金融市場を揺るがすアルケゴスショックを簡単にわかりやすく解説する

アルケゴス・キャピタルに関連して金融機関が損失を発表

3月下旬から4月上旬にかけて、欧州や日本の金融機関が突如として多額の損失や損失可能性を発表しました。その原因は「アルケゴス・キャピタル」という投資ファンドとの取引によるものです。

アルケゴス・キャピタルとはどんな会社なのか、なぜ金融機関が大きな損失を抱えることになってしまったのか。今回は、このアルケゴス問題をわかりやすく解説します。


アルケゴス・キャピタルとは何者か

アルケゴス・キャピタルとは、大手ヘッジファンドのタイガー・マネジメントに勤めた経歴を持ち、過去にインサイダー取引の前科を持つビル・ファン氏が設立したファミリーオフィスです。

ファミリーオフィスとはその名の通りごく少数の特定顧客の資金を運用する比較的小規模な投資ファンドで、年金基金や金融機関の資金を運用するヘッジファンドと比較して登録や届出、情報開示の点で規制が緩くなっています。アルケゴスはそうした緩い規制のもとで小規模ファンドでありながら多額の資金を運用していました。

アルケゴスが投資資金を膨らませることを可能にした契約がトータルリターンスワップです。これは、金融機関に比較的高い手数料を払う代わりに、その金融機関から資金を調達し、その資金で投資を行うものです。

通常のレバレッジ取引と異なり、株式の保有名義はアルケゴスではなく金融機関となりますが、投資による利益も損失もアルケゴスに移転されます。まさに、トータルリターンスワップの名の通り、全体の利益を交換する契約なのです。

アルケゴスはこうした契約を複数の金融機関と結ぶことで、少ない資金で多額の株式運用を行っていました。一部報道によるとアルケゴスの運用資産は100億ドル前後であるものの、こうした契約により実際の運用規模は10倍の1,000億ドルを超えるまでに膨らんでいたと言われています。

<写真:AFP/アフロ>

きっかけは米大手テレビ局の増資発表

異変が起こったのは3月23日です。この日、アルケゴスが集中投資していたと言われている米大手テレビ局会社が増資を発表して株価が下落し、アルケゴスが多額の損失をこうむりました。

これを受け、アルケゴスから資金を回収できなくなることを懸念した米大手をはじめとした一部の証券会社が、トータルリターンスワップ契約の元でアルケゴスが保有していた中国インターネット検索大手や中国通販大手の株を大量に売却しました。これによりアルケゴスの損失はさらに膨らみました。

こうして、同じくトータルリターンスワップ契約を結んでいた欧州投資銀行や日本の証券会社はアルケゴスから資金を回収できなくなり、それが損失となりました。

単純化して言えば、事業に失敗して債務不履行に陥りそうな会社に貸し出しを行っていた金融機関が担保を売って資金回収を出来たかどうかと同様のシンプルな構図です。

今後は関連する金融規制強化に注目

今回、問題となったのはファミリーオフィスによるトータルリターンスワップです。

この契約下では株式の保有状況はアルケゴスではなく証券会社の名義となるため、外部からはアルケゴスが果たしてどれほどのリスクを抱えているのかが全く分かりませんでした。さらに、複数の証券会社と同様の契約を結ぶことで資金をさらに膨らませることが可能になります。

ファミリーオフィスの破綻は資産市場全体にとっては大きな影響はありませんが、銀行部門を傘下に持つ大手金融機関や大手証券会社に損失が波及すると金融システム全体のリスクとなりえます。アルケゴス問題を受けて今後はこうしたファミリーオフィスやトータルリターンスワップ契約への規制強化が予想されます。

米証券取引委員会(SEC)は、アルケゴス問題が金融市場に与える影響を重点的に調査しています。米商品先物取引委員会(CFTC)のダン・バーコビッツ委員は「アルケゴスの崩壊とそれに関連する多額の損失は、ファミリーオフィスが金融市場に大混乱を引き起こし得ることを鮮明にした」と規制強化に前向きな発言をしています。また、イエレン財務長官は、金融安定監視評議会 (FSOC)が投資ファンド規制専門のタスクフォースを復活させたと発表しています。

こうした動きは、金融市場の安定化という点では長期的には望ましいものです。しかし、トランプ政権と比べてバイデン政権は金融規制に積極的であり、さらに踏み込んでヘッジファンド全体への規制が強化されるようであれば、今後の株式市場にとってややネガティブと捉えられるおそれがあります。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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