厳しい認定、外国人を取り締まる役所が担当

あなたの隣で~難民鎖国ニッポン 第1回

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 「難民」と聞くと、遠い国の人たちを思い浮かべるでしょうか。

 実は、日本にも難民は大勢います。あなたの隣で暮らす外国人も、難民かもしれません。

 そんな難民に関わる仕組みを、政府は大きく変えようとしています。入管難民法の改正を国会に提案したのです。でも、難民を支援する団体などは、この法案に強く反対しており、野党は対案を出しています。二つの法案の審議が近く始まる予定です。

 政府の法案が可決されれば、難民以外の外国人にも大きな影響が及びます。どんな中身で、何が問題なのでしょうか。できるだけ分かりやすく、連載で考えていきます。(共同通信編集委員=原真)

内戦から逃れてきた人たちが暮らすシリア北西部イドリブのキャンプで、コロナウイルス対策のマスクを受け取る子どもたち=2020年5月(ロイター=共同)

 ▽故郷追われた8千万人

 最初に、難民の現状を見ておこう。

 難民を支援する国際機関・国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、広い意味での難民は2019年末、世界で約7950万人に達した。戦争や災害、迫害などの多発で、10年前の2倍近くに急増している。地球上の100人に1人、日本の人口の6割よりも多くの人々が、故郷を追われた計算だ。内戦が続く中東のシリアやアフリカのコンゴ民主共和国などから脱出した人が目立つ。

 その中には、助けを求めて日本に来た人もいる。法務省の組織である出入国在留管理庁(入管庁)によれば、19年に日本で難民認定を申請した人は、1万375人に上る。

 ▽難民とはどんな人か

 日本も加入する難民条約は、加入国に難民を保護するよう義務付けている。この場合の難民は「条約難民」とも呼ばれ、上記の「広い意味での難民」のごく一部に相当する。難民条約の定義では、難民とは、人種や宗教、政治的意見などを理由に、迫害を受ける恐れがあるため、母国から海外へ逃れた人を指す。

 分かりやすいのは、独裁国家で反政府運動に加わり、当局から指名手配されているような人だ。ふるさとが内戦の舞台になってしまったため、仕方なく逃げた人などは、広い意味での難民ではあっても、条約上の難民には当たらない。この連載では基本的に、「難民」という言葉を「条約難民」の意味で用いることにする。

 ▽2段階で審査

 難民は来日したら、入管庁に難民認定を申請する。入管庁は審査した上で、難民と認めるかどうかの判断を下す。当たり前だが、難民自身が迫害の証拠を集めたり、母国から持ち出したりすることは難しい。入管庁の職員は、本人からの事情聴取や、出身国の状況についての客観的な資料などを基に検討する。難民と認定されれば、在留を許可され、日本で生活できるようになる。

 認定されなかった人は、「審査請求」という手続きで、再考を求めることができる。二審に当たる審査請求には、入管庁職員以外に、有識者から選ばれた「難民審査参与員」が参加し、法務大臣は、この第三者の意見を尊重して、認定するかどうかを決める。

 審査請求でも認定されなかった場合は、行政訴訟で争うことが可能だ。

認定NPO法人・難民支援協会による支援プログラムで、日本語を学ぶ前にラジオ体操で体をほぐす難民申請者=2019年11月、東京都港区のダイキ日本語学院東京

 ▽認定率0・4%

 では、実際にどれだけの人が日本で難民と認定されているのか。

 19年は44人だった。(うち1人は審査請求での認定)。認定・不認定の処分を受けた総数を分母にした認定率は0・4%で、99%以上が不認定になっている(注1)。

 UNHCRの統計によると、同じ年のドイツの難民認定数は5万3973人、カナダの認定率は55・7%。他の先進諸国と比べ、日本は認定数も認定率も桁違いに少ない。そのため、内外から「難民鎖国」と批判されている。日本が多額の資金を提供しているUNHCRも「他の先進国に比べ、難民認定の基準がかなり厳しい」(フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官)と指摘する。

 審査請求で有識者が「難民と認定するべきだ」と意見書をまとめたのに、法相が不認定とした例もある。何回も難民申請を重ね、裁判で闘った末に、ようやく認定されるケースは少なくない。

 

 ▽「手続き乱用」と入管庁

 なぜ、そんなことになっているのか。

 難民認定数・認定率の少なさについて、入管庁の佐々木聖子長官は「個別の判断の積み重ねだ。大量の難民を生じさせる国との地理的条件などは国によって異なり、認定率を他国と単純に比較するのは相当でない」と国会で答弁した。入管庁幹部は、難民申請者の中には、日本にとどまるために、認定手続きを乱用している人がいる、と強調する。

 しかし、例えばトルコの少数民族クルド人は、他国では多数が難民と認められているのに、日本では1人も認定されていない。難民を支援する弁護士らは「日本と友好関係にあるトルコ政府に配慮しているのではないか」と、政治的影響を疑う。

 ▽摘発と保護の両立は無理

 確かに、出稼ぎなどのために、正規の手続きを経ないで日本に入ったり(不法入国)、定められた在留期間を過ぎても日本に残ったり(不法残留)する外国人は存在する。これら不法滞在者の摘発や強制送還を担当する入管庁は、外国人を疑うのが仕事なので、難民認定手続きを任せるべきではない、との声も強い。外国人の取り締まりと保護の両方を同じ行政機関が行うのは無理がある、というわけだ。全国難民弁護団連絡会議代表の渡辺彰悟弁護士は「右手で追い出しながら、左手で受け入れることはできない」と訴える。

法務省と出入国在留管理庁が入る中央合同庁舎6号館=2017年4月、東京都千代田区

 (注1)

 1975年のベトナム戦争終結後、ベトナムとカンボジア、ラオスのインドシナ3国から小舟で脱出した「ボートピープル」が、日本を含む周辺国に次々に漂着した。対応を迫られた日本は81年、難民条約に加入し、難民の受け入れに踏み切った。ただし、条約難民として認定したのは、2020年までに841人にとどまる。

 この条約難民とは別枠で、緊急避難的に受け入れたインドシナ難民とその家族も1万1319人に上る。10年からは、やはり条約難民とは異なる枠組み(第三国定住)で、タイやマレーシアのキャンプからミャンマー難民194人も迎え入れている。合わせると、日本は20年までに、1万2354人の難民を受け入れてきたことになる。

 このほか、難民とは認定しなかったものの、人道的配慮から日本で暮らすことを認める「在留特別許可」をした人が累計2709人いる。

 20年は新型コロナウイルス感染症の影響で、来日する外国人が激減したことから、難民認定申請数も3936人と、前年の4割以下に減った。難民と認定されたのは47人(うち1人は審査請求での認定)、認定率は0・5%、人道的配慮による在留特別許可は44人で、前年とほぼ変わらなかった。(続く)

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