子どもたちに幅広い選択肢を… 元四国IL理事長・坂口氏がポニーで目指すもの

「ポニー」では革新的な取り組みを行っている

2020年12月に発表された「SUPER PONY ACTION パート2」に込めた想い

これまでの野球界の常識に囚われず、子どもの成長と健康を第一に考え、新たな取り組みを続ける日本ポニーベースボール協会(以下、ポニー)。2019年12月に発表された「SUPER PONY ACTION パート1」では子どもたちを故障から守る具体的なルールを制定し、2020年12月には「パート2」として、野球を愛する子どもたちを経済的に、あるいは就職支援という形でサポートする施策を発表した。

ともすれば伝統や歴史に縛られがちな野球界で、型にはまらない挑戦を続けるポニーで陣頭指揮を執る那須勇元事務総長に加え、「パート1」の制定には、同協会で常務理事CMO(最高医療責任者)を務める慶友整形外科病院の古島弘三医師が尽力。防げるはずだった故障で野球を諦めて涙を流した子どもたちを、これまで何人も見てきたやるせなさが「パート1」の背景にはある。防げる故障は防がなければいけない。医師として、そして子どもを守るべき大人としての責任が、そこには込められている。

経済的な支援が必要な子どもに道具を提供したり、海外や独立リーグに挑戦しようという選手に給付型奨学金を支援したり、心ゆくまで野球を追い求めた選手に就職支援をしたり、様々な形のサポート施策を打ち立てている「パート2」。この制定に大きく関わったのが、昨年まで四国アイランドリーグplus(四国IL)の理事長を務めた坂口裕昭理事だ。

弁護士だった坂口氏は2011年に四国ILの徳島インディゴソックス球団社長に就任して以来、リーグ事務局長、理事長などを歴任。四国ILの発展と改革に9年を費やした後、2020年に退任した。そんな坂口氏がポニーと出会ったのは2019年。那須事務総長が四国視察に訪れた際だったという。

「実は四国には独立リーグはあってもポニーのチームが1つもない。それでも何か協力できるんじゃないかと考えた那須さんが四国に来られた時、挨拶して5分も経たないうちに、厚さ5センチはありそうなポニーの歴史をまとめた冊子を渡されたんです。それで『○○ページ目にポニーの指導理念10箇条が載っています。我々はそういう団体です』って自己紹介なさった(笑)。でも、その10箇条を見ると、まさに僕が四国ILでやり甲斐を感じること、僕の想いが書かれていたんですね」

ポニーの指導理念10箇条とは、本部を置く米国で定められたものだが、日本協会でも創始者である伊藤慎介氏が「指導者の我々が自らを再教育し、選手をはじめ父母、学校、社会からいささかも非難されることのないように努力を重ねて前進する」拠り所として掲げたものだ。

1 ポニーの指導者は代償を求めてはならない
2 ポニーの指導者は暴力を排斥する
3 手段と目的を混同してはならない
4 ポニーの主役は少年たちである
5 大人のエゴイズムで少年たちを傷つけてはならない
6 ポニーはグランドでも会合でも「機会均等主義」である
7 選手の指導をとおして指導者自身が成長すべきである
8 選手は自分の所有物ではない
9 常に感謝の心で会の運営に当たろう
10 協力者があってこそ会の運営が可能である

「野球界と一般社会と両方を知る人間として、その橋渡し役を担いたい」

何事も理念を掲げてはみても、いざ実践となると難しい。だが、坂口氏は「(ポニーでは)きちんと明確に理念化されていて、その理念がSUPER PONY ACTIONという形で現実の施策に落とし込まれている」と実感。さらに「それを元プロ選手の広澤克実理事長をはじめ、各地で長らく指導を続けてきた方々も、皆さん試行錯誤しながら理念の実現に向けて汗を流されている」と心動かされたという。

四国ILを離れ、東京で再び弁護士として活動を始める際、再び那須事務総長と話をする機会があり、「四国ILでの経験や弁護士としての立場を生かしてほしい」と理事就任の運びとなった。実際にポニーの一員となった坂口氏は、メンバー一人ひとりが持つ想いの熱さに驚かされたという。

