企業型確定拠出年金、会社をやめたらどうなる?iDeCoとの違いは?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、25歳、会社員の女性。会社の確定拠出年金に入っている相談者。もし会社をやめた場合にどうなるのか、iDeCoのほうがいいのか、また、何十年と続けていけるかも心配だそうです。FPの秋山芳生氏がお答えします。

20代会社員です。会社の福利厚生で拠出型企業年金保険に入ったのですが、あとから会社を辞めると中途解約をしなければならず、元本割れのリスクがあることに気づきました。今のところ会社を辞める予定はありませんが、正直何十年と続けていけるかわかりません。今すぐやめてiDeCoに切り替えた方がいいでしょうか?

【相談者プロフィール】

・女性、25歳、会社員、独身

・同居家族について:父:会社員

・住居の形態:親の家で同居

・毎月の世帯の手取り金額:15万円

・ボーナスの有無:なし

・毎月の世帯の支出の目安:10万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:2万円

・食費:2万円

・通信費:3,000円

・お小遣い:5万3,000円

・その他:5,000円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:2万円

・現在の貯蓄総額:400万円

・現在の投資総額:4万円

・現在の負債総額:0円


秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼、FP YouTuberの秋山芳生です。お勤めの会社の企業型確定拠出年金に入ったけれど、会社を辞めた場合その後の流れがわからないとのことですので、一つひとつ確定拠出年金の制度について確認していきましょう。

そもそも確定拠出年金とは?

まず、確定拠出年金そのものについてですが、その名の通り年金制度ですので、60歳になるまでは引き出すことができません。積み立てた掛け金は所得控除が受けられ、積み立て投資で運用益が出ても、その利益には税金がかからないというダブルの節税効果が得られます。

引き出すときは一括で受け取るか、年金形式で受け取るか、またはその合わせ技で受け取るかを選ぶことができます。一時金で受け取る場合は退職所得控除が適用されます。年金形式で受け取る場合も公的年金等控除の対象となります。状況によりことなりますが、一時金で受け取るほうが節税的に有利と言われることが多いです。会社の退職金が多くあり、確定拠出年金の利益も大きい場合は、退職所得控除の枠を超えてしまうことがあるので、一時金と年金形式を併用して受け取る額をコントロールしていくと良いでしょう。

会社によってはiDeCoを利用できないことも

現在、どのような企業型確定拠出年金の制度なのかによりますが、会社側が企業型確定拠出年金の制度の利用を前提にしており、iDeCoの利用を認めていないところもあります。また、iDeCoは口座管理手数料を個人で負担しなければなりません。金融機関によって異なりますが、毎月66〜600円程度の費用がかかります。企業型確定拠出年金であればこの口座管理手数料は企業が負担しているので個人の持ち出しはありません。

企業型確定拠出年金をやめて個人型を始めるべき?

相談者さまが気にしている、「企業型確定拠出年金をやめて個人型確定拠出年金を始めるべきか」についてですが、基本的には今変える必要はないでしょう。企業型確定拠出年金は、選べる投資信託が企業が選定したものに限定されるなどのデメリットがありますが、一方で口座管理手数料がかからないなどのメリットがあるからです。

会社を辞めた場合は、転職先に企業型確定拠出年金制度がある場合は転職先の制度に加入することになります。転職先に企業型確定拠出年金の制度がない場合は、iDeCoにスライドすることができます。運営管理機関は転職前と同じものを選んでも良いですし、自分で別の金融機関を選んでもかまいません。その場合は、一旦切り替えのタイミングの評価額で現金化され、移った口座で再度投資信託などを選んでポートフォリオを組み直すことになります。その時に市況が悪いと、短絡的に「現金化された時点で、損失がでている場合に元本割れした」ということになりますが、長期投資の一場面でしかないので気にしなくて良いと思います。あくまで60歳を超えた時点で利益が出ていれば問題ありません。

会社員の拠出額の上限は?

