言葉にならなかった。自らの脇をサヨナラの一打がすり抜けた瞬間、咆哮(ほうこう)した。東海大相模・門馬敬治監督の息子にしてトップバッター。主将代行の重責も担った門馬功の17年間が最高の形で結実した。
第1打席に中前打を放ち、今大会通算21打数9安打。打率4割2分9厘と野手陣最高の働きを見せた。決勝で2度の申告敬遠で歩かされたのも、その好打あってこそだ。
生まれ育ったのは学校敷地内の門馬家。日が暮れてもなお響く打球音とともに育った次男坊だ。2015年夏。縦じまのユニホーム姿でアルプススタンドの最前列に陣取り、憧れの“お兄ちゃん”たちの勇姿に夢中だった。
「相模の野球はアグレッシブ・ベースボール。とにかく攻める」。だから、2回戦の後、主戦石田が放った一言に心が波立った。
「どうせ打てないべ」。夕食の席でエースは冗談めかして言った。2戦計4得点。投手陣の粘りのおかげだと分かっている。でも─。「打つよ、と。悔しかった」。直後の準々決勝では甲子園初アーチ。歴代の名だたる好打者に劣らぬ輝きを放った。
「うれしいの一言」。やはり、言葉にならない。いや、語らずとも貪欲さはその面立ちから伝わる。「今はあまり考えられないけど、また一からチームとしてやっていきたい」。見据えるのは夏の覇者。深紅の大優勝旗もその手でつかむ。