2021年から規則変更。装着可能となったブレーキダクトの効果と必要性/全日本ロード

 2021年から全日本ロードレース選手権のJSB1000クラスおよびST1000クラスでブレーキダクトを装着することが許可された。国内競技規則書の規則変更によるものであり、4月3~4日に開催された第1戦もてぎではいくつかのチームがブレーキダクトを採用していたが、実際にどのような効果が感じられるのかを清成龍一(Astemo Honda Dream SI Racing)、渡辺一樹(YOSHIMURA SERT MOTUL)に聞いた。

 昨年行われた全日本ロード第4戦もてぎのレース2で清成は3位フィニッシュしたが、失格の裁定が下され話題となった。

 リザルトには「車両の検査の結果、車両違反(国内競技規則 付則8 7-9項違反)が確認された。そのため、大会審査委員会はゼッケンNo.17に対して失格の裁定を下した」と記されていたが、後にブレーキ冷却用のエアダクトを装着してレースに挑んだため、「一切改造、変更は許可されない」パーツ変更の違反に当たることが判明した。

渡辺一樹(YOSHIMURA SERT MOTUL)が駆るスズキGSX-R1000のフロントブレーキ冷却用エアダクト/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

 しかし、2021年は規則が変わり、JSB1000クラスとST1000クラスで、「FIMの耐久選手権規則に2020年に導入された規則とのハーモナイズを目的」にフロントブレーキに冷却用のエアダクトを取り付けることが許可されたのだ。

 JSB1000クラスのフロントブレーキ冷却用エアダクトは2021年度国内競技規則書の7-9-13項で以下のように決められた。

「フロントブレーキキャリパーおよびキャリパーブラケット、またはフロントフォークステーの最低でも2カ所以上に、ボルト等で固定(タイラップまたはバンド等は禁止)されていなければならない。フロントブレーキキャリパーはエアダクト取り付けのための改造が禁止される」

「エアダクトの前端開口部の最大幅は50mm、高さは60mm、又は最大前端開口部面積3000mm2以下とし、前端位置はフロントフォーク前面より後方になければならなず、後方開口部はキャリパーまたはディスク面を冷却する位置で、パッドに直接通過風を当てることは禁止される。ダクトの材質はプラスチック、FRP、カーボンまたは樹脂製とする」

 ST1000クラスにおいても同様の規則が制定されるが、ダクト材質においてカーボンは禁止されている。

冷却用エアダクトを装着した濱原颯道(Honda Dream RT 桜井ホンダ)のホンダCBR1000RR-R/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000
冷却用エアダクトを装着した江口謙(RankUp Aprilia EGUKEN Garage)のアプリリアRSV4/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

 第1戦もてぎのJSB1000クラスでは、清成、渡辺をはじめ、濱原颯道(Honda Dream RT 桜井ホンダ)、江口謙(RankUp Aprilia EGUKEN Garage)の4名のマシンがエアダクトを装着していることが確認できたが、メーカーの特性によって負荷が異なるのか2連勝を飾った中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)などは装着していなかった。では、ブレーキングに厳しいツインリンクもてぎではどのような効果を発揮したのだろうか。

 清成は「効果はあると思いますね。特にここ(ツインリンクもてぎ)はすごく(ブレーキに)厳しいし、気温が上がると、結構厳しくなります。人の後ろを走るとアウトですね」と語った。

 レース1にはエアダクトを使用せず挑んだ清成だが、レース2では「レース1で後ろに着いたときに温度が上がったのでその対策も兼ねて」エアダクトを装着していた。

渡辺一樹(YOSHIMURA SERT MOTUL)が駆るスズキGSX-R1000のフロントブレーキ冷却用エアダクト/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

 一方で渡辺は「EWCでもダクトを同じようにつけていて、ル・マンはブレーキに厳しいサーキットなのでなるべく余裕を持たせるという意味で装着している状態だと思いますが、ライダーとして明らかに体感するというイメージは正直ありません。話を聞くとある程度温度は下がるみたいなので、体感することはないけど効果はあるというのがチームの判断なので着けています」と述べた。

渡辺一樹(YOSHIMURA SERT MOTUL)が駆るスズキGSX-R1000のフロントブレーキ冷却用エアダクト/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

「もてぎはかなりブレーキに厳しいコースだし、スピードも年々上がっているので、必要なレギュレーションの改訂だったのかなと思います」と渡辺は続けており、清成もまた「ダクトは今後、安全性も含めて絶対に必要だと思います」と今回の規則改訂について以下のように説明した。

「(今のバイクは)スピードも出て、進入スピードもどんどん上がってきています。負担がかかるのがサスペンション、ブレーキ、タイヤですが、それ自体では制御ができないので、工夫してやっていかなければならないと思いますね。工夫したことで温度が下がってブレーキが利くようになれば、大賛成ですね。良かったと思います」

清成龍一(Astemo Honda Dream SI Racing)が駆るホンダCBR1000RR-Rのフロントブレーキ冷却用エアダクト/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

 ただしエアダクトの前端開口部の大きさに問題もあるようで「どう見ても小さいので改良していかないといけないのかな……」と清成。渡辺も「冷やしたい所を冷やせてるわけではないみたいです。(ブレーキ)パッドが一番温度が上がりますがそこまで誘導して良いというレギュレーションになっていないので、今後改善されるのかなと……。ST1000はノーマルのブレーキを使っていることもあるので、厳しい部分もあると思います」という。

清成龍一(Astemo Honda Dream SI Racing)が駆るホンダCBR1000RR-R/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

 まだ懸念材料があるとはいえ、問題があった翌年にはルール改訂がされ、ブレーキダクトの装着が認められたことより安全性が向上したことは全日本ロードにとって重要なことだ。

 また、今年からリアハンドブレーキの追加が許可されており、YOSHIMURA SERT MOTULのマシンには採用されていた。時代とともにマシンが進化を遂げ、仕様は変わっていくため、レギュレーションの変更も柔軟に対応されることが必要なのだろう。

渡辺一樹(YOSHIMURA SERT MOTUL)が駆るスズキGSX-R1000/2021年全日本ロード第1戦もてぎ JSB1000

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