<社説>ひめゆり資料館新展示 沖縄戦の実相 後世に

 ひめゆり平和祈念資料館(糸満市)が12日、展示内容を17年ぶりにリニューアルした。新しい展示のテーマは「戦争からさらに遠くなった世代へ」。これまでは、元ひめゆり学徒らが中心となって展示内容を決めてきたが、今回は非体験者である30~40代の職員が中心となって構想した。 今回を機に、沖縄戦の実相をあらためて学び、史実を後世に伝え続けることを誓う。沖縄戦では地上戦が繰り広げられ、多くの住民が戦場に動員され、命を奪われた。軍隊は住民の命や暮らしを守らなかった。県民が得た教訓だ。

 ひめゆり学徒隊は、沖縄師範学校女子部と県立第一高等女学校の生徒や教師で編成された。両校から240人が沖縄陸軍病院に動員され、136人が亡くなった。学徒隊以外にも両校で91人が亡くなった。ひめゆりを含め県内21校が学徒隊に動員された。隊以外も含め学徒の死者数は少なくとも1993人になる。

 資料館は1989年に開館した。展示内容は当初、元学徒らが遺品を拾い集めたり、お互いの戦争体験を聞き取ったりして作りあげた。

 今回の新たな展示は今の世代に受け入れられるようイラストや生き生きとした表情の写真を多用した。細かい内容や表現は元学徒らに電話や手紙で確認し、正確性を心掛けた。普天間朝佳館長は「あらゆる機会を通して戦争にならないことを考えることが大切だ。私たちの役割は、いろんな方法を通じてきっかけになることだ」と強調する。

 原爆が投下された広島市や長崎市でも、体験を語り継ぐ人たちを養成する事業があり、若い世代も参加する。ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)で知られるポーランドのアウシュビッツ収容所博物館では日本人ガイドが活動する。

 文部科学省は2022年度から使う教科書の検定結果を公表した。明成社の「歴史総合」は、「ひめゆり学徒隊」を「ひめゆり部隊」と記述した。鉄血勤皇隊として戦場に動員された県立第一中学校の生徒を慰霊する「一中健児之塔」を「顕彰碑」と記述した。「部隊」は明確な誤りであり、生徒を戦場へ動員し、犠牲を強いた経過に照らしても「顕彰」の記述は不適切である。県民は戦争に「協力した」とたたえるような記述もあった。沖縄戦の実相をゆがめ、戦争を美化する動きを危ぐする。

 コロナ禍で沖縄への修学旅行のキャンセルも相次いでいる。ひめゆり平和祈念資料館の来館者数は、19年度の49万1345人に対し、20年度は6万6532人と前年比13%台に激減した。資料館は沖縄戦を伝える新たな取り組みとして、オンラインで平和講話も実施している。

 コロナ禍が過ぎ去るのを、ただ待つだけではいけない。継承のあり方次第で、戦争の実相がどう受け止められるかが左右される。学ぶ側も継承への不断の取り組みが必要だ。

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