足もとドル円相場はポジション調整に入る?コロナ禍の米雇用統計の読み方

4月2日(金)に発表された米3月雇用統計は、事業所調査による非農業部門雇用者数は前月比91.6万人増と、事前予想中心値の66万人増に比べて極めて強い内容となりました。前月・前月分も併せて15.6万人上方修正されたことも考慮すると、強過ぎると言っても過言ではない内容です。

筆者の予想は、前月分の上方修正も含めてネット60万人前後の増加でしたので、待機していた筆者自身も米雇用統計発表後は驚きました。

しかし筆者は、今回も含めて、最近の米雇用統計を材料視していませんでした。なぜなら、新型コロナウィルスのワクチン接種が広がるにつれて、米雇用はあと5~6百万人回復するであろうと筆者は見ており、月々回復ペースの数万、数十万の誤差はさほど大きな問題ではないと見ているからです。


新型コロナで失われた雇用は回復途上

昨年の米4月非農業部門雇用者数は、新型コロナウイルスのパンデミックにより、前月比2,067.9万人(年次改定後)減でした。2,000万人以上の雇用が失われた後、その後の昨年5月から今年の3月までで、約1,400万人の雇用が回復しています。

失われた雇用が完全回復するまでには時間がかかるとは思いますが、米国におけるワクチン接種は進んでおり、遅かれ早かれ、失われた分の雇用は完全回復するであろうというのが筆者の見方です。おそらく市場参加者の大半もそう思っているのではないかと思います。そんな中で、月々の予想比多い少ないでいちいち一喜一憂する必要はないと思っています。

とは言っても、目先オンリー証拠金プレーヤーや自動取引、A.I.(人工知能)は、発表された指標の事前予想比強いか弱いかで売買するのが仕事ですから、ある程度相場が動くのはやむを得ないでしょう。相場の反応については後述します。

統計が示す「平均時給」のカラクリ

さて、この米3月雇用増ですが、事業所調査ベースでは上述したように前月比91.6万人増でしたが、家計調査ベースによると60.9万人増でした。あくまで筆者の見解ですが、完全失業状態から雇用された人だけではなく、ダブルワーク、トリプルワークみたいな人もかなり増えたのではないかと思われます。

なお、同時に発表された失業率も前月の6.0%から2ポイント完全して6.0%となりました(事前予想6.0%)。
非農業部門雇用者数、失業率はかなり強い内容となった米3月雇用統計でしたが、米3月平均時給上昇率は、予想以上に損化する内容となりました。

不況時や今回の新型コロナウイルスの流行のような異常事態に、最初に解雇の犠牲になるのは低賃金層です。終身雇用制のジャパニーズ・サラリーマンでも、やはり最初に犠牲になるのは高所得の上層部ではなく低賃金層の方になると思われます。低賃金層が雇用を失うと、全体に占める高所得層の割合が高まり、平均時給は上昇する傾向があります。

逆に、雇用は急回復してくると、低賃金層の就業が目立ち、雇用者に占める低賃金層の割合が高くなるために、平均時給は低下する場合が目立ちます。今回の平均時給は後者が当てはまると筆者は考えています。

前月も触れましたが、昨今は「米インフレ懸念」「米インフレ見通し上昇」というのが相場のテーマとされてきたことで、平均時給も注目され始めてきているはずですが、今回の予想より鈍化していた平均時給上昇率は、一方的に相場の動きをけん制するものになったと思われます。

米雇用統計発表後の為替市場を振り返る

4月2日(金)は、通常の米雇用統計発表日に比べて市場参加者が極めて少なかった日でした。イースター休暇前のグッド・フライデーでアジア時間ではオセアニア市場休場、香港市場休場、シンガポール市場休場、欧州主要国休場、米株式市場休場、米国債市場も前場で終了でした。海外では勤務に関しては日本人以上にメリハリがありますので、筆者のNY駐在時の経験から考えると、為替担当者の外国人もあまり出勤していないのでは、と思われます。

このように市場参加者が極めて少ない中で発表された米3月非農業部門就業者数の強さには筆者も驚かされましたが、為替市場の反応は意外なものでした。ファーストリアクションはドル買い、米国債利回り上昇となりましたが、すかさずドル売り、米国債利回り低下となりました。頭にこびりついていた「米インフレ懸念」期待が、米3月平均時給で一気に冷まされたからではないかと筆者は考えています。

その後、さらに市場参加者が少なくなっているはずのNY午後に入り、為替相場は小康状態。米株式市場は休場、米国債市場は半ドンでクローズとなっており、動きがほとんどなくなりました。

ドル高と言っても、米雇用統計前に1ドル110円50銭近辺にいたドル円は指標発表で110円75銭近辺まで上昇した程度で、ドル円はすぐに頭打ち。対ユーロや対英ポンドではドル高が進んだものの、NY午後にはすぐにポジション調整でドル弱含みと、米雇用統計が、短期投機筋やA.I.以外にはほとんど材料視されていなかったことが証明されたと思われます。

昨年末から円安相場を予想してきた筆者ですが、今回の米3月雇用統計の反応を見る限り、超過剰流動性下における平和ボケに近い楽観トレードはいったんポジション調整に入るのではないかと見ており、4~6月期は1ドル106~107円方向と予想しています。年後半は1ドル112~113円方向に再び向かうでしょう。

<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>

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