ひき逃げ「心痛まないのか」 天草市の過失致死、時効まで1カ月

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時効まで残り1カ月と迫る中、仏壇の前で思いを語る山切征利さん(左)と野江子さん=1日、天草市

 熊本県天草市亀場町で2011年、市職員の山切大輔さん=当時(27)=が車にひき逃げされて死亡した事件は、7日で自動車運転過失致死罪の公訴時効(10年)まで残り1カ月となった。父征利さん(81)、母野江子さん(71)は、祈るような思いで犯人逮捕の知らせを待ち続ける。

 「もしもあなたに届くなら、言葉じゃ伝えきれなかった、『ありがとう』を送るよ」。同市天草町の自宅で1日、野江子さんは住職から教わった歌詞を引用し、仏壇の大輔さんの遺影に優しく語り掛けた。毎朝続ける日課だ。

 事件は11年5月7日未明、天草工高前の県道で起きた。路上に倒れていた大輔さんを通行人が見つけ110番通報。現場には、約60メートルにわたり引きずられた跡があり、大輔さんは外傷性ショックで亡くなった。

 県警は延べ約7千人の捜査員を投入。「白っぽい軽乗用車が立ち去った」という目撃情報を得て、天草地域を中心に約3千台の車両を調べた。しかし、現場の遺留品が極めて少なかったこともあり、容疑者の特定に至っていない。

 大輔さんの両親も、市内のショッピングモールなどで情報提供を求めるチラシを配布。命日には毎年、現場周辺でドライバーに呼び掛けてきたが、有力情報はないまま時間だけが過ぎた。大輔さんを救護せずに立ち去った道交法違反(ひき逃げ)の罪は、18年5月に時効(7年)が成立した。

 征利さんは「犯人にとっては逃げ得かもしれないが、人間としてどうなのか」と悔しさをにじませる。

 両親は今も毎週、自宅から車で約1時間かけて事故現場を訪れ、花や缶コーヒーを手向ける。1月、大輔さんが事故当時着ていた衣服が県警から還付された。「大輔、痛かったね」。大切な遺品が親元に戻って安堵[あんど]した一方、改めて深い悲しみが込み上げたという。

 野江子さんは「犯人に言いたい。あなたは心が痛みませんか、と。出てきて、息子の墓に『ごめんなさい』と手を合わせてほしい」と涙ぐんだ。

 天草署の中園貴博交通課長は「最後まで諦めず、捜査を続ける。ささいなことでも不審な点を思い出したら連絡してほしい」としている。同署TEL0969(24)0110。(米本充宏)