<社説>万国津梁会議提言 兵力配備強化に歯止めを

 安全保障の有識者による「米軍基地問題に関する万国津梁会議」(柳沢協二委員長)が、2020年度の提言書を玉城デニー知事に提出した。辺野古新基地建設計画は技術面、財政面で多くの問題を抱えているとして、直ちに工事を中止するよう改めて求めた。政府は専門家の指摘を真摯(しんし)に受け止め、県との協議に応じるべきだ。 米中の政治的・軍事的対立が高まる中で、沖縄周辺で意図しない武力衝突が起きる可能性や、有事の際の前線として沖縄が攻撃目標になるリスクが高まっていることにも提言は警鐘を鳴らしている。破滅的な事態を招かないために、沖縄への兵力配備を強化する日米一体の流れに歯止めをかけなければならない。

 万国津梁会議の提言は昨年3月に続いて2度目となる。

 前回の提言後の昨年4月に、政府は大浦湾の軟弱地盤改良工事に必要な設計変更の承認申請を県に提出した。しかし、地盤改良の技術的な課題は克服されておらず、さらにコロナ禍で日本の財政が逼迫(ひっぱく)する中で、公共事業として非合理性を増している。

 米軍普天間飛行場では負担軽減に逆行し、訓練が激化している。万国津梁会議の提言は、辺野古新基地は完成が困難で、普天間の危険性を放置する「最もあり得ない選択肢」と断じた。本来の目的である普天間飛行場の危険性除去と運用停止の方策を具体化するため、米国や沖縄県との協議を日本政府に求めた。

 こうした専門家の見解を、多くの国民に共有してもらうことが必要だ。

 提言は日本の安全保障政策について「対中国脅威論をベースとして日米同盟への依存を強めており、沖縄の基地負担に関する思考停止とも言うべき状況を生んでいる」と指摘する。米軍の対中抑止構想に追従する日本の外交・安保政策が、沖縄の軍事拠点化や訓練激化を是認している。

 提言は「沖縄を地域の信頼醸成ネットワークのハブ(結節点)とするのが緊急の課題」として、アジア太平洋地域における緊張緩和の機運を醸成する役割を、沖縄県の取り組みとして促している。

 また、広島・長崎との交流や、基地を抱える他県の自治体との連携を強めることによって、日米同盟一辺倒からの政策転換に向けた国民議論を喚起していくことができる。

 提言は現実的な国際政治の現状分析に基づき、説得力を持つ。一方で、有識者の知恵を集めた万国津梁会議は玉城知事の目玉公約であったが、当初は県としての位置付けが曖昧など、提言を十分に生かしてきたとは言いがたい。

 玉城知事は沖縄の基地負担軽減に向けて、日米両政府に県を加えた3者で協議を行う「SACWO(サコワ)」の設置を呼び掛けている。対話を拒む政府に対し、今回の提言を日米沖の3者協議の実現につなげるような、戦略的な活用が県に求められる。

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