「理念の策定と実践は、簡単そうに見えて実は難しい。これは一般企業でも同じです。もちろん、ポニーでも100%できているわけではないけれど、実践に向けて取り組む姿勢に共感しますし、常にその中心には選手がいる。理事会にしても役員会にしても社員総会にしても、半日以上をかけて徹底的に意見交換をします。時に反対意見があっても目を背けることなく議論を尽くして解決策を探る。今、子どもたちにとって何が一番いいんだろう。そう考えながら結論を模索する過程をみんなが楽しんでいますね」

その中で、協会に新たに加わった坂口氏が担う役割は、野球界と一般社会をつなぐ橋渡し役だ。

「弁護士なので、もちろん組織のガバナンスやコンプライアンスといった法務的なサポートをします。ただ、必ずしも全てを法律の型にはめるのではなく、『一般社会ではこうなっています』『一般の企業の場合はこういう解決方法が筋です』といったアドバイスですね。同時に、僕が外の世界から野球界に入って一番違和感を感じたのは、やはり野球界やスポーツ界はどこか特殊な社会であるということ。年齢、性別、実力……様々な形でカテゴライズされていて、その極みでもある。戦後の日本が経済発展を遂げる中では時代にマッチした形だったんだと思いますが、今、加速度的に世の中の価値観や社会基盤が変革を遂げる中、スポーツ界が取り残されつつある一因でもあり、非常に大きな問題だと、四国ILの9年間で痛感したところでもあります。なので、野球界と一般社会と両方を知る人間として、その橋渡し役を担いたいと思っています」

NPBを目指す選手がいたり、プロの道を諦める選手がいたり、独立リーグはある意味で「社会に一番近い接点、最後の出口」だと坂口氏は言う。社会が急速に多様化する中、野球界という特殊性から抜け出せず、一般社会との狭間で身動きが取れなくなってしまう選手も見てきた。純粋な思いで野球を追い求める選手たちが社会へ出る時、その出口をサポートしたい。四国ILで募らせた想いを那須事務総長に伝え、具体化したものが「SUPER PONY ACTIONパート2」だ。

なぜポニーが就職支援策を用意するのか「“点”で取り組んでも解決できないもの」

「出口を考えた時、独立リーグやU-23カテゴリーだけで“点”で取り組んでも解決できないものだと四国ILで痛感しました。そういう意味で、アンダー世代、特に中学生に中核を置くポニーの役割は重大だと思っています。中学生の頃から将来設計のサポートをしていければ。SUPER PONY ACTIONパート2では就職支援策も制定されましたが、今の時点ではポニーで就職支援の話が出ることに違和感を感じる方も多いと思います。ただ、その違和感こそが野球界が特殊社会である証拠なのかもしれません」

野球をする子どもたちは必ずしも全員がプロを目指しているわけではない。豊かな人生を送るためには、いろいろな選択肢がある。野球を突き詰めるだけではなく、幅広い選択肢があることを教えることもまた、大人の役目だと考えている。

「プロ選手なのか就職なのか、スポーツなのか勉強なのか。選択肢はそれだけではない。そもそも、スポーツは体を動かすことを楽しむことであって、ただのエンターテインメントとは違う、人間の本質的な欲求だと思うんですよね。肩肘を張って“生涯スポーツ”という括りにするんじゃなくて、人が生きていく傍らには常にスポーツがある社会を作らないといけないと思っています。

僕はリトルリーグ出身で、中学受験を機に本格的にやっていた野球を諦めて勉強を選びました。でも、ずっと『野球を選んでいたらどうなっていたんだろう?』という想いがありました。ただ、例えばアメリカを見た場合、野球でスカラシップ(奨学金)をもらう場合でも勉強を疎かにできない仕組みになっている。スカラシップをもらうからには、ちゃんと勉強もしなければいけないし、社会の模範たる人間性を備えないといけない。つまり、アスリートとは総合的な力を持つ人間だと思うんです。そういう意味では、勉強かスポーツかの選択をし、限られたカテゴリーの中に進んで、さらにふるいにかけられる世界は、本当に健全かというと僕は違うと思っています」

野球を通じて、社会の広さを感じてほしい。その願いが海外や独立リーグで挑戦したいと願う選手への奨学金給付といった施策には盛り込まれている。野球の魅力を知り、難しさを知り、そして多様化する社会を知る坂口氏だからこそ、ポニー理事として担える役割は大きいのかもしれない。(Full-Count編集部)

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