<レスリング>【2021年JOC杯ジュニアクイーンズカップ・特集】ビデオ研究でライバルの対策はバッチリ! 目指すは同門・同階級の憧れの先輩…50kg級・伊藤海(早大)

 

(文=谷山美海、撮影=矢吹建夫)

大学進学後の初戦で優勝した伊藤海(早大)

 昨年12月の全日本選手権50kg級2位の伊藤海(早大)が、ジュニアクイーンズカップでは全4試合でテクニカルフォール勝ちを挙げ、同階級を制した。2019年(カデット)に続き2大会連続での優勝。「早稲田のシングレットを着て試合をして、やっと大学生になった実感が沸きました」。4月2日に入学式を終えたばかりの新生活は順調な幕開けだ。

 ただ、納得の試合運びではあったが、「目標とする倒すべき選手は、もっと上のレベルの方たちなので、優勝に満足はしていません」と先を見据える。前日には、この春から大学の先輩になった同階級の須﨑優衣(早大)が、カザフスタンで行われた東京オリンピック・アジア予選で4戦全勝の優勝。オリンピック出場枠を獲得した。「優衣さん、入江ゆきさん(自衛隊)と倒すべき相手はたくさんいます。もっともっと強くならないといけないと、あらためて思いました」。

 6つ上の兄・駿さんは早大OB。大学4年生の2018年に国民体育大会フリースタイル74kg級で優勝するなど、大学入学後に力を伸ばした。「両親の勧めもあり、早稲田への進学を決めました」。努力をすれば成長できる環境であることは、兄が証明済みだ。

 始まったばかりの大学レスリング生活。「目下の悩みは大学の履修登録です」と、何とも大学生らしい回答。生活面にも変化があった。寮母が朝昼晩と3食を作ってくれていた網野高時代とは違い、大学では昼食は各自で準備。これからは自炊にも挑戦予定だ。トップ選手には食事・栄養面への気遣いも不可欠。「凝ったものでなくてもレシピを見ずに作れるようになりたいです。目標はお母さんが作る家庭料理のレベルです(笑)」。

一人で日夜ビデオ研究、課題を発見し練習に昇華

 研究熱心な性格が、伊藤の成長を後押ししている。高校の吉岡治監督の教えで始めたビデオ研究は「しないと安心して試合に臨めない」ほどに習慣化。試合動画を見ながら苦手な動きや課題など気づいたことを書き出し、練習に反映している。

決勝で闘う伊藤。全4試合でテクニカルフォール勝ちでの優勝だった

 自身の動画はもちろん、試合の2~3週間前には対戦相手の分析に力を入れる。「高校の寮は二人部屋でしたが、大学は一人部屋なんです。少し寂しくはありますが、部屋でもレスリングのことを考えられます」。

 決勝の相手、坂本由宇(JOCエリートアカデミー/東京・帝京高)との12月の全日本選手権での対戦も、繰り返しビデオで研究。「がっちり組まれて動けない状況が続いていたので、組まれた時の動きとタックルの処理を練習の時から考えていました」。その練習が功を奏し、10-4の判定勝ちだった前回から得点力が格段にアップ。試行錯誤しながら確実に力を付けている。

目指すは憧れの先輩と同じ“早大4年次でのオリンピック出場”

 シニア50kg級で優勝した昨年1月のクリッパン女子国際大会(スウェーデン)の遠征時には、試合後に数ヶ国参加の合同練習に参加。53・55kg級の外国人選手との打ち込みでも「パワー負けはしなかった」。

昨年1月、シニアの国際大会デビューとなったクリッパン女子国際大会で優勝=チーム提供

 会場でも目を引く肩回りの筋肉は、高校時代のウエートトレーニングのたまもの。床に置いたバーベルを胸上まで持ち上げるトレーニング(ハイクリーン)では、75kgを上げるそうだ。体重の1.5倍という高校時代のノルマはクリアしてきたが、49kgしかない体重の増量が今後の課題だ。

 須﨑は、朝練習はJOCエリートアカデミーに出向いているが、普段は早大で練習している。同階級の日本最高峰の選手と日常的に手合わせできる環境は、伊藤の大きなアドバンテージだ。1月の全日本合宿での須﨑とのスパーリングでは力の差を痛感。「組み手、タックル、スピード、すべての技術のレベルが高い。今回優勝した今の実力とパワーがどれだけ通用するか。優衣さんとの差を確認したいです」。

 14日に帰国予定の須﨑だが、帰国後の14日間の待機期間が解けるのはまだ先。先輩のチームへの合流を今か今かと心待ちにしている。

 2024年まで猛ダッシュで駆け抜ける腹積もり。早大の最上級生としてオリンピックに出場する須﨑は、3年後の自分のあるべき姿。将来のビジョンがより明確になった。「世界相手に勝つのはもちろん、優衣さんのように人間性も磨いて、いろんな人から応援してもらえる選手になりたいです」。憧れの先輩を追い抜き、3年後にはパリ・オリンピック代表の座をつかめるよう、まずは今年8月の世界ジュニア選手権(ロシア)での優勝を誓う。

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