国の支援を受け2031年3月までに経営自立 JR北海道、JR四国、JR貨物の2021年度事業計画をご紹介

JR四国が投入した観光列車「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」(写真:鉄道チャンネル編集部)

新型コロナの収束が見通せない中で、JRグループの2021年度がスタートしました。発表はこれからですが、鉄道事業者各社が2020年度に巨額の赤字を計上するのは必至で、新年度は旅客数や貨物輸送量がコロナ前に戻らなくても安定的に黒字を確保できる、ウィズコロナの経営体制を確立する挑戦の年と位置付けられるでしょう。

2021年度に針路が注目されるのがJR北海道、JR四国、JR貨物の3社で、関係法令の改正・施行を受けた国の支援策の再延長が決定。10年後の2030年度までに悲願の経営自立を果たすという絶対の使命に向け、大海に船出することになりました。JR3社は2021年度スタートに当たり、それぞれ事業計画などを発表しています。国の支援策のアウトラインを再掲するとともに、各社の戦略を見ましょう。

赤羽大臣がメッセージで檄(げき)

「従来に増して経営改善にまい進するとともに、地域を代表する企業の一員として、自信と誇りを持って業務に当たってほしい」。赤羽一嘉国土交通大臣はJR北海道、JR四国、JR貨物への支援措置継続に当たり、このようなメッセージを発出しました。交通、観光など国交省の所管分野にコロナで苦しむ企業も多い中、JR3社への支援継続を決めたのは、各社がそれぞれの地域や、JR貨物の場合は物流分野で、他の企業では代替できない役割を果たすからです。

これまでの流れをおさらいします。JRグループ各社がそれぞれの地域や分野で自立し、社会から必要とされる純民間企業になるのが、1987年の国鉄改革の趣旨でした。個別にはいろいろあるにせよ、JR本州3社とJR九州は株式を上場して完全民営化。所期の目標を達成したといえます。

その一方で、JR北海道、JR四国、JR貨物の3社は経営環境の変化もあって、現時点では経営自立の道筋は見通せない状況にあります。次の目標は2031年3月末。この時に世の中がどうなっているか、正直言って分からないのですが、いずれにしても、その時までに必ず自立してほしい。赤羽大臣のメッセージ、私には3社に檄を飛ばしたように思えました。

JR3社には、それぞれ2021年度単年度と、中長期の2つの経営計画があります。JR四国は今回、単年度計画と2つの中長期計画を発表。JR北海道とJR貨物は単年度計画だけで、中長期に関しては、JR北海道は2019年4月に発表した「JR北海道グループ長期経営ビジョン・未来2031」、JR貨物は2021年1月の「JR貨物グループ長期ビジョン2030」を踏襲します。

観光列車の運転を継続=JR北海道

JR北海道は経営自立を目標年の2031年度には「住んでよし、訪れてよし、北海道」を実現する企業グループへの飛躍を目指します。(資料「JR北海道グループ長期経営ビジョン・未来2031」)

最初にJR北海道の針路を見ましょう。読者諸兄に興味を持っていただけそうな、鉄道事業の項目をピックアップします。

札幌と旭川、函館、帯広といった道内主要都市をつなぐ都市間輸送では、北海道の「交通事業者利用促進支援事業(ぐるっと北海道・公共交通利用促進キャンペーン)」や、国の「Go To トラベル」などを利活用した営業促進策を検討・展開します。ぐるっとキャンペーンは、乗り放題きっぷや交通クーポン券の購入時に道が購入額の一定割合を助成する旅行振興策で、本来は2021年3月末で終了の予定でしたが、同年6月末までの延長が決まりました。

人気の観光列車では、「山紫水明シリーズ」を活用した「花たび そうや号」の運転に加え、東急との共同事業になる「THE ROYAL EXPRESS」を継続します。山紫水明シリーズは、キハ40形を改造した観光列車です。冬の風物詩・SL冬の湿原号は、客車をリニューアルします。

JR北海道・JR東日本・JR貨物・東急の4社協力で実現した「THE ROYAL EXPRESS~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」(提供:東急(株))

ニューノーマルへの対応では、非接触型サービスを強化・充実。指定券発行のマルスは、「話せる券売機」採用駅を拡大します。ICカード乗車券「Kitaka」導入エリアも、拡大を検討します。

