バットの音の高低を聞き分ける― 巨人坂本ら支えるメーカー担当者の仕事とは?

「SSK」のバットを手にする巨人・坂本勇人【写真:荒川祐史】

バットの重さを測り、木の密度を音で聞き分ける…野球用具メーカーSSK岩元正さんの仕事に潜入

昨年プロ野球史上53人目の通算2000安打を達成した巨人・坂本勇人内野手。将来的な3000安打到達を影で支えているのが、坂本がプロ3年目の2009年からアドバイザリー契約を結ぶ野球用具メーカー「エスエスケイ(SSK)」の担当者・岩元正さんだ。今回は野球用具メーカーとしての職人技や過去の失敗談、仕事のやりがいに迫った。【小谷真弥】

岩元さんは例年1月下旬にキャンプ地入り。春季キャンプでは練習を見て、選手と話をして、よりよい道具の提供に努める。岩元氏のバットの品質チェックは徹底したものだ。バットの重さを1本1本測り、次は木の密度、木目をチェック。手のひらの下の部分でバットをたたき、音の高低を聞き分ける。

「バットを覆うビニールに全部1グラム単位で重さを明記しています。次に音の高い方、木目を見てから順番を付けます。試合中バットが折れた時に、選手が、どのバットを使えばいいか迷う時があるんです。メイプル素材はそんなに音の高低に違いはないんですが、選手が使いやすいように順番をつけています」(音は形状や乾燥によって異なるため、それだけでバットの良し悪しは判断できない)

バットの木目やバランスにも目を光らせる。音の高低もごく僅かな違いしかない。「(バット工場から)10本入荷しても選手へ持っていくのは5本か6本ぐらい。音が高くなかったりとか、木目や全体のバランスが違うなと思ったら、担当者の段階で外しています。これは長年の経験です」。まさに“職人技”だ。

巨人・坂本勇人が使用する「SSK」のバット【写真:荒川祐史】

過去には失敗も…巨人先発三本柱・槙原寛己氏から「こんなの振れないよ」

93年から巨人を担当し、現在は坂本のバットをはじめ、岡本和真内野手、桜井俊貴投手らの用具を担当している。かつては失敗もあった。1990年代に巨人先発三本柱を形成した槙原寛己氏へ公式戦で使用するバットを納品した時のことだ。

「バットを倉庫に保管していたんですが、梅雨の時期で910グラムのバットが940グラムになってしまったんです。それに気づかずに渡してしまった。(槙原氏から)『こんなの振れないよ』と。(野球用品メーカーとして)やばいと思いましたよね。あらかじめバットの重さを測って、倉庫には保管していたんですが、ビニール袋に入れず、長時間そのまま置いていたのが原因でした。今では厚いビニールに入れているので、バットに水分が入り込むこともないので問題ないと思いますが、車のトランクの中でバットの重さが変わることもありました。バットは生き物。ちょっとでも気を抜くと重さが変わってしまうんです」。そんな失敗談も今の仕事に生かされている。

岩元さんは大学まで野球選手だった。しかし、この仕事を始めてからは試合の見方も変わったという。「試合展開よりも道具に目がいってしまいます。職業病ですね。どんなアマチュアの試合でもメジャーでも、道具に目がいってしまいます」と苦笑いする。「日々の刺激もあるし変化もある。(野球用具に)日々の変化があるかと言われたら、私はあると思っています。他の仕事は出来ないですね」。野球用具を扱う“プロ”も華やかなプロ野球の世界を支えている。(小谷真弥 / Masaya Kotani)

© 株式会社Creative2