ボタンを押せば電車が動く!! JR東日本が常磐線各駅停車で自動運転 ドライバレス運転の可能性を探る(前編)

ダイヤ改正で始まったJR常磐緩行線の自動運転。運転士がハンドルを握るので、利用客には手動か自動かの区別はできないようにも思えます。(画像:JR東日本東京支社)

JR東日本は2021年3月13日のダイヤ改正から、常磐線各駅停車でATO(自動列車運転装置)による自動運転を始めました。同社初めての挑戦で、2021年度に開始する対象線区へのホームドア整備も合わせ、さらなる安全・安定輸送を実現するともに、業務効率化の可能性を探ります。

自動運転は2018年7月に公表した、JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」にトピックスとして盛り込んだ「スマートトレイン」の実践策で、同社は「運行やサービスなど様々な側面から鉄道を質的に変革し、輸送をレベルアップする」とします。運転士がハンドル操作して、速度を上げたり落としたりしながら列車を走らせるという、鉄道の有史以来の仕組みを大きく変える可能性を持つ自動運転、前編では鉄道各社の取り組み、後編では世界や日本の動向を紹介します。

相直のメトロ千代田線は自動運転

JR常磐緩行線の運転区間と自動運転するE233系。(画像:JR東日本東京支社)

常磐線は上野ー仙台間(正式には日暮里ー岩沼間)の在来線で、綾瀬ー取手間は複々線。緩行線を走る各駅停車は、基本的に東京メトロ千代田線と相互直通運転します。千代田線は既に自動運転化済みで、JRから乗り入れるE233系電車(細部は異なりますが中央線や京浜東北線を走る電車と同形です)は千代田線内、自動運転されます。

常磐線には東京メトロや、同じく千代田線と相直する小田急電鉄の車両も乗り入れますが、いずれもATOの運行システムを採用済み(小田急ロマンスカーだけは手動運転だそうです)で、自動運転のトライアルに最適な線区といえるでしょう。

目標速度の算出がATOの心臓部

JR常磐緩行線の自動運転イメージ。ATCの情報をつないでATOの目標速度をつくり出すことが分かります。(画像:JR東日本東京支社)

ATOの仕組みについては、JR東日本東京支社の発表資料をご覧いただくのが一番かと思います。若干の説明を加えれば、鉄道線区は「ここは時速〇〇km、ここからは××km」と最高運転速度が決まっていて、列車を速度通りに走らせるのがATC(自動列車制御装置)です。

これだけなら話は簡単そうですが(といっても列車速度を同調させるには、複雑なシステムが必要ですが)、速度通りに運転すると、どうしても急な加減速の繰り返しでカクカクした運転になりがち。乗り心地に悪影響を与えます。

カクカク運転を回避するのが、図にオレンジ色の点線で表記されたATO目標速度。あらかじめ設定された区間の最高速度や制限速度から、車上のコンピューターでなめらかな加減速曲線を描き出し、最終的には駅の定位置に停止させます。それこそがATOの中核の技術といえるでしょう。

2つのボタンを押すだけ

ダイヤ改正に合わせて始まった、常磐線の自動運転を実地に見ましょう。導入区間は常磐緩行線(通称)の綾瀬ー取手間全線で、詳細は後述しますが、同区間へのホームドア整備と一体化して輸送の安全・安定性向上を図ります。

JR東日本の車両で常磐緩行線を走るのは10両編成のE233系電車で、運転士は発車時に2つのボタンを同時に押すだけ。列車はスムーズに動き出し、駅に近付くと自動で減速、停車します。理論的には運転士は手放しでもOKですが、実際には常にハンドルに手をかざして(軽く握って)、異常時に備えます。先行列車が詰まっているなど、駅間で列車が停車した場合は手動運転に切り替わり、次駅の発車時から再び自動運転に入ります。

いいこと尽くめの自動運転にも、課題はあります。課題というよりテーマと呼ぶのが適切と思いますが、それは運転士の技術力維持。自動車も同じですが、鉄道の運転は経験の積み重ねの性格が強いので、年がら年中自動運転だと、いざという時に対応できない可能性も否定できません。個人的には心配無用と思うのですが、JR東日本東京支社は定期的に運転士の手動でも運転するそうです。

自動運転とホームドアはクルマの両輪

JR東京支社は常磐緩行線で、ホームドア整備にも乗り出します。4月からの2021年度には、北松戸―北柏間の7駅への導入を予定します。

スケジュールは、7月ごろ馬橋駅、10月ごろ北小金と北松戸の2駅、年末に南柏、柏、北柏の3駅、2022年2月ごろ新松戸に整備します。柏と新松戸の両駅は従来型のホームドアですが、ほかの5駅に採用するのが、グループのJR東日本メカトロニクスが開発した「スマートホームドア」。残る亀有、金町、松戸、我孫子、天王台、取手の6駅は2022年度以降に整備します。