2021年度の設備投資額は345億円。このうち車両関係は、電気式気動車H100形30両、261系特急気動車18両の新製など136億円が盛り込まれました。

鈴木・道知事がメッセージ

JR北海道をめぐっては、北海道が観光列車導入経費への支援として、2021年度に10億円余の予算を計上しています。

鈴木直道知事は国の支援継続決定を受け、「私としては、JR北海道が地域の思いをしっかり受け止め、本道の鉄道ネットワークを担う交通事業者としての覚悟と使命感を持ち、全力で取り組んでもらいたいと考えます。道としても、JR北海道や地域の皆さんとの連携を一層強固なものとし、着実に成果を積み重ねながら、鉄道の利用拡大に取り組みます(大意)」のコメントを発表しました。

地域とともに公共交通の四国モデル追求=JR四国

JR四国は鉄道運輸収入の安定的な確保に向け観光列車の維持・充実に取り組みます。(資料:JR四国「グループ中期経営計画2025」)

JR四国は、中長期の「グループ長期経営ビジョン2030」「グループ中期経営計画2025」、単年度の「2021年度事業計画」の3つの経営計画を発表しました。最終のゴールは、もちろん2031年3月までの経営自立で、四国に生きる企業として「地域とともに、公共交通ネットワークの四国モデルを追求する」「訪れたい・暮らしたいと感じる、にぎわいとおもてなしにあふれる四国をつくる」「新しい価値・サービスの創造にチャレンジする」の3つの使命を掲げました。

経営面では、JR北海道にも共通する点ですが、地域の輸送需要だけで事業を成り立たせるのは困難で、国内各地や海外から人を呼び込んで交流人口を増やす。実現のため、自治体などと協業して、魅力ある地域づくりに最大限の努力を注ぎます。

「伊予灘ものがたり」ラストランイヤー

2021年いっぱいで引退するJR四国の人気観光列車「伊予灘ものがたり」(写真:鉄道チャンネル編集部)

JR四国といえば、一番の売りは多彩な観光列車。計画には、アンパンマン列車の充実による誘客促進、新しい「伊予灘ものがたり」デビュー(2022年春運行開始予定)、観光列車などを活用した広域観光周遊ルートの形成・商品化といった項目が並びます。

ファン注目の新しい「伊予灘ものがたり」の詳細発表はこれからですが、タネ車は現在のキハ47形気動車からキハ185系特急気動車に変わります。現行車両の運用は2021年12月までの予定。JR四国は2021年を「伊予灘ものがたりラストランイヤー」と銘打ち、多彩なイベントを展開します。

単年度計画では、2019年にデビュー、2021年3月のダイヤ改正でも運用列車を増やした2700系特急気動車を土讃線に追加投入。土讃線高知―土佐山田間と徳島線徳島―穴吹駅で、発車時刻をそろえるパターンダイヤを採用します。中計5年間の設備投資額は640億円程度で、安全関連に450億円を投入します。

鉄道を基軸とした総合物流企業グループ=JR貨物

新技術を積極採用する新しい貨物鉄道駅=イメージ=(資料:JR貨物「2021年度事業計画」)

JR貨物は2021年度事業計画で、「鉄道を基軸とした総合物流企業グループ」の目標を掲げました。多少の誤解を恐れずに書けば、目標は、鉄道輸送でなく、あくまで総合物流の視点で選ばれる貨物鉄道を創造すること。輸送サービス向上の具体策では、インターネットショッピングの需要拡大に伴うブロックトレイン拡充、災害時の運用線区拡大を目指した改造機関車の試作車による試運転、手ブレーキ検知装置の全コンテナ貨車への展開などを進めるとしました。

災害時に運用線区を拡大する改造機関車は今回の事業計画で初めて登場した項目で、詳細の発表はこれから。ニューノーマルに向けた新戦略では、おそらく物流施設と思われますが、市場から上物付き物件を取得します。

2021年度の設備投資計画は、貨物鉄道事業362億円、関連事業33億円、全体で396億円。鉄道は2020年度に比べ、185億円の増額を予定します。車両はEF210形300番代電気機関車10両、DD200形ディーゼル機関車6両、HD300形入れ換え用機関車1両などを新製します。

JR貨物が増備を予定する「HD300形ハイブリッド機関車」。電気式ディーゼル機関車と蓄電池機関車の2つの機構を兼ね備えます。(写真:鉄道チャンネル編集部)

本稿で紹介したように、各社の事業計画は鉄道ファンにとっても新型車両や新サービスの話題の宝庫。興味ある方は、ぜひ各社のホームページをチェックしてみて下さい。

文:上里夏生

© 株式会社エキスプレス