「私を何でこんな練馬大根の畑のど真ん中に入れたの!」 入院中も気丈だった馬場元子さん

入院生活も一筋縄ではいかなかった馬場元子さん

【故ジャイアント馬場さん夫人・馬場元子さんの遺言(4)】兵庫・明石出身の馬場元子さんは上京後、港区と渋谷区にしか住んだ経験がない。2017年7月25日には、聖路加国際病院から練馬区の介護施設に移った。

「これは完全におばの妄想と思うんですけど『私を何でこんな練馬大根の畑のど真ん中に入れたの!』と言うんです。もちろん、窓の外には畑なんか見当たりませんでしたけど(笑い)」と元子さんの姪・緒方理咲子氏は語った。施設の周囲はもはや都会で地価もかなり高かった。勝ち気な元子さんらしいエピソードだ。

聖路加国際病院のスタッフが相談した結果、リハビリのために転院するにあたり「元子さんの性格を考えると、先に古い住人がいる施設より、比較的新しい施設のほうがいい」との判断があったため練馬の介護施設が選ばれたのだが、本人はいたくプライドを傷つけられたようだった。

ここで追い打ちをかけるようなハプニングが起きる。枕元に置いてあった馬場さんの写真を見た体の大きなスタッフが「あら馬場さん、ジャイアント馬場さんのファンなんですか?」と聞くという、今となっては笑い話にしかならない〝大事件〟も起きた。そばについていた緒方氏は内心で「ああ、やめてー!」と叫んだという。プイっと横を見た元子さんは、スタッフが去った後「あのゴリラみたいな人はもう私の部屋に入れないで」とひと言だけ語った。

同じような気丈さは6月の初入院時にも見せていた。入院の際には要介護認定度を調べられたが、元子さんは氏名や誕生日などの質問に一切答えず、外を向いたまま黙っていた。スタッフは「馬場さーん、聞こえますか? ああ、もう分からないのかもしれませんね…」と話して記録を取った後に家を出た。すると元子さんは「もうあの人帰った? あんなバカみたいな質問に答えられるわけがないじゃない」と態度を硬くしたという。しかし、介護を続ける緒方氏にとっては、この気丈さが励みであると同時に重荷だったに違いない。

10月に練馬の施設で腹水がたまると「ちょっと腹水がキツいから抜きたい。聖路加に戻りたい」と希望し、10月6日に介護タクシーで聖路加国際病院を訪れて処置を受けた。しかし「腹水処置のみで長期入院していただく患者さんではないので、通院していただきたい」との主旨の言葉を告げられた。すると数日間、入院した後に担当医が「本当は出ていただくのですが、高額な個室が空いたので、当院としてはしばらくの間、入院していただいても大丈夫です」と告げられた。

医師が部屋を出ると元子さんはいたずらっぽい笑顔を浮かべ「えへへ。私、成功したわよ。もう練馬には戻らないから。だから私が納得できるホームを探してちょうだい」とハッキリ告げた。さすがに緒方氏もその意志の強さに声を失ったという。

11月9日には渋谷区恵比寿の自宅にほど近い高級介護施設に移った。結果的にはここが元子さんの〝終の棲家〟となった。(続く)

(運動二部・平塚雅人)

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