コラム:日本企業が直面する米中選択の難問、日米首脳会談で判明する現実

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田巻一彦

[東京 16日 ロイター] - 16日にワシントンで開催される日米首脳会談では、対中政策での協調が大きなテーマになる。短期的には日米連携に反発した中国が、日米を批判して「対抗措置」の発動をにじませた場合、対中ビジネス依存度の高い企業の収益に下押し圧力がかかるリスクがある。

しかし、米中の戦略的対立が長期化することを前提にするなら、日本企業はどちらの陣営に軸足を置いてビジネスを展開するのか、中長期的な展望に立った選択を迫られるのではないか。もはや安全保障は米国に依存しつつ、経済成長は対中ビジネスで実現するという「甘い現実」は過去の残像であると自覚し、コストとベネフィットを計算して戦略を決める覚悟が、日本企業に求められている。

<注目される中国の反応と市場変動>

今回の日米首脳会談では、経済だけでなく軍事的にも拡張政策を志向する中国への政策対応で、両国がどのように協調していけるかが最大のポイントになっているとみられている。

首脳会談をめぐり、米政府高官は15日、台湾情勢を巡る共同声明で合意する見込みだと明らかにした。また、中国政府による新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の扱いや香港への影響力行使も取り上げると説明。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に対抗するため、日本が高速通信規格「5G」に20億ドル拠出する計画も発表される見通しだとした。

ただ、その米高官は「日中の経済・商業上の深いつながりや菅首相が慎重な対応を取る意向であるのは認識しており、これを尊重する」と指摘。「米側のアプローチを日本が全面的に支持するよう求めることはしない」と語った。

この部分の発言は、日本がウイグルでの人権問題に懸念を表明すれば、米欧のように制裁を科すことまで踏み込まなくても、米政権は容認する可能性があると読むことができる。

日本政府としては、首脳会談後の共同声明で日本も制裁に参加する用意があると盛り込まれ、中国が猛反発し、日本企業の活動を制約するような制裁実施をほのめかす事態に発展することは避けたかったはずだ。

政府・与党の一部には、上記のような「最悪シナリオ」が現実化した場合、マーケットが日本経済や中国ビジネスの比重の大きい企業の先行きを懸念し、株価が急落する事態を懸念する声もあった。米国が日中間の経済関係の現実を勘案し、共同声明の中で人権問題の懸念を表明することにとどまれば、直ちに対日制裁が実施される可能性は低くなるとの見方もある。

他方、日米首脳会談の共同声明に「台湾海峡」の問題が入れば、中国が猛反発するとの見方も政府内にはあり、中国がどのような対応を首脳会談後に示すのかは予断を許さない。仮に具体的な制裁に言及しなくても、特定の日本企業の製品に対する「不買運動」が中国市場で起きるケースを想定する見方もある。

市場では、日米首脳会談後の日中間における緊張発生をまだ織り込んでおらず、先行きの不透明感を材料に日本株が売られる展開は十分にありえるだろう。

ただ、大幅な株価変動があった場合は、先に公表された「点検」後の枠組みに基づいて日銀が上場投資信託(ETF)を大規模に買い上げることが可能であり、短期的な株価下落リスクに対する「切り札」は用意されている。

<日本企業の損得勘定>

中長期的な日本企業の戦略策定では、より大きな課題が存在する。日本にとって、中国はすでに最大の輸出先であり、輸出全体に占める割合は約20%と米国を引き離している。

中国でビジネスを展開する日本企業は約1万3000社(帝国データバンク調べ)に及び、中国政府がこれらの企業の経済活動を制約するようなペナルティーを科した場合、日本企業や日本経済全体への打撃は、相当な規模になると予想される。米高官の「日中の経済・商業上の深いつながり」という発言は、この部分を指しているとみられる。

ただ、米国は中国の拡張戦略に対して非常に強い懸念を持っており、最先端技術を駆使して激しい競争が展開されている半導体分野などでは、中国を経由しないサプライチェーン(供給網)の形成を提唱。同盟国・日本にも協力を求めており、今回の日米首脳による共同声明でも何らかの言及が予想されている。

ウイグルにおける人権侵害行為を厳しく批判している米国は、欧州とともに中国の当局者への制裁を科している。制裁に参加していない日本に対し、新疆ウイグル自治区における人権侵害に関連した製品の輸入禁止を企業に働きかけるよう、米国から要請される展開も予想される。

米国の要請に応じた場合、例えば、電気自動車(EV)などの生産に不可欠なレアアースの中国からの輸入が停止されるというシナリオも現実味を帯びるかもしれない。様々なビジネス遂行上の障害になりうる行政命令が中国当局から発せられ、中国国内で日本企業が自由に活動するのが難しくなるという事態に発展するリスクもゼロではないだろう。

日本企業は製造業から非製造業に至るまで幅広い業種で中国への投資を実行済みであり、中国ビジネスを犠牲にした成長はあり得ないと考えている企業経営者が大半ではないか。

米中の戦略的な対立は、日本企業にとって「悪夢」に近い状況に映っていると思われるが、低コストで巨大市場という中国ビジネスが、無条件で展開できる時代に戻ることはない。

では、どうするべきか──。米国を選択した場合に得られる「利益」と「損失」、中国を選んで獲得する「利益」と「損失」を各企業がマトリックス化し、どちらが本当に得策なのか経営トップが判断する時が来たのではないか。非常に厳しい決断になるだろうが、その覚悟がなければ、「一兎をも得ず」となりかねないだろう。

日米首脳会談では、菅義偉首相が日米同盟優先の決断を下し、外交上の「かじを切る」決断をしたことが、共同会見と共同声明の発表で明らかになると予想される。その時、企業経営者がどのように思考し、行動するのか。日本企業の力量が問われることになる。

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(編集:石田仁志)