熊本地震5年

 くねくねと続く道路がいきなり、すとんと切り落とされたように途切れる。その先は深い深い谷で、柵越しに底をのぞいてぞっとした。3年前、阿蘇大橋が架かっていた所を訪ねたが、熊本地震の傷痕は生々しかった▲学生3人が亡くなった東海大の阿蘇キャンパスは校舎が壊れ、壁はひび割れていた。地震前、そのあたりには農学部の800人がアパートや下宿に住んでいたという。訪ねた時はしんとしていて、「学生村」と呼ばれた頃を想像もできなかった▲熊本城に足を運べば、崩れた石垣がごろごろしている。全体を元の美しい姿に戻すには20年かかると聞いた▲先月のこと、崩れ落ちた阿蘇大橋の下流に新しい大橋が開通したのをニュースで見た。東海大の阿蘇キャンパスの一部は、熊本県産の「あか牛」を育て、販売する農場になるという。熊本城の天守閣は修復工事が終わり、今月26日から一般公開される▲のちに「前震」と呼ばれる強い揺れがあった熊本地震から5年になる。今も400人超が仮住まいで、たやすく「復興」とはいえないが、復旧、復元の足音は確かに聞こえる▲被災地の「今」に目を凝らしながら、「まさか九州で」と衝撃が走ったあの夜も忘れずにいたい。「まさか」が起こりうることをいま一度、肝に銘じる。今日はそんな日でもある。(徹)


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