倉敷商業高等学校 書道部 〜 「文字の力」を書道パフォーマンスと社会貢献活動を通じて伝える、地域に根ざした商業高校

書道部と聞いて何を連想しますか?

静かに書をしたためている印象を持つかもしれません。

「習字」とは異なり、書道は毛筆と墨を用いて、漢字や仮名文字を芸術的に表現する芸術といわれています。

  • 書道パフォーマンス

これらに力を入れているのが、岡山県立倉敷商業高等学校(通称:倉商)の書道部です。

全国トップクラスの強豪校であり、令和元年度の第28回国際高校生選抜書展(書の甲子園)は中国地区優勝。

同校の野球部が第92回選抜高等学校野球大会への出場を決めていたため、史上三校目となる自校プラカードを揮毫(きごう:毛筆で文字や絵をかくこと)しています

しかし、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、選抜高校野球も中止となり、書道パフォーマンスも行えなくなりました……。

この記事では、倉敷商業高校書道部の活動と、2021年3月1日に卒業式を迎えた書道部生徒たちの、3年間を駆け抜けた想いを紹介します。

岡山県立倉敷商業高等学校 書道部とは

岡山県立倉敷商業高等学校(以降、倉商)書道部は、「書は人なり」を活動目標に、部活動を通じて一人ひとりが成長し充実した高校生活を送れるように活動しています。

2021年3月現在の部員数は43名(1年16名、2年16名、3年11名)。

  • 国際高校生選抜書展(書の甲子園)
  • 書を通じた社会貢献活動「倉書プロジェクト」

書にまつわる、さまざまな活動を行なっています。

戦績多数!全国トップクラスの強豪校

「書道」と聞くと地味な印象を持つかたもいるかと思いますが、倉商書道部の活動は多岐に渡り、そのすべてで好戦績を収めています。

実は全国トップクラスの強豪校なのです。

令和2年度(2020年度)の戦績は以下の通り。

倉敷館に展示されている、「日本遺産かるた」読み札(2021年3月現在)

平成28年度(2016年度)から令和元年度(2019年度)までの戦績が、気になるかたは見てください。

第92回選抜高等学校野球大会で、自校プラカードを揮毫(きごう)

令和元年度は第28回国際高校生選抜書展(書の甲子園)で中国地区優勝を獲得。

また、倉敷商業高校は野球部が有名で、第92回選抜高等学校野球大会への出場を決めていたため、史上三校目となる自校プラカードを揮毫(きごう)しました

揮毫(きごう):毛筆で文字や絵をかくこと

しかし、2020年3月19日開催予定だった選抜高校野球は新型コロナウイルス感染症の拡大をうけて中止になり、プラカードが甲子園で披露されることはありませんでした。

自校プラカードの揮毫に関するエピソードは、記事後半のインタビューで紹介します。

倉商書道部の主な活動

倉商書道部は大会などへの参加はもちろん、地域に密着した活動も幅広く行なっています。

主な活動は以下の2点。

  • 書道パフォーマンス

それぞれについて簡単に紹介します。

書道パフォーマンス

写真提供:倉商書道部

「書道」といえば静かなイメージが筆者にはありました。

そのイメージをガラッと変えたのが、書道パフォーマンスです。以下のような特徴があります。

  • 複数人で1つの作品を作りあげる
  • ダンスなどパフォーマンスを「見せる」側面もある

代表作といえるのは、平成30年7月豪雨で被災した真備町の復興をテーマにした「祈り」です。

第5回イオンモールカップ高等学校書道パフォーマンスグランプリ中四国大会決勝大会で準優勝を獲得し、来場者に感動を与えました。

しかし、2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、書道パフォーマンスの大会は軒並み中止となります。

このため、倉商書道部の生徒たちも2020年1月以来、練習ですらパフォーマンスができない状況が継続しているのです

令和3年(2021年)2月時点の情報

倉書プロジェクト

平成30年7月豪雨の発災をきっかけに、書を通じての復興活動・メッセージの発信活動を「倉書プロジェクト」と称して取り組んでいます。

主な作品は、倉敷駅地下道アートギャラリーで3年連続して展示された3部作、「今を生きる」「明日へ」「願い」です。

▼今を生きる(2018年)

写真提供:倉商書道部

▼明日へ(2019年)

写真提供:倉商書道部

▼願い(2020年)

写真提供:倉商書道部

華々しい戦績とともに、地域に根ざした商業高校として社会貢献活動に意欲的に取り組んでいる倉商書道部。

しかし、2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、書道パフォーマンスなど対外活動はもちろん、「部活動」としても多くの制限を受けました。

そんななか、できる限りの活動を行なった書道部3年生の生徒11名と顧問の梶谷純子先生へ、卒業式直前の2021年2月27日に3年間の活動の振り返りと、今思うことを聞きました。