企業型確定拠出年金は、他の企業年金制度(確定給付年金など)がある場合は、月額2万7,500円が多く、他の企業年金がない場合月額5万5,000円が上限となります。

iDeCoの場合は、企業型確定拠出年金のない会社の社員は月額2万3,000円が拠出上限になります。企業型確定拠出年金に加入している場合、月額2万円が上限になり、確定給付型年金に加入していたり、公務員の場合は1万2,000円が上限になります。企業型確定拠出年金よりiDeCoのほうが掛け金の上限が少なくなることで、ドルコスト平均法(定額を積み立てること)が崩れてしまう場合があります。

退職後の手続きに注意を

いずれにしても、企業型確定拠出年金の制度があればその制度を利用した方が得なことが多いでしょう。ただ、あまりにも企業が取り扱っている商品がひどい場合は、iDeCoでも問題ありません。

気をつけないといけないのが、退職して企業型確定拠出年金の加入権利がなくなったあと放置をしている人です。必要な手続きを取らないまま6カ月を過ぎると、国民年金基金連合会に年金資産が自動移管されます。

年金資産が自動移換されると、それまで投資信託などで運用していた資産は売却されて現金化されます。そして、移換中は確定拠出年金の加入期間に算入されず、将来引き出す時に、退職所得控除の期間が少なくなり不利になります。また確定拠出年金は基本的に10年以上の加入がベースになるので、引き出せる時期が60歳より遅くなる可能性もあります。

また、自動移換の際に数千円の事務手数料がかかり、毎月51円ずつの手数料が資産から引かれます。現金として預けられることになるので運用益はつかない上に、毎月の手数料がかかれば、資産は目減り続けていき、残高が無くなるか、または給付金を受け取るまでずっと手数料を払い続けることになります。国民年金基金連合会に移管されたままでは老齢給付金や障害給付金を受け取ることもできませんので、早めに手続きを取る方が良いでしょう。

確定拠出年金の強みは分配変更やスイッチング

確定拠出年金は、運用益が非課税というメリットがあります。せっかくの「非課税枠」を利用しているのに、元本保証型や、債券中心の運用では利益が出づらいのでもったいないと思います。ご相談者様のように20代30代の方は、リスクをとって株中心の全世界分散をおこなって、こつこつと積み立てていくことが重要と思います。

ほかにもメリットとして、「配分変更」や「スイッチング」があげられます。例えば当初の想定より株が増えすぎていて、ポートフォリオのバランスが悪くなることがあれば、この配分変更やスイッチングでバランスを整えることができるのです。

分配変更とは?

毎月購入する運用商品のバランスを変更することを分配変更といい、分配変更することによってリスクコントロールができます。例えば、「30代、40代は株式中心の投資信託でリスクをとったけれど、50代は株式型の投資信託の購入をやめて、債券型投資信託や元本保証の商品を買い増すことで全体のリスクを下げる」などです。

ガラリと分配を変えるのがスイッチング

もっとガラリと配分を変えるのがスイッチングです。それまでに積み立ててきた商品構成を変更し、株式の投資信託を元本確保型商品に切り替えることで利益を確保することができます。例えば、「株式の投資信託100%で積み立ててきて、50代になったら半分を元本確保型に切替えて利益を確定させ、残りの1/4をリスクの小さい債券に変える」などです。これは確定拠出年金ならではの機能なので、タイミングを見て利用すると良いと思います。

途中で払い続けられなくなったら?

確定拠出年金は基本的に途中でやめることはできませんが、掛け金を5,000円まで下げることができます。もし、掛け金を継続出来ない場合は、拠出を停止することは可能です。ただし、この場合は加入者資格の喪失になるため、停止している期間は、先程の説明と同様、受給時の退職所得控除の計算対象期間には含まれなくなります。拠出を停止した場合でも積み立てた資産はスイッチングが可能ですが、口座の管理手数料は継続的に負担しなくてはなりません。

継続的な積立投資によって、資産形成も育っていきますし、制度の優遇も最大可していくので、今後の転職や、ライフステージの変化によって拠出することが難しくなっても、できるだけ停止せず、掛け金を減らすなどで対応すると良いと思います。

長期投資の成功は、日々の家計のキャッシュフローをコントロールできるかによります。確定拠出年金は、税制優遇制度としては非常に有利ですが、やめられないし、引き出せないデメリットもあります。成功させるために長期で家計をコントロールしながら、老後の不安を解消いただければと思います。以上、参考になれば幸いです。

© 株式会社マネーフォワード