小林祐希が誹謗中傷と戦う理由。「経験したことないのに、本当に理解できるのか?と」

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アスリートに対するSNSを通しての誹謗中傷がたびたび問題になっている。アスリートはいわれなき誹謗中傷に対してどのように対応し、伝えるべきだと感じた思いを発信していくべきなのか。そんな中、カタールでプレーする小林祐希のスタンスは時に賛否両論を巻き起こすが、そこには芯がありブレがない。小林の考える「人のことをごちゃごちゃ言うやつら」への対応と、批判の対象となりやすい「アスリートの社会的問題に対する発信」に対する持論とは。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=橋本涼太)

「今、暇だな」という時は言い返す。忙しい時は無視

――SNS内での誹謗中傷に対してどのように考えていますか?

小林:人のことをごちゃごちゃ言うやつらに、別にそんなに興味はないんですけど……。俺はムカついたりとか、イラッとしたら言い返せるのでいいんですけど、その「イラッ」とか「ムカつく」という気持ちの前に「悲しい」とか「寂しい」となってしまう人がいる。深刻な問題だと思います。そういう人たちがいることを思うと、そういう人たちがどういうふうに解決していくのかというのは、すごく大事なことですし、俺はそういうタイプじゃないので正直わからないのですけど……。

俺は自分に対して何か思ったことがあったら直接言ってくれればいいと常々考えていますし、別にそれをSNSで言ってくれてもいいんだけど、その代わり言いたいことがあれば言い返すよと。それに対して「おとなげない」とか「プロ(サッカー選手)なんだから」という意見もありますが、プロである前に人間だし、ムカつくことを言われたら、それは言い返すでしょうと。俺の考えはシンプルにそれだけですね。

――言い返す時と無視する時、その使い分けはあるんですか?

小林:それは完全に気分ですね。「今、暇だな」という時に、「何かきたな、ちょうどいい」と思って返す時もあるし、忙しい時は無視しますし。カタールに来てからは日本人会の人たちにすごく良くしてもらっていて、カタールのロイヤルファミリーを紹介してもらったり、毎週バタバタしていて今はSNSを見る時間が減りましたけど。

――以前も「暇つぶし」と表現していましたが、本当に自分の時間がある時には言い返すということですね。

小林:誹謗(ひぼう)中傷をしている人たちもそういうことじゃないですか。自分が暇な時に何かネタを見つけて、「よし、じゃあ言ってやろう」という感じでやってるじゃないですか。言い返すほうも同じですよ。

なぜアスリートは誹謗中傷の対象になりやすいのか?

――過去に受けた誹謗中傷で、特に印象的だったものはありますか?

小林:俺、すごい数のメッセージを受けてきているので(苦笑)。

――リプライだけではなくてメッセージも?

小林:Instagramも、Twitterもダイレクトメッセージよくきますよ。直接、俺個人宛にメッセージを送ってくる人もいれば、みんなが見ているところで絡んできて広がりを見たい人もいれば、いろんな人がいるんですけど。なんだろう、例えば「親の顔が見てみたい」とか、家族のことを言われた時は本当にムカつきましたけどね。「おまえに関係ねえだろ。俺の家族の何がわかるんだ」と。俺個人のことだったら全然いいんですけど、周りの大切な人たちのことを言われるとね。

――アスリートが誹謗中傷の対象になりやすいのはなぜでしょう?

小林:単純に有名人に絡みたいんじゃないですか? 有名人だから言ってもいいとか悪いとか、そんなのもたぶん考えていないんじゃないですかね。自分が絡んで炎上させたいだけなのかなと。本心まではわからないですけど。ダイレクトメッセージであっても、向こうも名前や肩書を出して連絡してくれたら、俺は普通に家の住所を教えて構わないですけどね。「ここに来てください。直接話しましょうよ」って。でもこれまでそういう人は一人もいなかった。ほとんどの人が、そのためだけに作ったアカウントで、何も公開せずに文句だけ言ってくる感じの人ばかり。若い時はすごくムカついてガンガン返していましたけど、今はそんな体力もないというか、疲れちゃうので。

「本当にあなたに大坂なおみさんの気持ちがわかるの?」

――昨年はテニスの大坂なおみ選手のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)についての発信もたくさんの議論を巻き起こしました。人種差別などの社会問題についてアスリートは発信するべきではないという意見はまだまだ日本では根強いです。

