【地方で輝く人】“エンジニア一筋35年” 第二の人生は観光いちご園でいちごと笑顔を作ること

琵琶湖の東岸に位置する滋賀県近江八幡市、古くは城下町として栄え、近代では商業の街として発展してきた歴史豊かな街である。織田信長が築城した“安土城”があった安土駅前より車で約10分、ここに2019年12月観光いちご農園が開園した。その名は“とよさんファームいちご園”。
開園したのは豊永正行さん、当時53歳。高校卒業後はエンジニア一筋35年だった豊永さんが、第二の人生を歩むための職業として選んだ観光いちご農園、そこに至るまでの豊永さんの想いと描く未来図に迫る。

【農との出会いから農のある暮らしに向けて】

高校卒業後にエンジニアとして働いていた豊永さん、結婚し子供も二人授かり順風満帆の暮らしのようだったが悩みがあった。「趣味がなかったんですよ。仕事のやりがいはありましたが、職場と家の行ったり来たりの生活になってて」と話す。転勤に伴い滋賀県の大津市に新居を構えた時にとある募集が目に留まった、それが市民農園の利用者募集だった。エンジニアとして働いていたこともありものづくりには興味があった豊永さん、いい趣味になればと申し込んだ。

「それが農との出会いだったのですが、そこから家庭菜園にどっぷりハマりましたね。うまく出来た時の達成感もあれば、うまく出来なかった時の学びがある、さらに体を動かすので健康的でもありますしね。途中東京に単身赴任した時期があり、その時は畑ができませんでしたが『畑やりたいなー』とうずうずしてたくらいですよ(笑)」と話す。

50歳を超えて第二の人生を意識するようになった際にも、“農業”は頭の中に常にあったと話す豊永さん、情報収集の為に訪れた農業人フェアで大きな出会いがあった。「いわゆる“半農半X”で農のある暮らしをしたいと考えていた時のことです。どんな農業スタイルがあるのだろうかと情報収集に訪れたのですが、週末に学べる農業学校が出展していたんです。今までは勘と経験だけで家庭菜園をしていたのですが、生業にするにはやはりしっかりと学ばないといけないと思い、入学を決めました」

平日はエンジニアとして働き、休日は農業を学ぶ、慌ただしい1年だったが充実していたと話す。「学ぶことも楽しかったですし、何より農を志す仲間と出会えたのはよかったです。今でも情報交換したり手伝いに来てもらったりしてます」と笑顔で振り返っていた。

農業学校の仲間。今もよく手伝いにきてくれるという。一番左が豊永さん。

【まさかの農地取得?!開園までの怒涛の道のり】

少しずつ将来のビジョンを考えていた豊永さん「農業をするならいちごがいいと考えていました」と話す。「いちごは嫌いな人はいないですし、初期投資は必要ですが収益は安定すると考えました。また家庭菜園で毎年いちごを作っていたのですがうまくできませんでした。家庭菜園は露地での栽培だったので難易度は高かったのですが、技術者の考えなのか、うまく出来なかった作物だからこそうまく作りたいと逆に燃えるんですよね」。

就農に向けた情報収集の一環として滋賀県内でのいちごの現況を知りたいと考えた豊永さん、実際にいちご栽培されてる方をインターネットで調べてアポイントを取りお話を伺うと、そこでまさかの展開が待ち受けていた。

「となりのハウス空いてるから使ってみるか?」

師匠との突然の出会いだった。豊永さんは一瞬躊躇したが、農業学校の仲間や先生にも相談すると「そんなのやるしかないやろ!」と後押ししてもらった。一般的に新規就農で一番苦労するのは農地の取得である。それもいちご農園に必要なハウス付きとトントン拍子に話が進んだ。豊永さんは「本当に幸運だった」と話すが、その熱意が引き寄せたのだろう。

初めて師匠にお会いしたのが2018年の11月初旬、就農することを決め35年勤めた会社を退社したのが12月末、2019年末にいちご園をオープンさせるためにはいちごの苗場を3月までに作らないといけない、まさに怒涛のようなスケジュールだった。「急な事だったので会社に退社することを伝えると驚かれましたね。いちご農家になると言うとさらに驚かれました(笑)。それでも最後は応援して送り出して頂けましたね。そこからは本当に怒涛の日々でした。物置のような状態でしたのでまずは片づけをし、ガラスの修繕や水道配管を通したり、結局苗つくりが間に合わず急遽別の苗場を師匠に用意してもらったりと、また農業学校の仲間にも手伝ってもらい何とかオープンに漕ぎつけました」。

2019年12月とよさんファームいちご園が開園、この名前は豊永さんのニックネームである“とよさん”と、温かい空間の中心にある真っ赤な美味しいいちごを太陽(SUN)と表したことから名づけている。

