〝驚異の復活〟池江璃花子が「競泳界の女イチロー」と呼ばれる天才的な部分

女子100メートル自由形決勝を制した池江は4位の大本里佳とハグ

競泳界の〝女イチロー〟だ! 東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権第6日(8日、東京アクアティクスセンター)、白血病からの完全復活を目指す池江璃花子(20=ルネサンス)が、女子100メートル自由形を53秒98で優勝。400メートルリレーの派遣標準記録を突破して同メドレーリレーに続いて代表権を獲得した。まだまだ回復途中の段階でも周囲が驚くパフォーマンスに、競泳関係者からは日本の誇る天才打者と重ね合わせる声も飛び出している。

もはや「女王」の風格すら漂わせていた。前日7日の予選、準決勝を全体1位で通過していた池江は、この日の決勝で唯一の53秒台をマーク。「予選からいいレースもできたし、決勝は絶対に53秒台を出すという目標を立てていたので、達成できてうれしい」と喜ぶ一方で「もうちょっと出したかったなというのが正直な気持ち」と悔しさものぞかせた。

同種目個人の派遣標準記録(53秒31)こそクリアできなかったが、リレーメンバーで堂々の代表入り。大会前の予想をはるかに上回る活躍で東京五輪本番の「主役」に躍り出た。その池江は闘病生活で一時、15キロ近く体重を落とした。現在は食事の回数や量を増やして少しずつ取り戻しているが、まだまだ回復途中の段階だ。

しかし、2004年アテネ五輪女子200メートルバタフライ銅メダルの中西悠子氏(39)は池江の復活を早い時期から〝予感〟していたという。昨年5月、NHKで池江の闘病生活や再びプールに入水する様子が映された。この放送を見た中西氏は「あのときのバタ足がめちゃくちゃ速かったんですよ。病み上がりで、あの体の細さで『そんなキックできるんや!』と。水の感覚ってすごい独特なんですけど、天性のものがあるなと衝撃を受けたのを覚えています」と振り返る。

以前のような体つきには戻っていないものの「今の体に合った体力と筋力がついてきているのではないでしょうか。それにレースの運び方も今の体重に合わせているというか、前半から独泳状態だった当時と比べて(他の選手に)前に出られても慌てずに力を出せているように感じます」と分析した。

回復途上の段階でも自身を〝リニューアル〟しながら結果を出せるのは、まさに超一流選手のなせる業。特に勝負どころで周囲の想像を上回る泳ぎを披露する姿は、まるで大リーグ・マリナーズのイチロー氏(47=会長付特別補佐兼インストラクター)を連想させるとの声も飛び出ている。

ある競泳関係者は「リラックスした上で最大限に集中するという相反する部分を同じ場所に持っていくのがトップアスリートの条件。イチロー選手もよく言っていた。普通は集中しようとすると力む。非常にリラックスしながら集中しているので、最適な力とタイミングでベストパフォーマンスを出すことができる。場所の調整、空間の調整、力量の調整とタイミングをドンピシャに合わせてくる。池江選手はそこが天才的」と驚嘆した。

イチロー氏と言えば、2009年のWBCでの活躍が有名。大会の開幕当初から不振が続いていたが、韓国との決勝戦で値千金の決勝打を放ち、日本中を熱狂させた。競技こそ違えど、その勝負強さは相通じるものがあるというわけだ。

天才打者をほうふつとさせる天才スイマーは、五輪本番でどんな泳ぎを見せてくれるのか。

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