小林:たぶん日本しか知らない人たちがそういうことを言っているのだと思います。いろいろな国に行って、いろいろな人種の人たちと生活していたら、一方的な視点で「ああしろ、こうしろ」とは口を出せないと思います。実際に海外では肌の色についての差別が存在します。アジア人も実際に海外で差別を経験した人は多いです。日本人だって言われていますからね。それを身をもって感じたことのない人たちが、ああやってネット上で好き勝手書き込んでるじゃないですか。「何をそんな軽く書き込んじゃってるの?」と思う部分はあります。論点がズレているとか、合っているとか、そういう問題じゃなくて、「あなた自身は経験したことないでしょ?」というところですよね。

――そういう人たちはリアルな感覚を持てていないということですね。

小林:「本当にあなたに大坂なおみさんの気持ちがわかるの?」という。ヨーロッパでプレーして、いろいろな人種・宗教も含めて、さまざまな人を見てきたうえで、俺はまだ人種差別に対してコメントできるほど理解しきれていないと思っているので。理解しようとはトライしています。どういう苦しみとか悲しみがあるのかな、怒りがあるのかなと、少しでも理解できたらと試みている最中です。

同じくカタールについても勉強している最中です。昔から引き継がれているDNAのようなところから学ばないといけないので。例えば日本でいう韓国とか中国、北朝鮮との関係みたいなものが、カタールにも例えばサウジアラビアとかUAE、バーレーン、イラン、イラクとの関係があるわけです。あと裕福なカタールだと、フィリピン人とかインド人、インドネシア人はお手伝いさんという感じに見られている現状もあります。

――労働者ということですね。

小林:そういうものをリアルに見て、感じて、ただそれに対してどういうコメントをすればいいのか、まだ全然わからないです。それなのにいちいちネット上で偉そうに発言できる人が俺には理解できないです。

アスリートは社会問題とどう向き合うべきか

――アスリートが社会問題に対して自らの意見を発信すること自体はどう思いますか?

小林:例えば大坂なおみさんは、お父さんはハイチ系アメリカ人で、お母さんは日本人じゃないですか。日本で生まれて、テニス選手として育ったのはアメリカですよね。プレー以外のところでも、いろいろな葛藤とか苦労とか絶対にあると思うんです。それでも全てを背負ってテニスコートに立ってプレーしているわけじゃないですか。そういう人が自らの意思で発信するべきだと感じたことというのは、俺は発信していっていいと思うんです。

それは選手としてのレベルとかそういうのは全然関係なくて。自分のバックグラウンドとかルーツを背負って真剣に競技をしている人たちが、そのプレーをしているスポーツ以外のこと、例えば容姿とか、肌の色とか、生まれとかで何か文句を言われるのってすごく不公平じゃないですか。例えばサッカーの試合で、「あいつブラックだから嫌い。応援しない」とか、「あいつホワイトだから応援しようぜ」というのは絶対に許してはいけない。そういうことを体験したり感じたりしたのであれば、それは毅然(きぜん)とした態度で発信していくべきだと思います。

――サッカー界でも、人種差別に対して「絶対に許してはいけない」というスタンスで臨んでいます。

小林:これまではどこに行ってもありましたし、サッカー界としては今後も地道に発信し続けるしかないと思います。別に言っていないだけで、俺だってこれまで何回も人種差別的なヤジや挑発を受けてきました。

――そうした時はどんな感情になるのですか?

小林:めちゃくちゃムカつきますけど、歯を食いしばって、「サッカーでわからせないとな」と考えるようにしています。過去に黒人選手からアジア人であることをバカにされたこともありますし、そこで俺が彼らに対して、人種差別用語で言い返したら一緒じゃないですか。もちろんその場で怒りをあらわにはしますけど、基本的にはサッカーでわからせるという気持ちでやってきました。

<了>

PROFILE
小林祐希(こばやし・ゆうき)
1992年4月24日生まれ、東京都出身。カタールのアル・ホール所属。ポジションはミッドフィルダー。東京ヴェルディ下部組織を経て、2011年にトップチーム昇格。1年目から中心選手として存在感を発揮し、2012年にジュビロ磐田に移籍。2016年にオランダ1部のヘーレンフェーンに移籍。2019年9月にベルギー1部のワースラント=ベフェレンに移籍して背番号10を背負い、2020年9月にカタール・スターズリーグのアル・ホールへ新天地を求めた。