女子野球は“130キロ”時代目前… あと2キロに迫る森若菜が球速にこだわる訳

エイジェック女子硬式野球部・森若菜【写真提供:NPBエンタープライズ】

エイジェック所属の22歳右腕が挑む「女子野球界最速135キロプロジェクト」

日本女子野球界で前人未到の地を目指す人がいる。クラブチーム・エイジェック女子硬式野球部でプレーする森若菜だ。22歳の右腕が目指すのは、球速130キロの世界。日本の女子野球選手では、まだ誰も越えたことのない壁の向こうが見えるまで、あと一歩に迫っている。

現在、日本で女子最速記録を持つのは、この春から西武ライオンズ・レディース入りする左腕・山田優理だ。尚美学園大2年だった2018年に129キロをマーク。実はこの少し前、128キロを叩き出していたのが、山田と同い年の森だった。

「山田投手が投げたのは球速が出にくいといわれる球場だったので、少し悔しい気持ちもありました。でも『ウワッ、ヤバイ! 抜かさなきゃ!』という気持ちが一番強かったですね」

球速に対して持つこだわりは強い。「球速は私の中では1番、2番に来るような目標です」と力強く言い切る。山田に抜かされて以来、130キロを目標に掲げてきたが、最近になって目標を少し変えてみた。

「私が目指すのは『常時130キロを投げられるピッチャー』なので、130キロを目標にすると『出た、やったー!』で終わってしまう。だから、目標を5キロ上げて135キロにしました」

女子プロ野球を経て昨年から所属するエイジェックでは、広橋公寿監督やコーチ、トレーナー陣の協力の下、「女子野球界最速135キロプロジェクト」を立ち上げ、目標を達成できるように体の使い方から徹底的にアプローチ。冬のオフシーズンには、肩関節や股関節の柔軟性や体幹などを意識した特別メニューに取り組んだ。

その甲斐もあり、まだ寒さが残る2月、3月に行われた練習試合ではネット裏のスピードガンで125キロを計測することも。「私の計画の中では、春までに125キロが出れば、夏に向けて暖かくなるにつれて体の可動域も広がって、もうちょっと球速が伸びるんじゃないかと」と、青写真に描いた通り、順調にステップを踏んでいる。

なぜ球速にこだわるのか。それは、自分自身はもちろん、女子野球が持つ可能性に限界を設けたくないからだ。

「いずれは140キロを目指したいと思っています。高い目標ですが、それは絶対に無理だろうとはならずに、女の子でも男の子のようなパワーで投げたり、スピードを出せたりする可能性はあるはず。男子のプロ野球選手に負けないような女子野球選手がいるぞ、となったら面白い。130キロを1球でも投げれば、日本で一番速い女子選手は森だ、となる。130キロに近い球を投げ続けていれば、女子でもいつかは出ると思ってくれる人も増えるので、私が一番先に130キロを出したい。というか、出します!(笑)」

観客が「どこから見ても『これは速い!』というボールを投げたい」

今、森が球速アップに向けて1つのバロメーターとしているのが遠投だ。遠投と球速には相関関係があるという話を耳にしたことがあるという。

「遠投を100メートル投げられたら球速130キロで投げられる、という研究があるそうです。それを聞いた瞬間、『じゃ私、100メートル投げます』と、言いました(笑)。去年遠投した時は93メートルだったので、あともう少し。100メートル投げられたら130キロが出ると信じて、頑張っています」

130キロの壁を越えたら、常時130キロを投げられる投手を目指す。その想いは、1人のアスリートとして持つ高い意識に支えられている。

「試合を見に来てくださった方々が『これが130キロか』と残念がるようなピッチングはしたくない。やはり横から見ても後ろから見ても、どこから見ても『これは速い!』というボールを投げたいと思います。球速にこだわることは誰でもできることではない。今、私は22歳ですが、30歳近くまで現役を続ける選手もいて、負けていられないなという気持ちになります。若いうちにいろいろと挑戦して、現役中は130キロ以上を投げ続ける投手になりたいと思っています」

前人未到の道を歩む上で、チーム内にうってつけの見本がいる。男子選手と同じ土俵に上がり、米独立リーグでもプレーした“ナックル姫”こと吉田えりだ。吉田が経験した数多くの「初めて」について話を聞きながら、参考にしているという。女子野球のために、先輩から受け取ったバトンを次に繋いでいきたい。だからこそ「自分が130キロを出して、今後の日本女子野球を背負っていく女の子たちに『こういうことをやったんだよ』と伝えていきたいです」と話す。

追い求める130キロの世界まで、もう一息。男子が160キロ、170キロを目指すのであれば、女子だって130キロ、140キロを投げられる日は来るはずだ。

「130キロを投げて、(女子野球界の)大谷翔平選手と言われるように頑張ります!」

近い将来、女子野球界にとって新たな扉を開き、その可能性を大きく広げてくれるはずだ。(Full-Count編集部)

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