家を描くことを考えるうちに「自然と家族的なテーマが」 映画「stay」藤田直哉監督インタビュー

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SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の短編部門で優秀作品賞を受賞した映画「stay」が、4月23日に劇場公開される。公開を前に、藤田直哉監督のオフィシャルインタビューが公開された。

「stay」は、山奥にたたずむ一軒の古民家は誰でも出入りができて誰の場所でもない「自由」な家を舞台に、わずかなズレが、気遣いとなり、役割となり、ストレスとなり、やがて「不自由」へとつながっていく様子を描き、「人と共に生きる」ことの意味を問う作品となっている。監督を務めるのは、初劇場公開作となる藤田直哉。脚本は、山本政志監督作「脳天パラダイス」を手掛けた金子鈴幸が担当している。東京国際映画祭正式出品作「あの日々の話」の山科圭太が主演し、「猿楽町で会いましょう」に主演している石川瑠華も出演している。

インタビューで藤田監督は、設定、家族の要素、キャスティング、撮影場所の古民家などについて語っている。

【インタビュー】

Q. 設定はどのように考えていったんですか?

古民家に出会い、そこから受けた自分たちの印象や、感触を伝えたいという考えから脚本の金子と二人で考えていきました。

Q. 「家族」というものに対して模索したいという想いを感じたんですが、家族に関して考えたい理由はあるんでしょうか?

「家族」という要素は改稿を続けていくごとに、意図せず自然と炙り出てきた要素です。最初は、家族をメインテーマとして作ろうとは考えていなかったんですが、家を描くことを中心に考えを巡らせていくうちに、自然と家族的なテーマがうまれていました。
特に今って何が家族のかたちなのかと言われるとわからないし、他人でも家族にもなりえる。家に一緒に住むこと自体が家族なのか、など色々な疑問が浮かんできて、結果的に擬似家族のような人々があの家に住んでいる、という表現になりました。

Q.冒頭、退去勧告に来た矢島が、挨拶をそこそこにトイレに入り、音が漏れるというエピソードが、何か事実を元にしたエピソードなのかなと思ったのですが、思いついたきっかけはあるのでしょうか?

今作の家を実際に改修しながら生活している鈴木さんという友人がいまして、改修途中の家をロケーションとして借りたんですけれど、当時、トイレだけが修繕が終わっていて、綺麗な状態になっていました。冒頭に矢島がトイレを借りるというのは、生理的現象によって家に取り込まれちゃっているというのを表現したかったですね。生理的現象によって家に関わることで、論理的に説明できない力が働くのを狙いました。
あとは、トイレは鈴山が修繕したという設定ですが、トイレの音が外に漏れるということで、鈴山の不完全さを表現しました。

Q.キャスティングはどのように決めて行ったのですか?

一番最初に決めたのがマキ役の石川(瑠華)さんです。石川さんは過去の作品で拝見して、あどけない印象の中にも強い芯をもっているビジュアルだな、と感じました。あとは彼女の声が決め手でした。今作の家の中でしゃべらせてみたいなと考えたのを覚えています。
サエコ役の遠藤(祐美)さんは、役のイメージを脚本の金子に相談したときに、彼に紹介してもらいました。どこかで共演か、お会いしていたんだと思います。包容力や母性、品の良い感じが私のイメージにぴったりで起用させて頂きました。
矢島のキャラはオーディションを行うまで、正直もやもやしていて、どんなキャラにしたら良いのか自分でもわかっていなかったところがありますね。そのタイミングでオーディションに山科(圭太)さんに来ていただき、演技をしてもらった際に、山科さんが理解して演技したキャラクターが、自分ではわからないなりにも、なぜかはまりました。
リーダー・鈴山役の菟田(高城)さんは、オーディションの演技に懸けるパワー・熱意に圧倒されました。普段のキャラクターもですが、演技にも周りを巻き込んでいく力というか、空気を変えられるパワーを感じて、鈴山役にいい意味でマッチしたというところで選ばせていただきました。

Q. お友達の家を借りたそうですが、映っているものは、どれくらいご本人のもので、どれくらいスタッフが用意したんでしょうか?

今はもう家のほとんどの部分が綺麗に修繕されたみたいですが、当時は改修の初期段階で土埃もすごくて、キッチンも映画のシーンとは全く別のものでした。キッチンに関してはほぼ美術です。家全体で言うと、骨格はそのままですが、小道具だったり家具だったり、7割位が美術です。象徴的なテントがありますが、あのアイディアは実際に住んでいた鈴木さんが「あの家ではプライバシーが保てない」ということで、実際に家の中にテントを立てて生活をしていた時期があったそうで、それをそのまま設定として使いました。

Q. 2日間についての話ですが、順撮りで撮影できたんでしょうか?

はい、順撮りで撮影しました。主人公の矢島の感情の移り変わりが、演出上難しいとも思っていたので、順撮りにすることで、矢島の移り変わりをちゃんと確認できるなと思ったからです。

Q.本作で特に注目してもらいたい部分はありますか?

他者との関係性が希薄な現代人が、旧日本家屋の古民家に住んだ時に何が起こるのか、という疑問から映画制作が始まった作品なので、この家の構造だったり、この家に住む人と人の距離感や、関係性に注目して欲しいですし、観ているご自身が、もし自分がこの家に住んだらどう生活するかを考えて観ていただきたいです。

Q. 読者の方々にメッセージをお願いします。

この映画は、テーマやそれぞれのキャラクター、伝えたいことなど色々な要素を詰め込みながらも、映画としての余白を十分に作って、制作しました。
こういう風に観て欲しい!ということはありません。映画の見方はひとりひとりそれぞれです。
映画を観て何かを感じた自分を素直に認めて、生活することはどういうことかを改めて考える存在の映画になれば嬉しいです。

【作品情報】
stay
2021年4月23日(金)よりアップリンク渋谷ほかにて公開
配給:アルミード
©東京藝術大学大学院映像研究科

© 合同会社シングルライン