挑戦と連携のまちへ 大久保・諫早市政始動<下> 理念の具現化 民間活用を重視、新領域へ

当選が決まった翌朝、街頭でお礼のあいさつをする大久保氏=3月29日、諫早市宇都町

 「挑戦と連携」-。大久保潔重氏(55)が年明け、自身の会員制交流サイト(SNS)に投稿した動画のタイトル。諫早市長選への意欲が込められた言葉だった。
 市長選に1月に出馬表明した際、自身の理念と生まれ育った古里への愛着を凝縮した言葉を明らかにした。「来てよし、住んでよし、育ててよし あなたのまち・諫早」-。交流人口の拡大、産業強化や住環境の整備、子育て支援、感染症と自然災害に強いまちづくりを大きな柱に据えた。
 宮本市政は定住人口増加の目標と併せて、地価の大幅な変動を回避しようと、開発に規制が多い市街化調整区域での土地開発を段階的に緩和。これに対し、大久保氏は隣の大村市と同様、市街化区域と市街化調整区域の線引きをなくし、住宅開発の促進を掲げた。
 建設業者の一人は「調整区域の全面撤廃は危険。危険な場所と知らず、家を建てる恐れがあり、一定の線引きは必要」と危ぐする。だが、大久保氏は「デメリットよりも、土地活用を活発にするメリットが大きい」とし、新たな領域へ踏みだす。
 もう一つの理念が「連携」。感染症と自然災害に強いまちづくりの根底に流れる考え方だ。新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年春以降、市内の飲食、観光業などの経営を打撃。市は昨年5月以降、全業種を対象に一律30万円の緊急経済支援給付金を支給した。
 幅広い業種に配慮したものの、経営規模や業態の違いで支援から漏れるケースがあり、その後も追加支援を続けた。飲食関係者の男性は「関係者の話を前もって聞いて制度を作ればいいのに、後追いの印象があった」と、市と民間事業者との連携不足を指摘した。
 現在、市内部に感染症対策専門部署が設置されているが、大久保氏は感染拡大防止や経済立て直しを含めて、「専門家や経済界などと協議する機関の設置」を公約に掲げ、民間活用を重視する。
 近年、激甚化する防災政策でも、危機管理の専門部署や専門人材の育成をはじめ、消防団との連携や民間会社との災害協定締結などを視野に入れる。
 各種事業を進めるためには、予算獲得に向けた国や県などとの調整が求められる。コロナ禍で市税収入の減少が見込まれ、思い切った政策実行に時間を要する可能性がある。
 一方、かつて国政や県政を目指してともに戦い、同市を地盤、古里に持つ現職国会議員や県議とのパイプが重要になる。大半が与党の市議会との信頼構築もこれからだ。「今後、しっかり関係を構築していく必要がある。地域をよく知る市議の皆さんと議会の場で議論したい」と大久保氏。
 コロナ禍と社会経済活動との両立をはじめ、九州新幹線長崎ルートの暫定開業を控えたまちづくりなど、課された使命は大きい。「挑戦と連携」の理念をどう具現化するか。転換期を迎えたかじ取りが注目されている。


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