社員が自殺した際の事後対応について ~起きてしまった後、あなたの会社はどうする?~

皆さんこんにちは、精神保健福祉士の笹井です。
持続しているコロナ禍、皆さんはどのようにお過ごしでしょうか。

新年度を迎えるにあたり、2020年はどのような年であったか振り返りますと、やはりコロナ関連一色でしょうか。
私は相談窓口を担当しているのですが、例年にくらべて多かった印象のお問い合わせは「自殺に関すること」でした。

本日は「社員が自殺した際の事後対応」について書きたいと思います。

起きてしまう不幸とそれに対する反応について

自殺については、企業として予防に全力で取り組むことは当然ですが、それでも自殺を100%防ぐことは不可能です。
自殺の原因はさまざまで、職場以外の個人的な病気の問題であったり、金銭的な問題、家庭的な問題、対人関係であったりします。
職場以外の事項については、手の出しようがない部分がほとんどでしょう。

不幸な出来事というのは、生きていく上で不可避なものです。
自殺に関しては、地震や交通事故のような突発的な災害で亡くなることと違って「なぜ・どうして」という疑問符が出てきやすく、腑に落ちなさや寂寥感、無力感や怒りを生じさせやすいものであります。

「どうして頼りにしてくれなかったのか、自分は頼りにならなかったのだろうか」
「あの人が耐えられなかったのだから、この業務に耐えられるだろうか」
「自殺があったのに冗談を言って不謹慎だ」
「職場はちゃんとした対応をとっていたのか」
「自殺するなんて、心の弱い人がするものだ、自分は大丈夫」
など、人によって抱く感情はさまざまでしょう。

また、業務量や残業などの職場や上司についての不満がもともとあれば、不満が噴き出すことがあるやもしれません。
親しい人であれば、抑うつや不安の症状がおこり、治療が必要になることもあります。
そうなれば、職場の士気の低下を招き、生産性の低下が起こり、ひいては離職率を上げてしまうことにもなります。
自殺は、その亡くなる個人だけではなく、周囲の人に多大なる影響を及ぼすのです。

職場での対応について

では、社員が亡くなった知らせを受けた後にはどのような行動をとればよいのでしょう。

① 時間を確保し、関係者の反応が把握できる人数で集まり、告知する

社員の方々が時間を持てる場を作ってください。
あわただしくバタバタしているときは事実を受け入れる余裕がない場合もありますので、葬儀が終わってからも良いかと思います。

集まる人数は、10人くらいまでが理想的です。
人数が多すぎると、自殺についての社員の反応を的確に捉えられなくなります。
少人数の職場であるならば、個別に面談を実施して告知を行ってもよいでしょう。

② 自殺について事実を中立的な立場で、事実を淡々と伝える

噂は瞬く間に広がり、尾鰭がつき話が大きくなります。
ショックを与える事実ではありますが、正直な話をしましょう。
個人を貶めるようなこと、逆に美化するようなことを語るのはNGです。

③ 率直な感情の表出の機会を与える

関係した人々が集まって、率直な気持ちを語り合い、分かち合うことが重要です。
葬儀が済んでいるのであれば、お別れ会のような場を設けるのも良いでしょう。

感情を共有し、自分だけではないと思うだけで、負担が軽くなったと感じる人もいます。
中には率直に感情を出せない人もいるので、それはそれで構いません。
他の人々の話を黙って聞いているだけでもよいのです。

④ 起こりえる反応や症状の説明

感情の揺さぶりがあった後は、以下のような何らかの身体・精神的な症状が現れることがあります。

<起こる頻度が高い身体・精神的な症状の一覧>
● 眠れない
● いったん寝ついても、すぐに目が覚める
● 恐ろしい夢を見る
● 自殺した人のことをしばしば思い出す
● 知人の自殺の場面が目の前に現れる気がする
● 自殺が起きたことに対して自分を責める
● 死にとらわれる
● 自分も自殺するのではないかと不安でたまらない
● ひどくビクビクする
● 周囲にベールがかかったように感じる
● やる気がおきない
● 仕事に身が入らない
● 注意が集中できない
● 些細なことが気になる
● わずかなことも決められない
● 誰にも会いたくない
● 興味がわかない
● 不安でたまらない
● ひとりでいるのが怖い
● 心臓がドキドキする
● 息苦しい
● 漠然とした身体の不調が続く
● 落ちつきがない
● 悲しくてたまらない
● 涙があふれる
● 感情が不安定になる
● 激しい怒りにかられる

これは、特別なことではなく、誰にでも起こりえる反応であることを説明してあげましょう。

おおむね時間の経過によって、徐々に軽減していくことが多いですが、症状が増悪していったり、消退していかない場合は専門家のサポートを受けることが適切です。
亡くなった知らせを受けた直後(ファーストショック)に反応が認められやすいですが、2~4週間後に精神が疲労してきて反応が出ること(セカンドショックといいます)もあります。

⑤ 専門家による相談の機会の提供と積極的なアクション

専門家に話をしたり、助言を得る機会を提供しましょう。

ある人の自殺が複数の自殺を引き起こす群発自殺という現象があります。
2020年10月に自殺者が急増したのですが、有名人の自殺報道が頻回にあったことが原因にあると研究(※1)では示唆されています。

若者の間で群発自殺が生じる危険が高いのですが、成人の間でも群発自殺が起きることがあります。
ある企業の小さな部門で数ヶ月の間に複数の自殺が生じたという事例もあるので注意は必要です。
・ 仕事のミスが増えた
・ 生産性が落ちている
・ 残業時間が伸びた
・ 集中できていない
このような状況の社員が居れば、専門家のカウンセリングや心療内科精神科の受診を勧めてあげましょう。

そっとしておいて、回復を待つだけではなく、積極的に支援を得られる環境づくりをしてあげるようにしましょう。

⑥ 職場の問題について検討と改善

もし、職場での問題が亡くなった人に対して影響を及ぼしているのであれば、放置すべきものではありません。
改善の取り組みが必要でしょうし、併せてメンタルヘルス教育や自殺防止について、実施することでより有意義なものにもなります。

以上が企業・職場としてできる対応となります。

職場ができる限界と普段からの取り組みについて

企業として自殺予防に努めるのが義務ではありますが、限界があるでしょう。
上司が面談やサポートをしようと思っても、対人関係の問題や業務の都合で十分な効果を期待できないかもしれません。
第三者的な目線での専門家(産業医・産業保健師・医療機関・相談窓口)を上手に利用することが必要です。
知らない人であるからこそ、相談者も心の内を吐露できることがあるでしょう。

あなたの企業は、このようなリスクについて対策できていますか?
ご不安なことがある場合は是非、ドクタートラストへご相談ください。

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※1
厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センター(JSCP) 代表理事 清水 康之著「コロナ禍における自殺の動向」

<参考>
中央労働災害防止協会 労働者の自殺予防マニュアル作成検討委員会「職場における自殺の予防と対応」

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