追い付けない言葉

 「靴の似合う有名人」に贈られる賞を受け、タレントのルー大柴さんは語った。「フォックスにつままれた感じです」。わざわざ英単語を挟む話芸と知っていながら噴き出した▲すぐにキツネと分かるから笑える。知らない英単語だと話が通じない。5日の「声」欄に載った高校生、秋元優花さんの意見にうなずいている。最近よく聞く「エビデンス」という単語が気になるという▲調べたら「証拠、根拠」を指すと分かったが〈知らないと、情報の意味が正しく伝わってこない上に、恥ずかしいとさえ感じる〉。確かに、コロナ禍で「よく聞くが、よく知らない英語」は一気に増えた▲この欄でも「フェーズって何?」と書いたことがある。「段階、局面」という訳語もそうだが、「県は感染の広がり具合に応じて四つのフェーズに分けていて、各段階で確保する病床の数が変わる」といったおおまかな意味も、どれほど知られているだろう▲困ったことに日本語でもよく分からない場合がある。「まん延防止等重点措置」とは、感染が広がる恐れのある地域に集中的に取る対策だが、すでに「恐れ」の域を超えた所も増えている▲国民が言葉に追い付けないだけではない。国が、政治が、「まん延」に追い付けなくなっていないか。首をひねるのは英語や新語に限らない。(徹)

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