【角田裕毅F1バーレーンGP密着】安堵と悔しさが込み入る9位入賞。王者とのバトルは「ちょっとエモーショナルな瞬間」

「レースを終えた、いまの気持ちは?」と尋ねると、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)は「50%ホッとした気持ちと、50%悔しい気持ちです」と語った。

 緊張はしていない様子だったが、F1という舞台で緊張していなかったと言ったら嘘になる。好きで選んだモータースポーツの道。4歳でカートに乗り始めた子供は、7歳のとき富士スピードウェイでF1を観戦し、最高峰のカテゴリーであるF1を夢見て、腕を磨いた。

 その少年の目の前でレースをしていたのが、当時ワールドチャンピオンとしてマクラーレンをドライブしていたフェルナンド・アロンソ(現アルピーヌ)だった。またその年にワールドチャンピオンを獲得するキミ・ライコネン(現アルファロメオ)も跳ね馬を走らせ、2010年から4連覇することになる若かりし日のセバスチャン・ベッテル(現アストンマーティン)の姿もあった。

 その3人の王者は、いまなお現役として活躍。憧れだった名王者とともに、デビューレースをスタートさせようという角田に、いつもと違う感情がこみあげてきていても不思議はない。

2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 それが焦りにつながったのか、「蹴り出しは良かったのですが、その後、ホイールスピンさせてしまってダメでした」というスタートになってしまった角田は、1コーナーまでにポジションを落としてしまった。

 さらに集団のなかに飲み込まれた角田は「最初の周に他車と接触してフロントウイングとかを痛めないように」と、少し慎重になりすぎてしまい、本来の思い切りのいい走りが鳴りを潜めてしまった。しかし、そんな姿勢でモータースポーツの頂点であるF1で勝負ができるわけがない。

「少しディフェンシブになって、あまりアグレッシブな走りができなくてポジションを落としとすぎてしまった」という角田は、1周目のコントロールラインを15番手で通過して行った。

 しかしポジションを落としたことで、この後、角田は貴重な経験をする。それは、あの富士スピードウェイで見ていたドライバーたちとのバトルだ。最初はベッテル。9周目に今年からアストンマーティンに移籍した元4冠王者をパスした角田は、26周目に2018年以来3年ぶりにF1に復帰したアロンソをオーバーテイク。最後は38周目。現役最年長のライコネンとのバトルはポイント圏内を賭けた戦いだった。

「僕にとっては、幼いころから見てきたスーパースターだったので、ちょっとエモーショナルな瞬間でした」

2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)がセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)に追いつく

 3人の王者をパスした角田に、もうレーススタート時の消極的な気持ちはなかった。「ひとつ前の9番手を走行するランス・ストロール(アストンマーティン)に追いつけるぞ」とレースエンジニアのマティア・スピニに無線で告げられると、徐々にその差を詰めていくも、なかなか抜けない。しかし、「まだ少し差があったけど、ここでオーバーテイクを仕掛けなかったら、今晩は寝られない」とファイナルラップの1コーナーで思い切って追い抜きを試み、見事成功。9位でフィニッシュした。

 デビューレースでの入賞は、日本人として初めて。最近でもランド・ノリス(マクラーレン)、ジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)、シャルル・ルクレール(フェラーリ)といった有望な若手ですら達成していない快挙だった。手に汗握る優勝争いとともに、2021年のバーレーンGPはとんでもないルーキーが誕生したレースとして記憶に残るかもしれない。

2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

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