【観光いちご園を開園して】

生産農家ではなく観光農園の形態を選んだ豊永さん、ここにも強いこだわりがあった。「師匠が直売型の農園でしたので、私が観光農園をすることで集客を手伝えるというのも理由としてありましたが、やはり“人を直接喜ばせたい”ということが根本としてありました」と話す。但し集客方法に明るかった訳ではなくオープン当初は苦労していたとのことだが、ここでも農業学校の仲間が助けてくれた。「オープン直後にみんなで遊びに来てくれて、いろいろ発信を手伝ってくれました。本当にいい仲間に恵まれました」。

また根っからのサービス精神旺盛な豊永さん、とりあえず来てくれた方が楽しんでもらえるために何でもしたと話す。「今はインスタ映えが大事だと娘に言われまして、被り物も手作りで作りました。またパフェ作り体験を実施したり、いちごをふんだんに使用したジェラートを開発したりと、少しでもお客様が喜んで頂けるような工夫をしました。『いちご農園ってこんなに楽しいんだ!』とお客様が言われたときは本当に嬉しかったです」。

新型コロナウイルスの流行により県外からのお客様を一時期お断りするなど想定外のこともあったが、1年目から集客は順調に推移していったとよさんファームいちご園、しかし順調に集客が進むことによって別の問題が起きてしまう。「おかげ様で多くの方からお問い合わせを頂くようになりましたが、その一方でいちごの生育状況やその時の集客の状況により予約をお断りしないといけなくなりました」と豊永さん、一度お受けした予約をキャンセルしてもらう連絡をする時は特に辛いと話す。「電話越しからも残念そうな雰囲気が伝わってきます。農業という自然の影響を強く受ける事業である以上は一定仕方ないことでもありますが、本当に申し訳ない気持ちになります。少しでも残念に想うお客様を減らしていきたいと思ってます」。

そこで出来る限り多くの方に楽しんで頂けるように、ハウスを一棟増築する予定だという。「いちごは“第一果房と第二果房”“第二果房と第三果房”の間の時期などはどうしても境が出来てしまう。二棟あるとうまく時期などをずらしながら、常にいちご狩りが楽しめる状況を作ることが出来ます」と話す。資金集めとファン作りの一環としてクラウドファンディングも実施中だ。

オリジナルパフェつくりやジェラートも好評だ

1棟増やす為のクラウドファンディングに挑戦中だ(2021年4月15日に終了予定)

【未来へ向けて】

「移動いちご園をしたいんです」と豊永さん、今はまだ想像の域だと話すがそこには強い意志が感じられた。「移動動物園や移動図書館などあるじゃないですか?それのいちご園版をしてみたいんです。今は新型コロナウイルスの影響もあり、なかなか遠出もできない人が増えてきている。特に年配の方やハンディの抱える方などが身動きをとりにくくなっている。そのような方々に楽しんで頂けるような取組をしたいんです」と話す。現実的には栽培技術や手間、必要経費等クリアにしないといけないことも多いが、豊永さんは「このどんよりした今の情勢だからこそ思いついたことでもあるので、是非実現させたい」と意気込む。

また、今後はいちごだけでなくブルーベリーやさつまいも、落花生等の収穫体験もしていきたいと話す。「どの季節だろうと『とよさんファームに行ったら何かやってるぞ』と思ってもらえるようにしていきたいですね。またカフェスペース等も作って、地元の方々が気軽に集まるコミュニティスペースのような役割も果たしたいですね」。

いちご園をする前は“半農半X”をしたいと考えていたが「完全に“全農”になっちゃいましたね」と笑う豊永さん、人が笑顔になることが一番好きだと話す。その笑顔がいちご園の中に留まらず地域へ、そしてもっと広い範囲に広がっていくだろう。今後のとよさんファームいちご園の取組が楽しみである。

被り物をして記念撮影

品種は章姫。酸味が少なくクセのない甘みが特徴だ。

サービス精神旺盛な豊永さん。被り物をしてお客様と写真撮影。

≪とよさんファームいちご園の基本情報≫
住所:〒521-1332 近江八幡市安土町東老蘇2079
電話:080-8421-1125
営業時間:10時~16時(月曜定休)
※いちご狩りは12月~翌5月中旬までとなります。ご予約は「公式Instagram」または「じゃらん観光ガイド」よりお願い致します。

とよさんファームいちご園 Instagram:https://www.instagram.com/toyosunfarm_itigoen/?hl=ja
とよさんファームいちご園 じゃらん観光ガイド:https://www.jalan.net/kankou/spt_guide000000207891/
とよさんファームいちご園 クラウドファンディングサイト:https://agrissive.com/shop/g/g0300/

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