<社説>デジタル改革法案 廃案で抜本的見直しを

 デジタル庁創設を柱とするデジタル改革関連5法案が、2日の衆院内閣委員会で可決した。与党に加え、野党側も一部修正に賛成した。衆院本会議も通過する見込みで与党は月内成立を目指すという。 個人情報の保護など重要な問題を含みながら、政府・与党は菅義偉首相の「看板政策」という旗印の下、危険な法案を押し通そうとしている。

 法が成立すれば、政府が個人情報を一元的に管理する「監視社会」が到来すると指摘する識者もいる。

 後世に悔いを残さないためにも、法案は廃止にして抜本的見直しを図るべきだ。

 関連法案はデジタル庁設置法案をはじめ、個人情報保護法の見直し、マイナンバーと預貯金口座の連携、押印手続きの廃止など60を超える法案で構成される。

 最大の問題は、行政が持つデジタル個人情報を政府が独占することだ。

 行政が保有する情報は、病歴や所得・資産をはじめ、機微に触れる内容を含む。マイナンバーとの連携が実現すれば、本人が知らない間に政府が全ての情報を握ることも可能になる。

 国家行政組織法や各省庁の設置法で、行政機関の任務や所掌事務の範囲は取り扱う内容が定められている。

 新設するデジタル庁は首相が長を務める。首相の下に全ての個人情報が集まる。同庁が成立すれば、省庁の職務分担を超えた存在として、デジタル庁が全ての行政機関から情報を吸い上げ、首相の下に集められる。それがどのように使われるかは不透明だ。

 情報隠蔽(いんぺい)や保護の対策も心もとない。集まった情報を特定秘密保護法により秘密指定すれば、政府がどのような情報を集めたのかうかがい知ることはできない。本人が開示請求できるのも「容易に照合できるもの」に限られる。

 政府が秘密指定を乱用し、「照合困難」と言えば、いくらでも情報隠しは可能だ。

 個人情報保護委員会が行政機関の乱用を点検するための改正条文も指導、助言、勧告にとどまる。立ち入り検査などの強制力がなく、実質的に歯止めがかからない。

 個人情報保護ではもう一つ懸念がある。自治体独自の条例では性的少数者(LGBT)の個人情報保護など独自規定を設ける所もある。政府はこれら自治体の条例を白紙にする方針で、先進的な条例が後退しかねない。

 政府の行政機関等個人情報保護法制研究会委員を務めた三宅弘弁護士は、こうした課題を抱える法案に対し、国民の権利を侵害する「デジタル監視法案」だと警鐘を鳴らしている。

 監視社会の到来を招く危険性がありながら、政府は束ね法案として60本以上を一括して審議するよう求める乱暴な手法を取った。

 国会での論議が深まらないまま、数の力で成立させる事態を許してはならない。

© 株式会社琉球新報社