スマートホームドアは2016年末、JR横浜線町田駅に導入されたのが第一号。通常のホームドアは、いかにも重量がありそうなドア部が左右にスライドしますが、スマートドアは開口部を簡素なフレーム構造にして軽量化しました。開口幅は2.8mに広げ、電車の停車位置が多少前後にずれても対応できます。ホームドア設置駅では、決められた範囲内に列車を停車させる必要があるわけで、自動運転とホームドアは非常に親和性の高い技術というか設備といえるでしょう。

※編集部注:JR町田駅のスマートホームドアは新しいホームドアに取り替え中で、開口幅2,000mmのものになる予定です。

鉄道事業を質的に変える

JR東日本の「変革2027」にトピックスとして登場したスマートトレイン。サービス、安全、環境、運行、保守を一体化して次世代の鉄道システムを構築します。(画像:JR東日本)

本稿の最初に、JR東日本がグループ経営ビジョン「変革2027」のトピックスとして「スマートトレイン」を取り上げ、実践策の一つとして自動運転(変革2027では「ドライバレス運転」)を打ち出したことを紹介しました。ここではスマートトレインとは何か、自動運転がなぜ実践策なのか考えてみましょう。

JR東日本の資料では、鉄道事業の質的な変革をスマートトレインと表現します。鉄道は当たり前ですが、レール上を車両が走って人やモノを運ぶ公共交通機関です。運転士が前方の信号を見て、安全を確認しながら列車を走らせるのが運行の基本です。

確かに歴史に裏打ちされた非常に確実性の高いシステムといえますが、一方でICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)が進歩する現代にあっては、もっと効率化した手法で同程度、あるいはレベルアップした安全・安心が確保できれば、利用客へのサービス向上にもつながるという論理です。

同じ交通分野で、自動車は自動運転が実用化間近。近未来にはガソリン車が販売禁止になって、オールEV(電気自動車)化するといわれたりします。そうした時代に鉄道が旧態依然とした運行スタイルでは、「鉄道は時代遅れの乗り物」の誤解を与えかねない。もちろん少子高齢化で、いわゆる現役世代が減少し、効率化しないと事業が継続できないという現実的な理由も大きいと思いますが……。

いずれにしても、JR東日本の自動運転が広がりを見せるのか、これからも関心を持ちましょう。

JR九州は自動運転システム

JR九州の香椎線自動運転では、819系(DENCHA)電車1編成2両を使用します。(画像:JR九州)

ここからは、JR東日本以外の自動運転を駆け足で。JR九州は、自動列車停止装置(ATS)を基盤にする、全国初めての自動列車運転システムの開発に取り組みます。

これまで鉄道の自動運転システムは自動列車制御装置(ATC)をベースに開発されてきましたが、JR九州の在来線の多くはATS線区で、ATCへの換装には多額の設備投資が必要。そこで同社は、鉄道総研や日本信号との共同研究で、ATSベースの自動運転システムを構想しました。

ATSは一口で言えば、ATCの一段前の信号保安システム。一般に、ATCがレールを介して速度などの情報を連続的に車両に伝達するのに対し、ATSは地上子(線路内に設置する、走行中の車両に情報を送る無線装置)の点を車上でつなぎながら速度制御する(必要時に列車を止める)仕組みです。ATSベースのJR九州の自動運転システムは地上子を増やして、きめ細かく車両に情報ほ送る、いわば点をつないで線を描くように列車を走らせます。

ATSとATCの違いを示すJR九州の自動運転の発表資料。ATS-DKはAutomatic Train Stop-Digital Kyushuの略で、簡単にいえばATSのJR九州バージョン。自動列車停止装置に停止(赤)信号時の冒進を防ぐ機能を強化し、速度超過を防ぎます。(画像:JR九州)

JR九州は2020年12月から、香椎線西戸崎―香椎間で実証実験。2021年度末までに、今回と同じく運転士が乗務する状態で、ATSをベースにした自動列車運転装置による営業運転を香椎―宇美間に拡大、対象列車も増やす計画です。

都営地下鉄大江戸線や大阪メトロ中央線も

鉄道のタイプ別では、地下鉄事業者が自動運転システムの採用に力を入れます。東京都交通局は、都営地下鉄大江戸線に無線式列車制御システム(CBTC)を2026年度を目標に導入、自動運転機能の採用を構想します。

大阪メトロは2019年に発表した、2025年度までのグループ中期経営計画で、2024年度中に地下鉄中央線の延伸区間に当たる阿波座―夢洲新駅(仮称)で実証実験を始めるスケジュールを公表しています。

文/上里夏生

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