これぞ音楽の伝道師「小林克也 80歳 & ベストヒットUSA 40周年」記念イベント 2021年 3月27日 小林克也の記念イベント「小林克也&ベストヒットUSA DOUBLE CELEBRATION ECSTASY NIGHT!!!!」がZepp Hanedaで行われた日

VJ 小林克也、流暢な英語に乗せて紹介された楽曲が彩りを添えた

80年代、土曜日から日曜日への日付が変わる少し前、僕らはテレビの前に釘付けになった。『ベストヒットUSA』だ。洋楽がもっとも煌めいていた80年代、最新のチャートと今聴くべきアーティストをピックアップしたセレクトは、音楽の旅を始めたばかりの僕にとって欠かせないものだった。

ブラウン管の向こうの、メガネをかけた、理知的で、どこか飄々とした佇まいのVJ。流暢な英語に乗せて紹介される楽曲の数々は、退屈な日常に彩りを添えた。そして紹介される楽曲一曲一曲が特別なもののように思えた。

そして後追いながら、アン・ルイスのアルバム『アニーズ・スペシャル』や山下達郎の『COME ALONG』に楽曲紹介のDJとして参加していたことを知り、スネークマンショーのシニカルでブラック… そして最先端の笑いに夢中になった。また、映画『アメリカン・グラフィティ』の吹き替え版ではウルフマン・ジャックの声を担当し、古き良きアメリカの終焉を若い僕らに教えてくれた。

これらすべてに携わった小林克也さん。克也さんの声こそが、音楽に彩りとスパイスを添え、幾千、幾万人の音楽リスナーに大きな影響力を持ち続けていることは紛れもない事実である。

持ち味は健在!「ベストヒットUSA」40周年&傘寿記念イベント

克也さんのライフワークとも言える人気長寿番組『ベストヒットUSA』の40周年、そして自身の80歳の誕生日を記念したイベント『小林克也&ベストヒットUSA DOUBLE CELEBRATION ECSTASY NIGHT!!!』が生配信も兼ねてZepp Hanedaにて開催された。休憩をはさみ前半、後半二部に分けたステージは番組の歴史、そして克也さんのキャリアを物語るような濃密でエンタテインメント性に溢れたものだった。

DJ KAORIが往年の80’sヒットで会場を温め、前半は、伊武雅刀、ROLLY、鈴木慶一、白井良明、鮎川誠、中村雅俊といった克也さんに縁の深いゲストが花を添えてゆく。

なんとも圧巻だったのが、後半にかけての御年80歳の克也さんのステージパフォーマンスだった。盟友、ザ・ナンバーワン・バンドをバックに従え演奏した、幼少の時に影響を受けたテネシー・アニー・フォードの「16トン」などのカバーナンバーは、エルヴィスからはじまり、ファンク、ラップなどアメリカのポピュラー音楽の歴史を体に沁み込ませた克也さんならではのステージングだった。

また、自身の楽曲であり発売当時、桑田佳祐とのコラボレートで注目を浴びた「六本木のベンちゃん」や、2018年にリリースされたアルバム『鯛~最後の晩餐~』に収録されている「SHOWA WOMAN」など、どこかレトロチックでありながらもシニカルさも兼ね備えた楽曲で、まさに変幻自在のエンタテインメント性溢れる持ち味を全開にしてオーディエンスを魅了。

そして、音楽の伝道師としての本領と言おうか、名曲「ホテルカリフォルニア」や、「これは我々の願いです」という言葉を添え、ラストを飾った「イマジン」のトースティング・スタイルで言葉の持つ力、音楽が持つ力をオーディエンスに十二分にアピールしていた。

「ベストヒットUSA」が愛され続けた理由とは?

『ベストヒットUSA』のVJで、克也さんは極力自分の主観を排除して、事実を客観的に見つめながら楽曲の持つ力を信じ、伝道師の役割を果たしていたはずだ。今回のステージでも、克也さんのそのスタンスは変わっていなかったとお見受けする。だからこそ「これは我々の願いです」という言葉を添えてリリックをトースティングした「イマジン」には説得力があった。そしてこれは、克也さんの「過去を振り返らない」という信条を十二分に体現していた。そう。楽曲のその先に未来があるのだ。

確かにこのイベントは、番組の40周年を記念したファンにとって感慨深いものであるが、そこで懐かしさに浸るのではなく、小林克也というVJが時代の中に何を遺し、何を未来につなげていくのかという部分を再確認するイベントであったように思う。

もちろん『ベストヒットUSA』は今も継続中だ。克也さんがステージで仰っていた「あと2、3年は頑張りたい」という言葉は、僕の心の奥に沈み、何度も何度も思い浮かべる。『ベストヒットUSA』が続く限り、僕は観続けていたいし、ずっと克也さんの言葉に影響されていたい。時代とともに変わってゆく音楽のスタイルと、ずっと変わらない克也さんのスタンス… これこそが、40年という長きに渡り番組が愛された理由だったように思う。そして、ステージの克也さんを見て「こんな風に年を重ねていけたら最高だ」と感じた。

80年代に、時流に乗せた音楽を教えてくれた伝道師は、今も音楽の素晴らしさ、そして本質を僕らに教えてくれている。

あなたのためのオススメ記事
小林克也のドミノ倒し、YMOからナンバーワン・バンドに至る怒濤のアーリー80s!

カタリベ: 本田隆

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC