜明け前のうた」来月3日公開 原監督「人権侵害向き合って」

 精神障がい者らを小屋などに閉じ込め隔離する「私宅監置」をテーマにしたドキュメンタリー映画「夜明け前のうた 消された沖縄の障害者」が4月3日から、那覇市の桜坂劇場で公開される。監督でフリーテレビディレクターの原義和さん(51)は「日本の制度が沖縄に持ち込まれ、米統治下で幽霊のごとく生き延び続けた。重大な人権侵害をなかったことにせず、社会の問題として向き合ってほしい」と問い掛ける。

 私宅監置は日本本土では精神衛生法が制定された1950年に禁じられたが米統治下の沖縄では72年まで残った。目的は「地域の治安維持」。琉球政府トップの行政主席の決裁文書を根拠に各地に木やコンクリートで造られた監置小屋が置かれ、精神障がい者らが劣悪な環境に閉じ込められた。

 原さんの映画制作のきっかけは、64年に撮影された写真との出合いだった。閉じ込められた小屋の中から、鋭い目つきでこちらを見る人たち。各地の私宅監置の様子を収めたその写真の持ち主は、琉球大学などで勤めた精神科医の吉川武彦さん(故人)。日本政府の調査で沖縄に派遣され写真を撮った精神科医、岡庭武さんから譲り受けていた。吉川さんはインタビューに「こんなもの外へ出すわけにはいかない」と答えるが原さんは写真を世に出す決意を強くする。「閉じ込められた人たちにも言い分はある。社会的に消された人々の思いは何年たとうが掘り起こさなければならない」 口外されない“タブー”として地域の罪悪感を覆うようにふたをされた私宅監置の歴史。取材を進めるとさまざまな壁が立ちはだかった。監置された人の家族が見つかるも「帰れ」と怒鳴られることも多くあった。それでも重い口を開き、涙ながらに半世紀前の出来事を振り返る隔離体験者や関係者の証言から、自由や尊厳を奪った私宅監置のありようを浮かび上がらせた。

 琉球政府の私宅監置に関する文書は残っているが、全容は今も闇の中にある。原さんは言う。「家族や地域の問題としてではなく、社会的に隔離してきた側の当事者として、行政が検証する意味は大きい」

 桜坂劇場での上映に合わせ、3月30日から4月4日まで那覇市ぶんかテンブス館で私宅監置の写真展を開く。公開初日の3日は初回上映後に舞台あいさつ、4日は私宅監置を研究する橋本明愛知県立大教授の講演も予定している。

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