日本の五輪メンバー選考を難しくさせた 二つの顔を見せたアルゼンチン

サッカーU―24親善試合 アルゼンチンに快勝し、記念撮影する(右から)久保建、田中碧ら=ミクニワールドスタジアム北九州

 わずか3日間で、物差しの長さが変わってしまったのだろうか。「セレステ・イ・ブランコ」(空色と白)の伝統のユニフォームを着た南米の巨人が、日本の地で二つの顔を見せた。

 開催そのものが不透明だ。それでも予定に入っているのなら、大会に向けて準備だけはしておかなければならない。東京五輪用に編成された男子のU-24日本代表チームにとって、強化試合にわざわざ地球の裏側からやってきてくれたU-24アルゼンチン代表は、これ以上ない相手だった。南米予選では、前回王者のブラジルを抑えて首位通過している。

 3月26日に東京で行われた試合を見て、日本との力の差を感じた。それは、われわれがW杯本大会に淡い期待を抱いて行って「やっぱりシード国は強いわ」と90分後に思い知らされるのと似ていた。Jリーグでは感じることのない寄せの速さ。守備時には1人で取り切ってしまう力強さ。物事を先送りにし、組織で対処しようという日本とは明らかに違うサッカー感。それが遺伝子のように組み込まれているのかとさえ思えた。

 日本が何もできなかった東京での試合。アルゼンチンはスカウティングでも、本番を見据えたように実戦的だった。攻撃時に日本の最大の武器と目されていた左サイド。三笘薫のマークには常に複数人が対応した。タイトでハードなマークに、Jリーグを代表するドリブラーは完全に封じられた。逆に、その守備を前にしてもボールを取られない、止められてもファウルを誘う久保建英は、やはりすごい選手なのだなとあらためて思った。

 0-1の数字以上の力の差があった第1戦。日本の選手たちは「金メダルを狙います」と口を揃えるが、正直、金メダルを狙えるのはアルゼンチンだと思った。チームコンセプトも徹底され、「強さ」を感じさせるチーム。来日から3日でこのレベルなのだから、コンディションがより整う第2戦は、さらにすごいのだろうと思ったのは自分だけではないだろう。

 第1戦から日本が9人、アルゼンチンが4人の先発を入れ替えて臨んだ3月29日の試合。北九州で行われた第2戦は、終わってみれば日本が3-0で快勝した。

 本来は時差ボケも解消されて、アルゼンチンの動きはさらに良くなるはずだった。それがまったくの期待外れに終わった。特に前半はシュート0本。チームに何があったのか。悪い意味で第1戦とまったく違う姿を見せられた。

 日本代表の快勝には、選手全員のハードワークによるプレスという要素があった。加えて第1戦に比べ、中盤に落ち着きがあった。第1戦は2ボランチを中山雄太と渡辺皓太が組んだ。この日は出場停止明けの田中碧とCBからポジションを上げた板倉滉に代わった。そして、このポジションでのゲームコントロールが絶妙だった。ボランチとはポルトガル語で車のハンドルの意味だが、文字通りこの日の2ボランチは、日本の進むべき道を巧みに示した。

 川崎フロンターレのプレーを見ていても、すごい選手になりつつあるのは分かっていた。しかし、この日のプレーを見ているとグレートと呼んでもいい。田中は五輪代表チームの「王様」だ。相手が激しい寄せを見せれば、ダイレクトで簡単にボールを散らす。それを繰り返すことで、いなされた相手は寄せる場面でも、その気が次第に失せてくる。そして時間的余裕ができれば、前を向いて相手の急所に必殺の縦パスを入れてくる。広い視野と落ち着いたプレーぶりは、まるで川崎の先輩である中村憲剛を見ているようだった。

 「ボランチが安定すればチームが安定する」

 攻守において存在感を示した田中だが、得点に絡まなかった。ただ、ワントップの林大地に貴重なリハーサルを行った。前半26分にセンターサークルから相手最終ラインの裏にロングパス。林がこれをコントロールミスしたことで、GKと1対1の決定機を逸した。これと同じ形が前半45分の先制点だった。ラインの裏で瀬古歩夢のロングパスを受けた林は、今度は冷静にこれを決めた。

 後半23分、28分と、久保の左CKを板倉がヘディングで追加点とダメ押し点。予想外の3-0で、見事に第1戦の雪辱を果たした。完勝にも気になることが一つある。今回招集されたメンバーは23人。そのうちGK沖悠哉と負傷の田中駿汰を除いた21人が起用された。これまでの流れを見れば、良いところなく敗れた第1戦の方が主力に近いメンバーだろう。第2戦の快勝で、五輪代表チームの輪郭がさらにぼやけてきた。どれがわが国の五輪チームなのだろうか。

 五輪代表の登録メンバーは18人。GK2人を除き、オーバーエイジ3人を起用すれば、13人しか生き残れない狭き門だ。残された準備試合は6月に2試合、7月に2試合しかない。そんな熟成のない寄せ集め感の漂うチームで、本当にメダルを狙えるのだろうか。

 地元開催だけに準備の時間は十分にあったはずだ。その時間を有効に使えなかったのは、日本の習性だろうか。それ以前に、五輪自体が本当に開催できるのだろうか。テレビのインタビューで久保が答えていた。「本番があるのか分からないけど」と。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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