【桜花賞】サトノレイナス飛躍の時が来た 現役単独トップの桜3勝トレーナーへ「国枝流」の本気

背景の桜に映えるサトノレイナス。第81代桜花賞馬の称号を手にしたい

現役単独トップとなる「桜3勝トレーナー」の座がかかる国枝栄調教師(65)。2010年アパパネ、18年アーモンドアイと過去の2頭は後に牝馬3冠をも達成しているのだから、その重みは桁違いだ。管理馬が早枯れせず、活躍し続ける秘訣は決して功を焦らず、しかるべき時を待つ――。そんな名伯楽が第81回桜花賞(11日=阪神芝外1600メートル)を前にして、阪神JF時には見られなかった“仕掛け”をサトノレイナスに施してきたとなれば…。当時のハナ差を逆転することなど造作もないことだ。

無敗の桜花賞制覇に挑むソダシ陣営が、最も警戒すべきライバルは? 昨年暮れの阪神JF2着馬サトノレイナスがその“正解”となるだろう。単に当時がハナ差の大接戦だったからではない。サトノレイナスが所属する国枝厩舎の戦略が一層の不気味さを際立たせているからだ。

「国枝流」――。それを端的に記せば「飛躍をせかさない」の一語に尽きよう。特に近年「国枝流」の傾向が顕著に表れるのが、牡馬と比して早熟と見られる牝馬へのアプローチだ。

代表格は6歳、25戦目にして中山牝馬Sで重賞初制覇を遂げたフロンテアクイーンであり、今や厩舎の大黒柱であるカレンブーケドールも目覚めはオークス間際のスイートピーSから。さらには5歳にしてオープン入りを果たしたドナアトラエンテ(ジェンティルドンナの全妹)などなど…振り返れば“遅咲きのヒロイン”は枚挙にいとまがない。これこそが「国枝流」なのだ。

ちなみに2歳女王の桜花賞制覇は2010年までさかのぼるのだが、その覇者が国枝厩舎所属のアパパネであることも、管理馬の伸びシロ、奥行きを示す史実である。

さて、そんな名伯楽が今年の桜花賞にかなりの本気を見せていることにお気付きか。まず思い出してほしいのは、前走の阪神JF時の臨戦過程である。

当時は放牧明けで2か月ぶりの実戦。その背景に反して2週前は南ウッド5ハロン69・3秒、1週前は67・7秒。当該週(67・5秒)を含めてGⅠを“勝ちにいく”調教は断じて施していなかった。

それが今回はどうだ。2週前に南ウッド5ハロン66・9秒、1週前は65・0秒の好時計をマーク。目を見張るギアチェンジは陣営の本気度のみならず、サトノレイナス自身の進化の証しでもある。主戦・ルメールは1週前追い切りの手綱越しの感触をハッキリとこう口にした。

「体が大きくなり、パワーアップしました。フットワークも反応も良く、心身ともに充実している。今年は楽しみです」

決してせかすことなく、待っていた“飛躍の時”を感じているのは指揮官も同様だ。

「昨年の暮れに比べて気持ちに余裕が出て、動きも迫力を増してきたね。乗ったルメさんも満足してくれたみたいだから。冷静な馬なので休み明けでも大丈夫。(全兄の)サトノフラッグは今のところ弥生賞がベストパフォーマンスになってしまっているけど、こちらは本番で結果を出してほしい」(国枝調教師)

イメージを重ねているのは、レースを重ねるごとに進化を繰り返し、現役最強のまま引退したアーモンドアイだろうか。そう、芝GⅠ9冠を成し遂げた“史上最強女王”の最初のタイトルがこの桜花賞だった。サトノレイナスもまた同様に初戴冠を狙うこのクラシック第1冠が新たな伝説の始まりになるのかもしれない。

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