クイーンのチケット争奪戦とユーミンの歌詞に出てきた山手のドルフィン回想録 1981年 2月13日 クイーンの来日公演「ザ・ゲーム・ツアー」が日本武道館で開催された日(2日目)

クイーン来日決定、武道館公演アリーナ席を確保する!

今回は『千鳥ヶ淵の夜桜に誓ったクイーン来日武道館公演、忘れじのチケット争奪戦!』の続きになります。

私の通っていた都立高校は非常に自由な校風で私服通学。高校2年生になると進学コースと就職コースにクラスが分かれ、私はとりあえず進学コースを選択。放課後はライブや映画館に通う日々だった。

進学コースの中に唯一話しが合いそうな放送部の男子S君がいた。彼は音楽に詳しく、ギターを弾くらしく私のファイルのクイーンやジャパンなどのシールに反応し、すぐに仲良くなった。しかも彼は、1979年のクイーンの武道館ライブを実兄と観ていたことが判明。アリーナ席で観た私を羨ましがり、次にクイーンが来日したら一緒にアリーナ席で観ようと約束し、一気に距離が近くなった。

彼は原付の免許を取り、校則でバイク通学は禁止だったが、たまにバイクで通学してはこっそり私と2人乗りしてレコード屋や本屋に乗り付け、買い物をし、駅まで送ってくれた。

すぐに校内では私達が「付き合っている?」と噂になった。お互い照れながら否定も肯定もしなかった。噂を気にせず冷やかされながらも、毎日私と一緒に帰ろうと校門で待っている彼は逞しく眩しかった。

そんなある日、ついにクイーンが来日することが決まった。私達の約束を実行するには、先ずは日本武道館アリーナ席の確保だ。

学校至近の溜まり場の甘味屋で、私は彼と打ち合わせに入った。

どうやら今回の公演は東京武道館のみ5回。これは地方客を含め壮絶な争奪戦になること違いない。私はファンクラブの先行販売で2枚申し込むけれど、彼は一般発売前の先行電話予約を手伝ってと頼んだ。

公衆電話が断然有利? チケット電話予約の裏技

スマホ全盛の今はどうなのか不明だが、当時バンドマンでNTTの電話線工事をやっていた先輩から聞いた電話予約の裏技がある。

それは、同じ電話番号に一極集中した場合、緊急性の高い発信から優先して繋ぐという大前提があるらしく、固定電話よりも断然公衆電話が有利とのことだった。

1. 警察署内の公衆電話からかける
2. 赤、ピンク 黄色 緑の公衆電話から市外局番03を付けてかける
3. 東京03なら、できるだけ遠方のほうが優先して繋がりやすくなる

この話を彼にしたところ、1はかなり敷居が高い上、私の住まいの辺りは警察署は無かったから実行したことはない。ただし成功率は高いと実績報告あり。2と3の方法を、先行予約時に2人で高校の最寄り駅の公衆電話で実行しようということになった。

そして先行予約の当日、駅で待ち合わせして2人並んで駅の公衆電話に沢山の10円玉を積み、駅の時計と睨めっこしながら10時きっかりに電話開始。

切ってはかけ、切ってはかけ… その度に10円玉は返却される。そんな作業を始めてから約10分後、私の方が繋がった! 彼は満面の笑みとガッツポーズで私の肩を抱き寄せた。私にはあえて2月13日、クイーン武道館公演の2日目を予約した。理由は、翌日がバレンタインデーだったから。

2人でウキウキし、堂々と1限目を遅刻して登校。もちろんクラスメイトは大騒ぎ。担任には呆れられ怒られたが、確か居残り掃除を命じられた。

ハマトラを体現するマドンナは、“山手のドルフィン” の孫?

そんな中、「良かったらノート貸しますよ」と私達に声を掛けて来た女子がいた。我が校のマドンナJちゃんだった。テニス部のキャプテンで海外育ち。小麦色の引き締まった身体で、モデルのようなルックスに他校から男子が見に来るくらいの美女だ。

高校は私服だったので、彼女はフクゾーのポロシャツの襟を立てミハマのローファーにキタムラのバッグで通学していた。動くハマトラ代表で、よく雑誌のお洒落スナップに掲載された。そして噂によると “山手のドルフィンの孫” らしかった。

そんな非の打ちどころのない美女がノートを貸すと申し出てくれたら、断る理由などない。このことをきっかけに、全く真逆の私と彼女は急速に仲良くなった。

オフコースとユーミンが大好きな彼女は「英語の唄ってだけで私頭悪いから無理ー!」と笑う彼女のような人を、「銀の匙を咥えてうまれてきた子」と言うのだろう… と日々思った。

「S君と付き合ってるの?」

期末試験が終わった帰り道、彼女から尋ねられ、私は、こう答えた。

「恋人か… というなら、付き合ってないよ」

嫌な胸の動悸がする。次の瞬間、

「良かったー!! 私、S君のこと、どんどん好きになってる。彼、凄く優しいよね」

私は高鳴る動悸を鎮めながらS君を褒めた。彼女の顔が高揚してるのが分かる。

「ロニーだから初めて相談したの、彼と付き合えるかな?」

と完璧な美女は溜息まじりに聞いてきた。

「応援するよ! 私も凄く嬉しい!」

無理矢理作り笑顔で答えた。

「有難う。ロニー大好き。お礼に今度お爺様の店、根岸って駅からバスなんだけど招待するからご馳走させて」
「それ… 山手のドルフィン?」
「そう!ロニーと一緒に、出来たらS君も連れて行きたい」

行かなかったけど見えた気がした、松任谷由実「海を見ていた午後」の光景

彼女と別れて自宅までの電車内で、ずっとユーミンの「海を見ていた午後」を口ずさんでいた。

S君と電話予約したチケットは2月13日、日本武道館、アリーナの前からG列目の8… ほぼ正面だった。

しばらく考えて、私は彼女に定価でこのチケットを2枚譲ることにした。

彼女は驚きながらチケットを買い、さらに翌日がバレンタインデーであること、クイーンの音源はS君に借りて… とアドバイスした。

S君には「法事で行けなくなって、Jちゃんがクイーン観たいっていうから、券を譲ったから2人で行って来て!」と伝えた。

程なくして、コンサート前に2人は付き合った。バレンタインデーに2人がドルフィンに行った話をS君から聞き、彼女からはクイーンのコンサートのお土産にパンフレットを貰った。

表面上はよく3人で一緒にいたが、私は彼のバイクに2度と乗らなかった。そして、何度誘われても山手のドルフィンには行かなかった…。でも、「ソーダ水の中を貨物船が通る」のは見えた気がした。

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カタリベ: ロニー田中

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