<レスリング>「いつも通り、平常心を持って」(井上謙二・男子フリースタイル強化委員長)

 

 【アルマトイ(カザフスタン)、文・撮影=布施鋼治】「いつも通り、平常心を持ってやろう」

 カザフスタン最大の都市アルマトイに到着した6日の夕方に行なわれた男子フリースタイル・チームの初調整。4名の代表選手たちを前に、井上謙二監督(自衛隊)はそう切り出した。

代表選手の練習を見つめる井上謙二・男子フリースタイル強化委員長(自衛隊)

 いったいどんな思惑があったのか。8日午前10時過ぎから2時間の調整を終えたあと、井上監督はその理由を冷静に語り始めた。「あまりにも気負ってしまったり、焦ったりしてしまうと、周りが見えなくなってしまう。セコンドの声も聞こえなくなってしまう」

 2004年アテネ・オリンピックで銅メダルを獲得するなど現役時代は何度となく修羅場をくぐってきた井上監督は、大舞台における気持ちの変化を痛いほど経験している。だからこそ、そのシンプルな言葉は重く響いた。

 「海外遠征ではいつも通りの練習だったり、いつも通りの服を着たり、いつも通りの動作をすることが重要なことだと思います」

 海外だからといって、よそゆきの自分をつくろう必要はない。井上監督は「アルマトイで勝ち抜くために、ずっと練習をやってきたわけです」ということを改めて強調した。

いつも通りの自分で、目の前の相手に全力で闘う!

 「ここ(アルマトイ)では、やってきた対策を淡々とやるだけです。もちろん、ちょっとした修正はするけど、軸を動かすようなことはしない。いつも通りの自分を持ち、目の前の相手を相手にしっかりとやるべきことをやり、最後は自分の右手が上がるようにベストを尽くすだけです」

 そんな井上監督に出場選手の現在を聞いてみた。まずは57㎏級の樋口黎(ミキハウス)について。

 「コーチ陣の計画通り減量は進んでいる。マークすべき対戦相手はキルギスタンとモンゴル。とくにモンゴルは難敵になるでしょう。しかし、樋口選手の実力を出せば、間違いなく勝てると信じています」(注=取材時点で組み合わせは不明)

3度目のオリンピック出場を目指す高谷惣亮(ALSOK)

 ──ロンドン、リオデジャネイロに続き、3回連続でアジア予選に出場することになった86㎏級の高谷惣亮(ALSOK)について。

 「過去2回とも高谷はカザフスタンで枠をとっているが、過去2回と比べると状況は変わっている。年齢も重ねているが、そこをまた武器にしている。調整も年齢に合わせた調整をしている。そのせいで、逆に体力も上がってきている。それをしっかり試合につなげて出してもらえれば」

 ──97㎏級の赤熊猶弥(自衛隊)は?

 「こちらに来てまた調子を上げている。スピードと力はある。この階級には、彼より格上の選手もいる。でも、試合はやってみないと分からない。赤熊の技がひとつかかれば、大きなポイントを取れる。大きな勝負どころを取れる。そういう力を持っているので、そこを出せるようにサポートしていきたい。期待は大きい」

 ──125㎏級の田中哲矢(自衛隊)は?

 「最重量級は日本ではウイークポイントと言われているけど、それを打ち破るべく、しっかりと練習をやってきました。ライバルたちもいる中、その代表として田中はやってくれると信じています。勝つパターンはやってきたので、それをしっかりと試合ではめられるようにしたい。勝ちパターンは前に出て相手が押し返してきたところで崩していい角度を取ってポイントにつなげるところです」

 すでに東京オリンピック出場を決めている乙黒兄弟に続け-。

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