猟奇的な彼女からキム・ジヨン、椿まで ヒロインたちは韓国社会に何を訴えたか【後編】 新しい生き方への応援歌 『ガール・コップス』とドラマ「椿の花咲く頃」

Netflixオリジナルシリーズ「椿の花咲く頃」独占配信中

2016年に起きた江南駅女性殺人事件を契機に、若い世代を中心にフェミニズムへの支持が広がっている韓国。『82年生まれ、キム・ジヨン』を筆頭に女性に対する差別を扱った文学作品も多数発表されている。商業映画の世界では、まだまだ男性主人公が中心の作品が圧倒的に多いが、少しずつ変化の兆しも見えてきた。

韓国映画のトレードマークとも言える犯罪アクションのジャンルでは、女性主役の作品『ガール・コップス』(2018)が登場した。主人公はレスリング選手出身で、かつては女性機動隊の一員としてレジェンド級の活躍してきた警察官ミヨン(ラ・ミラン)。

結婚、出産後は相談窓口勤務となってしまった彼女だが、司法試験に落ち続けて無職の夫ジチョル(ユン・サンヒョン)と子どもを抱えているため、リストラの危機に直面しながらも必死に仕事を続けている。腕力も含め、あらゆる面で男性に遜色ない実力を持つ女性が、閑職に追いやられてしまっている姿が切ない。

その後、窓口にやってきた女性の死をきっかけに、ミヨンは義妹でもある刑事ジヘ(イ・ソンギョン)やITの天才スヨン(チェ・スヨン)と共に、デジタル性犯罪の捜査を進めていく。個性の違う女性たちが力を合わせて事件解決に挑むという、韓国版『チャーリーズ・エンジェル』のような設定はもちろん、主人公が既婚女性という点でも、韓国映画史上、新鮮な作品だったといえる。

『ガール・コップス』おうちでCinem@rtにて配信中 ©2019 CJ ENM CORPORATION, FILM MOMENTUM ALL RIGHTS RESERVED

最後に、映画ではないのだが、女性をとりまく困難な状況と、それに抗して新しい道を歩こうとするキャラクター像を見ごたえのあるテレビドラマとして完成させた「椿の花咲く頃」(2019)を取り上げてみたい。

主人公は、海辺の町で暮らす女性ドンベク(コン・ヒョジン)。息子を連れ、6年前にこの町に突然やってきた彼女は、飲み屋を営みながら暮らしているため、
「“水商売”をしている」
「未婚のシングルマザー」
に対する偏見の眼差しを男性からだけでなく女性たちからも向けられている。そんなドンベクが、彼女に一目惚れした純情警官ヨンシク(カン・ハヌル)の応援を受けながら、人間としての(当たり前の)価値を自分自身の手で周囲の人たちに認めさせていく。

酒を売っている女性に対しては何をしてもよい、と勘違いしている男性に対し
「私が売っているのはお酒だけです。その値段には笑顔も手首を握る権利も含まれていません」
と静かに言うシーンを始め、数々の名セリフが多くの女性たちの共感を得た。

また、彼女が住む町で起きた連続殺人事件の謎が明らかになっていく中で、特定の仕事に従事している人たち(男性も含む)を無意識のうちに見下してきた社会そのものの姿も浮き彫りにされる。

こうした骨太の内容が、ドンベクとヨンシクを中心とするラブコメディ、ドンベクと息子や母親との家族愛といった要素と絶妙に絡み合いながら進んでいく展開は、時間をかけてストーリーを語ることのできる連続ドラマならではだろう。

女性たちが社会によって決められた“枠”を越えて生きることの難しさを見せてくれた『猟奇的な彼女』や『子猫をお願い』から20年。

多くの女性たちが声をあげ、力強い活動を続ける中で、韓国社会は大きく動きつつあり、映像コンテンツでも、自分の考えを率直に口にする女性が主人公の『最も普通の恋愛』や、枠の中で生きることの理不尽さを見るものに突きつける『82年生まれ、キム・ジヨン』といった作品が生み出されてきた。

アクションやヒーローものなどが次々と女性主演で作られている近年のハリウッドと同じく、今後は韓国からも、社会の変化を体現するようなキャラクターたちの活躍する新しい映画が、登場してくれるはずだ。


Text:佐藤結(さとう・ゆう)

Edited:岡崎暢子(韓日翻訳、フリー編集者)

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