鎮西学院大初代学長・姜尚中氏 インタビュー 市民の“共有財産”目指す

「地域に開かれた大学にしたい」と抱負を語る姜学長=諫早市、鎮西学院大

 長崎ウエスレヤン大から今月、名称変更した鎮西学院大(諫早市西栄田町)の初代学長に政治学者で作家の姜尚中氏(70)が就任した。本年度の学院創立140年に合わせた改称で、国際交流を基盤とした地域密着型の知的・人的拠点を目指す。大学の役割、長崎県の潜在力などについて聞いた。

 -若者の県外流出に歯止めがかからず、高齢化が進む。大学の役割をどう考えるか。
 大学は地域社会のアイデンティティーを構成する重要な要素。鎮西が諫早に来て70年以上になるが、本当の意味で地域に根を生やしているとはいえない。「知のインフラ」を担い、社会人講座も含めて学びの場所をできるだけ提供し、地域の主要な産業とも連携を図っていかなければならない。大学は地域に不可欠な“共有財産”だという意識を市民が持てるようにしていくことが、大学の役割。そのためには、われわれが外に出て市民との距離感を埋めていかなければならない。
 東京志向の若者もいるが、地域に残って面白いことをしたいと思う学生もいるはず。地域の交流の中で、自分のキャリアパス(仕事の最終的な目標を設定し、それに向かって進んでいく道筋)を自律的に考えていけるような人を育てたい。

 -本県の潜在力をどう見るか。
 これまで、長崎はハンディが多すぎるという考え方が強かった。一つは都市圏からのアクセス。しかし、長崎は日本では西の端だが、よく考えると東アジアに一番近い。かつて西欧との窓口だった長崎は、外側の力をシナジー(相乗効果)としてうまく使って栄えてきた。(日韓問題などで)インバウンド(訪日外国人客)に影響が出た時に、国同士の関係は悪くても、(他国との)地域間の交流がいかに大切か、多くの県民は分かったのではないか。国同士の関係は駄目でもローカルはもっと交流を深めていかなければならない。そういう発想でいけば、長崎は大いに可能性がある。鎮西は留学生が多く、国を超えて学んでいる。その良さを生かしたい。
 もう一つは離島。離島は日本という島国の未来を先取りしている。長崎が島をどう利用し、どう栄えるかが日本の将来を占う。面白い場所だと思う。

 -大学改革をどう進めていくか。
 日本の労働生産性は著しく低くなっている。(国際競争の中で)日本は(いい会社に入れればいい、などという)組織依存型のキャリアパスから、地頭で考えられる自律型のキャリアパスへと転換していかなければならなかったのに、それができていない。転換のためには、大学教育の中で教育の在り方を変えていく必要がある。基礎教育、特に教養が重要。大学の教員も変わらないといけない。
 できる限りみんなの合意を調達しながら、スピーディーに実行していく体制を学内でつくりたい。そして、諫早市民に「うちの大学」と言ってもらえるような地域に開かれた大学を目指す。

【略歴】カン・サンジュン 熊本市生まれ。政治学者。東京大名誉教授。著書に「母-オモニ-」「悩む力」など。熊本県立劇場理事長兼館長。鎮西学院では2018年から学院長。

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