雨&カオスな路面を乗り越え、NASCAR流の意地でやり切ったブリストル“ダートオーバル”戦

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 意地でやり切った。それが第一印象かもしれない。

 全米レースファン注目、ブリストルでのNASCARカップシリーズ&トラックシリーズのダートレース2戦だが、ブリストルのあるテネシー州はレース前の数日間にまさかの暴風雨に見舞われ、州内のいくつかの地域では洪水が発生するほどの被害が起きてしまった。

 その結果、カップ戦は金曜に50分間のプラクティス走行が2回行われただけで、翌土曜に予定されていた予選ヒートはキャンセルに。日曜の250周のレースも月曜16時からに延期となった。トラックシリーズは土曜夕方に予選ヒート(15周)、20時から決勝レースというのが当初のスケジュールだったが、予選ヒートのスタート直後から、跳ね上げられた泥が後続車のフロントウインドウやフロントグリルにこびり付き、多くのクルマで視界悪化やオーバーヒートが続発。結局、月曜正午へ延期に。

 このダートトラックは、もともとコンクリート舗装路面の上にわざわざダートを持ち込んで敷き詰めたもの。水捌けが悪かったのか、トラックのイン側には水たまりもでき、映像を見る限りではレースどころではないような雰囲気にもなっていた。

 だが、幸いにも月曜は素晴らしい青空が広がり、気温も涼しく、絶好のレース日和に。コース整備もしっかりと終えられていた。全米にNASCARのビッグイベント開催コースを8つも所有しているプロモーター『スピードウェイモータースポーツ社』の開催へのプライドと執念がイベント実現を成し遂げたというほかはない。見事な仕事ぶりだった。

 ドライバーにもおおむね好評だったようだ。金曜のプラクティス走行ではほとんどのドライバーがダートトラックへの習熟ぶりを見せており、金曜の2回のセッションでシボレー勢最速タイムをマークしたアレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ)は、「すごく楽しかった。タイヤの摩耗が少し気になるけど、それ以外はすべてうまく行った。こういったクルマは本当に面白い。ダートでの走行性は抜群だ。ちょっとラフになってしまったこともあったけど、それはレーストラックの特性。とんでもない楽しさだよ」と大はしゃぎ。

 また、トヨタ勢最速だった、ポイントリーダーのデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/JGR)も「とても楽しかったね。クルマをたくさんコントロールして、スロットルを操作して、ステアリングを我慢して……そんなことの繰り返しだ。僕の見立てだと、コースをオフラインしたときにラップを取り戻そうとするのにどこに行けばいいのか、またレーストラックのなかでいろいろなカラー(レーシングライン)を探してみることはすごく楽しく、興味深い点だった」

「いままでとは違うバンピーさはあったけど、全体的には楽しい1日だった。路面の印象は、スローなアスファルト路面のレースか、グリップの少ないアスファルトでのレースって感じかな。本当にマシンを横にスライドさせているわけではない。やろうとすればできるし、それもテクニックのひとつではある。でも、実際にはいつものようにドライブしているだけという感じで、視界の悪さを除けば、それほど大きな違いはなかったね」と表情は明るかった。

 ただ、路面が荒れていたことも事実だろう。金曜2回のプラクティスで総合トップだったライアン・ブレイニー(ペンスキー・フォード)はラフで滑りやすかったと話す。

「本当に荒れている。クレイジーなほど大きなディボット(穴ぼこ)がいくつもあった。スムーズにいくわけはないよね。荒れてはいるけど、うまくいきそうなことをやっていくだけで、レーンチェンジはみんなあまりやっていなかった。どれだけ真っすぐにスムーズに走れるかを確認し、タイヤを機能させ続けることが大事だ。多くのタイヤがすぐにダメになってしまうのを目の当たりにした。とくに右リヤは厳しい。右フロントでさえもすぐにグリップが低下し始めてしまう。決勝ではこのような状態になることが予想されるので、タイヤをセーブできるかが重要になってくるだろうね」

 その決勝はブレイニーの予想に反し、レースが進むにつれて走行路面のダートが剥がれ落ちていったことで、重機のロードローラーで踏み固められた土の路面が露出。通常の路面のようになっていき、タイヤの心配は予想していたほどにはならなかった。

レース序盤は走行ラインにダートが残っていた。これが巻き上げられ、グリーンフラッグ中はトラック全体が埃っぽくなっていた
ブレイニーの話していた穴ぼこ。コーナーの走行ライン上にあり、多くのクルマが仕方なしにここを通っていた