倉商書道部3年生11名と顧問の梶谷純子先生インタビュー

倉商書道部の3年生11名

インタビュー開始にあたり、倉商書道部に入部した理由を質問しました。

「倉商書道部を目指してきた」という生徒は、なんと0人。

倉商に入ったらたまたま書道部があった、友達と一緒に入部したという理由ばかりでした。

中学までに書道を経験した生徒はいますが、高校から始めた生徒もおり、3年間を11名で駆け抜けました。

コロナ禍の活動について

──倉商書道部は全国トップクラスの強豪校ですし、今回卒業する11名は残ったメンバーという感じなのでしょうか。

梶谷──

実はやめた子がいないんです。3年間ずっとこの11人で崩しませんでした。

部内でオーディションとかして、もっとうまい子を入れれば強いチームになったかもしれません。しかし、この11人でやることにこだわりました

──11人にこだわった理由はあるのでしょうか。

梶谷──

上手とか下手じゃなくて、1個のものを作りあげるのが大切だと思っているからでしょうか。

多分、チームを入れ替えたりしていたら、脱落者が出たかもしれません。

「この11人で何か作りなさい」という課題を、1年生から投げかけ続けてきました。

──コロナ禍で高校書道パフォーマンスグランプリが中止になるなど、例年とは違う活動で悔しかったこともたくさんあったと思います。
そんななかで、一番印象に残ったエピソードを教えてください。

書道部3年生──

パフォーマンスの大会に向けて準備していたけど、中止になってできなくなったことが悔しかったです。

結局3年生になってから、1度もできなかったんです。2020年1月が最後ですね。

パフォーマンスは先輩がたに指導してもらうことが多かったのですが、大会自体もなくなったし、そもそも外部のかたが学校に入れなくなったので、まったく何もできなかったです……。

なので、私たちも後輩、とくに1年生とはほとんど関わりを持つことがありませんでした。

2020年12月にパフォーマンスの動き方とかを教える機会があったんですけど、それで初めて話をした感じで。

そのかわりに、個人作品の部分でそれぞれ賞をとったり、別のところで頑張ろうと思って頑張ってきました。

──パフォーマンスの練習はできなかったけど、個人活動は増えた感じ?

書道部3年生──

いえ、そうでもないです。むしろ少なかったかな……。

時期にもよりますが、部活の時間が「2時間」とか決められてしまったので。

「倉書プロジェクト」の活動について

──みなさんが1年生の時に発災した「平成30年7月豪雨」と、その後先輩たちが取り組んでいた「今を生きる」の制作を見て感じたことはありますか。
その後、みなさんは3年間「復興支援」をキーワードに活動することも多かったと思いますが、印象に残ったエピソードはありますか?

書道部3年生──

災害支援といえば、災害が起こった現地に行って何かするみたいなイメージを持っていたんです。

ただ、先輩がたが書いて・展示してみたいな間接的なボランティア活動をしているのを見て、それで元気づけられた人がいることがわかり、「こういうやり方もあるんだ」と知ることができました。

もう1つ、実際に「祈り」のパフォーマンスを見たかたから手紙をいただいて、「自分たちが活動することで想いが伝わって、それを見た人が元気になってくれる」ことを知れたんです。

「つらいことがあったけど、そればかり考えず、前に進んで行こうよ」

というメッセージを伝える力が、文字にあるんだと実感したので、以来「文字の力」を伝えたいと思って活動するようになりました。

──苦労したことはなんですか?

書道部3年生──

「祈り」のパフォーマンスは本当に大変でした。

──パフォーマンスはどんな流れで決めて行くんですか?

書道部3年生──

  • テーマを決める
  • 曲が決まり
  • 動きを決める

みたいな流れですね。顧問の先生も含めて、みんなで話し合って決めます

通常岡山県予選が10月あたりにあるので、夏休みに内容を決めて練習して、決勝まで残れば翌年の1月くらいまで、磨いていく感じです。

梶谷──

私が別にパフォーマンスのプロではないので、意見は出しますが、一緒に決める感じだと思いますね。

選抜高校野球の自校プラカードを揮毫について

──史上三校目となる自校プラカードを揮毫(きごう)したことに関してエピソードがあれば教えてください。

書道部3年生──

目立つことは苦手なので、自分から手を上げるようなタイプじゃないと思ってます。

ただ、野球部はすごい成績を残して、私たちも戦績を残して、みんな頑張ったからこそ自校のプラカードを書かせていただくという滅多にない機会が巡ってきたんですよね

3校分書けたんですけど、そのなかでも「倉商は自分で書いてやる」って思って、取り組みました。

「迫力のある字を書いたぞ」っていうのを自信にして、さらにそれがテレビで見られたらうれしいなと思って頑張ったんです。

──あのプラカードは今どこに?

