「憲法判断 逃げない判決を」安保法制違憲訴訟全国ネットワーク代表、弁護士 寺井さん

訴訟への思いを語る寺井さん(本人提供)

 集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法は憲法違反で、平和的生存権を侵害されたとして県内の被爆者や元自衛官、市民ら約200人が国へ1人当たり10万円の損害賠償を求めた訴訟は、長崎地裁で今月1日に結審。判決は7月5日に言い渡される。全国22の裁判所で起こされた集団訴訟の一つで、原告側を支えているのが全国の有志でつくる「安保法制違憲訴訟全国ネットワーク」。長崎市出身の弁護士、寺井一弘さん(79)=東京都=が代表を務めている。

 -2014年に当時の安倍晋三政権が従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使容認を閣議決定。15年に安保関連法が国会で成立した。
 過去、集団的自衛権の行使を認めるには憲法改正が必要だとする国会答弁が繰り返されてきたのに、安倍政権はハードルが高い正規の改憲の手続きはせず、解釈改憲という前例のない手法を採った。改憲の手順に従って国民投票をしていたら、国民の理解を得られなかったはず。安保関連法によって、米国など他国軍の後方支援を目的に自衛隊を海外派遣できるようになり、後方支援では弾薬の提供も可能になった。安保関連法を成立させたのは同盟国の米国への忖度(そんたく)もあるのでは。

 -一連の裁判のうち判決が出た11件は全て原告が敗訴している。
 被爆者をはじめ、東京大空襲の被災者らが原告となり、日常的に戦争やテロに巻き込まれる恐怖を感じるとして、平穏に暮らす権利の侵害などを主張した。だが多くの判決は、立法自体が原告らの生命・身体の安全に危険をもたらす行為とはいい難いなどとして形式的に退けてきた。戦争が始まらないと権利侵害を認めないとも取れる、恐るべき感覚だ。

 -どの裁判所も安保関連法が合憲か違憲かの判断をしていない。
 裁判官は憲法判断という重要な争点から逃げているように映る。判で押したような判決にへきえきする。国におもねる判決を出さないと裁判官は出世できないのかとさえ感じる。

 -長崎の判決に向けて。
 最終弁論で原告や代理人が原爆の悲惨さと平和の大切さを裁判官に強く訴えたと聞き、大変感銘を受けた。平和への思いが強い地にある裁判所だからこそ、憲法判断から逃げない良心的な判決を求めたい。

 -違憲訴訟を支える全国ネットワークの代表を続けている理由は。
 3歳の時、旧満州で終戦を迎えた。現地の日本人は旧ソ連軍の侵攻に備え子どもを中国人に預ける人もいたが、母は私を命懸けで故郷の長崎へ連れ帰った。母は生前「貧困と差別と戦争を憎み、平和のために死ぬまで頑張れ」と言い続けた。平和のために闘い続ける。それが母への恩返しでもある。

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