■課題も見つかるがイベントは成功。来春の開催も決定済み

 ただ、レース序盤は、フロントウインドウの視界悪化やオーバーヒートなども再び発生。また、多重クラッシュによるアクシデントが相次ぎ、コース上は大混乱をきたした。クラッシュには、ダートトラックでの経験が豊富で、優勝候補筆頭と見られていたカイル・ラーソン(ヘンドリック・シボレー)も巻き込まれてしまった。

 一方、トップ争いは、JGRの2017年王者マーティン・トゥルーエクスJrが100周の第1ステージを制し、ペンスキー・フォード駆る2018年王者ジョーイ・ロガーノが第2ステージを獲って、最終ステージの第3ステージへ。ロガーノはそこでも力強い走りを見せ、そのままチェッカー。ブリストルでの記念すべきダート戦を制した。

「素晴らしいよ! 信じられないレーストラックだ。このトラックの準備に携わったすべての人による最高の仕事のおかげだ。もちろん、ここ数日間でも多くの作業が行われた。この数週間で僕らもほかのマシンでダートコースを何周か走るなど多くの作業をしてきた。レース本番のトラックを走ることは重要だったし、クルーチーフのポール・ウルフとチームが最高のマシンを提供してくれたおかげで、勝利をつかむことができた」

「ちょっと緊張していたね。例年より初優勝者が多いし、毎戦優勝者が異なっているので、ここのヴィクトリーレーンにこのクルマを持ってくることができて最高だよ。ブリストルでの勝利ほど素晴らしいことはない。それに加えて、ダートが敷き詰められた最初のレースのウイナーになれたんだから、本当に特別なことだ!」

 気になるテレビ視聴率のほうだが、FOXの中継を310万人超が視聴し、1.8%を記録。これは2020年にブリストルで行われたカップレースよりも約100万人多い数字だったが、今年行われたカップ戦のレースのなかではもっとも低い視聴率だった。

 月曜に行われたトラックレースの視聴率は0.14%、視聴者数は61.8万人。これは今年行われたほとんどのトラックレースと同程度の数字だった。トラックのもともとの決勝スタート日時は土曜20時、カップ戦のそれは日曜15時半。高い視聴率を見込める時間帯だった。2戦とも延期後の開催・中継が平日の昼間ということを考えれば、悪くない数字とも言えるかもしれない。

 サーキット現地での観戦については、ソーシャルディスタンスが確保され、枚数制限はあったものの、売り出されたチケットは完売してもいた。これに気を良くしたブリストルのマネジメント陣は、来年の春に予定されているカップ戦もダートレースで行うことを早くも発表。そうしたもろもろのことを考慮すれば、今回のブリストルでのダートトラックレースは成功したと言えるだろう。

 この10数年はNASCARにとって非常に厳しい時代だった。ほとんどのレースで観客動員数が激減。テレビ視聴率も下落を続けている。NASCARは昨年、新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、36戦開催を完遂するという素晴らしい仕事をした。

 観客の入場制限がされたり、場所によってはまったく許可されなかったりしたこともあったので、その反動で今年はテレビ視聴率が改善されるのではないかと期待されていた。しかし、フタを開けてみると、2021年はひとつのレースを除いて記録的な低視聴率が続き、残念ながら状況に大きな変化は見られていない。

 NASCARの関係者は誰もがこの負の流れを変える方法の模索を続けてきていた。そこで昨年、手をあげたのがテネシー州にある名物オーバル、ブリストル・モーター・スピードウェイのプロモーターだった。ブリストルはハーフマイルのコースを巨大な観客席がぐるりと囲む競技場のようなオーバルで、シリーズを代表するトラック。

 1982年からNASCAR人気全盛期の2010年までのあいだは、ブリストルで開催されてきた最高峰カップ戦のチケットはすべて売り切れるほどの人気だった。だが、近年はストックカー人気低迷のあおりをもろに受け、観客スタンドが巨大なゆえに空席が目立つようになっていた。そこに新型コロナが追い打ちをかけ、経営への大打撃が避けられない状況になってもいた。

 そこでプロモーターらが出した解決策がオーバルコースのダート化。1周0.533マイル(約858m)のオーバルコース上に2万3000キュービックヤードもの土を敷き詰め、ダートトラックにしてレースを行うという前代未聞のチャレンジだった。

 実際のイベント開催を経て、多くの課題は見つかったものの、ひとつ仕掛けとしてまずは成功を収めた。来年の春はさらにスムーズな運営に期待できそうだ。

ダートは5層構造で一番上の層のダートはほぼ完全になくなってしまった。上から2層目のダート(粘土質と思われる)はロードローラーでしっかり踏み固められていたはずだが、徐々に削り取られていってしまったようだ
ブリストルでの記念すべきダート戦を制したジョーイ・ロガーノ(ペンスキー・フォード)