書道部3年生──

わからないです。毎日新聞社かな?

もともと返却されるものではなく、テレビで見て終わるものらしいですけど。

3年間の書道部活動で得たこと

──みなさんは1年生の時に災害があり、3年生の時は新型コロナウイルス感染症。
本当にいろいろあった3年間だったと思いますが、書道部でこれを得ました、勉強になりましたみたいなものはありますか?

複数の生徒が回答しているため、箇条書きで記載します

  • メンタルが強くなったことです。1年生の頃だと、こうやってインタビューに答えることすら、できなかったと思うんですよ(笑)
  • 受験で面接に行ったとき、手の位置とかお辞儀の仕方など「所作」が活かされたなと感じました。倉商の先生に面接の練習をしてもらったとき、褒めてもらえました!
  • 一人だと諦めたくなるけど、パフォーマンスはみんなでやるものだから、「みんながいるから頑張ろう」って感じで乗り越えられたのは自信になりました。

──進学・就職後も「書道」は続けますか?今後「書道」とどのように関わっていきたいですか?

書道部3年生──

やらないです!(笑)

コロナ禍が今後どのようになるかわかりませんが、先輩がたが学校にきて指導してくれたりしたので、私たちも後輩に自分たちのしてきたパフォーマンスのことなどは教えられたらよいなと思っています。

とくに「まとめることの大変さ」や「指示する時の言い方」とか、たくさん悩んだことがあります。

それを多分後輩はやったことがないから絶対悩むと思うので、伝えてあげられたらと思ってます。

そこは引き継ぎたかったですね……。

──書道部に興味を持っている人に伝えたいことはありますか?

書道部3年生──

書道部って、字がうまくなるために活動しているイメージが強いと思います。

もちろん、字は上達します。ただ、それ以上に自分の中身が成長できる部活だなって、3年間活動して思ったのでぜひ入ってみてください!

おわりに

2018年10月撮影

筆者が倉商書道部を初めて知ったのは、平成30年7月豪雨発災後に倉敷市災害ボランティアセンターで活動していたときです。

当時(2018年7月〜10月)の災害ボランティアセンターは、中国職業能力開発大学校の体育館にあり、2018年9月のある日訪れると壇上に巨大な作品が展示されていました。

「高校生も地元のために頑張っているんだな」と知り、うれしくなると同時に力をもらったことをよく覚えています。

「今を生きる」を見る人は、みんな笑顔でした。「文字の力」は確かにあると筆者も思います。

「今を生きる」「明日へ」「願い」の3部作をすべて見てきた生徒が卒業し、復興支援活動としての「倉書プロジェクト」は一区切りといえるかもしれません。

しかし、この活動を通じて得た、メッセージを伝える「文字の力」は卒業生はもちろん、後輩たちにも引き継がれていくことでしょう。

これからの倉商書道部の活動にも注目です。

倉商書道部で大切なこと。後輩たちに伝えたいメッセージ

この記事の取材は卒業式直前の、2021年2月27日に行ないました。

卒業する3年生11名から、倉商書道部で大切なこと・後輩たちに伝えたいメッセージを聞いたので、すべて掲載します。

11名全員が回答しているため、箇条書きで掲載します。

  • 私自身も書道部に入るまで「書道は一人でやるもの」とイメージしてました。ただ、それでは周りのことが見えないし、協調性も生まれないので、書道部の活動では視野を広く持つことを大切にしていました。
  • 仲間がいるってことを知ることが大事だと思います。パフォーマンスも、個人の作品も相談しながら進めることでよいものができたので、仲間がいることの大切さを知れる部活でした。
  • 個人の力も大切ですけど、部員で力を合わせてパフォーマンスなどの作品を作りあげることが、一番大切だと思います。
  • 字を書くのは私たちなんですけど、先生に教えてもらったり、パフォーマンスの詳しい子に教えてもらったり、先輩・後輩にも協力してもらって活動ができます。私たちだけではできないことなので、人とのつながりを大切にしてほしいです。
  • 「先輩がたの無念を晴らす」みたいなのも大事だけど、チームだから支え合うことも大事だし、何よりも自分たちが楽しいと思って活動できることが大切だと思います。
  • 感謝をすることが大事だと思っています。1つパフォーマンスを作りあげるのに、たくさんの人が力を貸してくれました。文章などいろいろアドバイスをしてくれる先生がた、教えてくれたり本番に駆けつけてくれる先輩がた、ビデオを撮ったり支えてくれる後輩、なにより一緒に頑張ってきた10人の仲間、当たり前になりがちですが、感謝しています。

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