森高千里「ザ・ストレス」ストレス社会の弊害を歌ったメッセージソング 1989年 2月25日 森高千里のシングル「ザ・ストレス」がリリースされた日

自ら作詞、森高千里の魅力が表れる「ザ・ストレス」

私が初めて森高千里の楽曲を聴いたのは、1989年の夏に発売されたアルバム『非実力派宣言』からである。そう、美脚を大胆に露出したジャケットを見て衝動買いしたのだ。南沙織のカバーシングル「17才」のヒットで気になっていたとはいえ、事前情報なしにアルバムを買わせる魔力が、あのジャケ写にはあった。

そしてアルバムを聴き、ユニークすぎる歌詞に驚愕した。しかも作詞は本人だ。ロック調のメロディーに載せて歌われる歌詞は「こんなこと歌っちゃっていいの?」と思うくらい斬新だった。当然、年末に発売されたベストアルバム『森高ランド』も聴き、今度は楽曲の良さにも惚れこんだ。なかでも「ストレス」と「ミーハー」の2曲のインパクトは絶大だった。

ということで、ユニークな歌詞がてんこ盛りの森高作品の中で、今回は「ストレス」について語りたい。

ちなみに、森高の音楽性や歌詞の魅力は、リマインダーでも複数のコラムがあるので是非参照してほしい。当時、森高の登場がいかに衝撃的だったのかが伝わってくる。

森高節の真骨頂、言いたいことが突き刺さる破壊的威力をもった歌詞

突然だが、皆さんはストレスを感じたことがあるだろうか? もちろん程度にもよるが、ストレスを感じたことがない人は、ほぼいないと思う。人間社会のしがらみの中で生きる以上、悩みやストレスを抱えるのは当たり前。むしろ、ストレスとの付き合いかたが大切というのが社会人の常識になっている。特に、昔から日本では我慢が美徳。ストレスや悩みは(人によっては恋も)秘め事として心の中に封じる風潮が今も残っている。

しかし、そうした美徳や、ストレスは当たり前という常識をぶっ壊すくらいのインパクトが「ストレス」という曲にはある。一番の歌詞を引用する。

 たまるストレスがたまる まじめな私
 たまるストレスがたまる
 ああぐちゃぐちゃよ
 あれこれそれあいついらいらするわ
 関係ないセリフじょうだんじゃない
 ストレスが地球をだめにする
 ストレスが女をだめにする

まず、これが曲として成立していることに驚く。稚拙で単純な歌詞にも見えるが、下手に洗練されてない分、言いたいことが突き刺さってくる。なかでも秀逸なのが「ストレスが地球をだめにする」のフレーズ。どう考えても言い過ぎだが、これぞ森高節の真骨頂。歌詞アワードがあれば優秀賞をあげたいくらいのキラーワードだと思う。それは、ストレス社会の弊害をズバリ言い当てていると思うからだ。

今日の社会を予見? 「このままじゃ地球がだめになる」

現代では、自分のストレス(不平や不満)を態度で示したり、誰かに嫌がらせをして発散する行為が横行している。「××ハラスメント」という言葉が次々と生まれるのを見ても、これは深刻な社会問題。我慢しすぎて心を病む人も多い。

また、森高も歌っているように、話したい一心で関係ないセリフを延々と言って相手の時間を奪う人にも困る(会社の上司に多い)。最近はSNSの普及により、不用意に発せられたストレスの塊のような言葉が目に飛び込んでくる。まるで、ストレスがストレスを生んで増殖しているようだ。

こうしたストレス社会の弊害を、当時19歳だった森高は「ストレスは地球をだめにする」という言葉で的確に言い表したのだ。しかも2番のラストでは「このままじゃ地球がだめになる」とも言っている。これは、昨今話題になった「保育園落ちた日本死ね」に匹敵するメッセージだと思うが、言い過ぎだろうか。

固定観念を持つオジサン連中を一喝! 女性の立場を代弁した森高千里

もうひとつ、この曲からは、女性観が変化しつつあった時代性を感じる。元々この曲は、森高自身が1988年に腹痛で一週間入院した際の実体験を書いたもの。同年秋に発売された3枚目のアルバム『見て』に初収録され、翌年2月に「ザ・ストレス」とタイトルを微妙に変えてシングルカットされた。

このジャケットに森高は美脚を露出したウェイトレス姿で登場し、同時制作されたPVでは、食堂での客の無礼な注文やふるまいに喝を入れるウェイトレス役を演じている。折しも当時は、1986年に「男女雇用機会均等法」が施行されたばかり。看護婦が看護師、スチュワーデスが客室乗務員へと名称を変え、社会における女性の地位が高まりつつあった。

これまで言いたいことも軽々しく言えず、言ったところで相手にされなかった女性の立場を、森高はウェイトレス姿で「ザ・ストレス」を歌うことで代弁しているように思えるのだ。それでいて「私、ただのミーハー」といった昭和の女性なら絶対に言わない自虐を歌う清々しさが、森高にはあった。

そうした世相を敏感に察知して、「女性は慎ましく清楚であるべし」のような固定観念を持つオジサン連中を一喝する役割も森高は果たしたように思える。「ザ・ストレス」は、今に続く社会問題を真正面から扱った平成初のメッセージソングだったのだ。

あなたのためのオススメ記事
森高千里の天才的な歌詞センス!シュールで中毒性のある言葉たち

カタリベ: 松林建

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC