【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】デビュー編:インパクト十分だが、大幅順位アップは当然の成り行き。もっと上を目指せた

 2021年に7年ぶりに日本人F1ドライバーが登場した。アルファタウリ・ホンダからF1にデビューした角田裕毅だ。極めて高い評価を受け、大きな期待を担う角田を、海外の関係者はどう見ているのか。今は引退の身だが、モータースポーツ界で長年を過ごし、チームオーナーやコメンテーターを務めた経験もあるというエディ・エディントン(仮名)が、豊富な経験をもとに、忌憚のない意見をぶつける。

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「ハロー、ユーキです。名刺をどうぞ」とばかりに、角田はコース上でベテラン元王者たちを次々と抜き去っていった。セバスチャン・ベッテル、フェルナンド・アロンソ、キミ・ライコネンは、決勝日の朝までは角田裕毅のことを知らなかったかもしれないが、その名を覚えてバーレーンを出発したことだろう。はるか後方からぐっと近づいて、ブレーキングで大胆にオーバーテイクしていった若者。特に3回もそんなことをされたベッテルは、忘れられるわけがない。

 私は元気のいい若手ドライバーが大好きである。F1チームオーナーだった時代には、数えきれないほどのルーキーを育て、F1に昇格させたものだ。助けたドライバーの名前をここで挙げていけば日が暮れる。なのに、私のおかげで稼いだ金の一部を感謝のしるしとして送ってよこす者はひとりもいない。ドライバーというのは揃いも揃って恩知らずばかりだ。

……失礼、何の話だったかな。ああ、角田裕毅だった。オーバーテイクの話だったね。

2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 経験豊かなドライバーたちを次々追い抜いた角田にF1パドックが大興奮……そういう話はすでに散々耳にしていると思うので、ここで繰り返す必要はないだろう。代わりに、なぜベッテル、アロンソ、ライコネンといったベテランたちが、彼に対してドアを閉めようとしなかったのか、という話をしよう。

 理由は明らかだ。彼らにとって、ルーキーである角田は、コース上で初めて戦う相手だった。経験豊かで賢明な彼らは、リスクを冒すことを避けたのだ。そのことは角田自身も分かっていたようだ。

 3人のうちアイスマンだけが、抜かれる前に抵抗してみせた。ターン1でのキミの動きに角田は完璧なかたちで反応し、左に寄り、ターン4で難なくオーバーテイクを決めてみせた。これでキミは裕毅という新人ドライバーに一目置くようになったかもしれない。

 ベテラン相手に限らず、角田がたくさんのオーバーテイクを成功させて確実に順位を上げていったこと自体も褒め称えられた。ただし、それが可能だった理由は、彼自身も説明していたように、そもそも本来就くべきグリッドよりかなり後ろからスタートしなければならなかったからだ。その上、彼は1周目を走り切るまでの間にさらにポジションを落とした。そのせいで一時は17番手まで沈んだが、彼が乗っていたのは予選トップ5に入る力があるマシンだ。本来の調子が出てくると、周囲には彼を止められる者はいなかった。そういうわけだ。

■小林可夢偉の意見に同感

 予選Q1はなかなか立派だったと思う。あそこで角田の実力を垣間見ることができた。チームメイトのピエール・ガスリーより0.2秒以上速いタイムをすぐさまたたき出し、1回のランだけでQ2進出を決めた。なかなかできることではない。だがQ2ではどういうわけかミディアムタイヤでいいタイムを出せず、13番手という残念な結果に終わった。これはチームの方にも問題がある。なんだかんだ言ってもルーキーだ。2回目のランをソフトタイヤで送り出すべきだった。そうすれば彼は間違いなくQ3に進んでいたはずだ。

 予選トップ10に入っていたら、フェラーリ勢、マクラーレン勢、アルピーヌのアロンソやアストンマーティンのランス・ストロールと同じ条件で決勝をスタートし、最終的にはランド・ノリス、シャルル・ルクレール、ダニエル・リカルド、カルロス・サインツJr.あたりとトップ5を争っていただろう。

2021年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 誰もが言うとおり、角田は速さと優れたレーステクニックを持ち合わせたドライバーであり、そのポテンシャルをデビュー戦でしっかり証明してみせた。その事実を否定するつもりはない。しかし、彼が予選Q2や決勝スタートといった重要な場面でミスをしたことも忘れてはならない。スタートの際に、自分のグリッド位置を通り過ぎかけるという間違いもあった。

 つまり、結局のところはまだルーキーで、これから改善しなければならない点はいくつもある。そこで思い出すのは、小林可夢偉が最近言った言葉だ。「角田がトップドライバーに成長するためには優秀なマネージャーが必要だ」と彼はアドバイスした。

 しごくもっともな意見ではないか。そうとなれば、角田に手を貸さないわけにはいくまい。私はすでに引退した身ではあるが、それ相応のギャラをもらえるなら一肌脱ごう。過去に数えきれないほどの若手を育てては、F1の舞台へと引っ張り上げてきた経験がある私だ。その資格は十分にあると自負する。裕毅が私の電話番号を知っているといいのだが。

角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

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筆者エディ・エディントンについて
 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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