“王子様”は必要なのか。ドラマ『やまとなでしこ』に隠された真意

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※この記事にはドラマ『やまとなでしこ』結末のネタバレが含まれます

「好きなドラマのヒロインは?」と聞かれて思い浮かぶ女性の中に、『やまとなでしこ』の“桜子さん”がいる。

天性の美しさを武器にして、自らの幸せを貪欲なほどまっすぐに求め続ける彼女の眩しさは、もう長いこと私の脳裏に鮮やかに焼き付いている。

『やまとなでしこ』は20年以上前に放送された作品だが、平日午後の再放送ドラマ枠で頻繁に放送されていた時期があったため、リアルタイムで見ていた世代でなくてもかなりの知名度があるのではないだろうか。

実際、私が出会ったのも中学生の頃に見た再放送だった。

最近だと、コロナ禍でステイホームが日常化した2020年7月に「20周年特別編」として2週連続で再放送されたのも記憶に新しい。

■主人公・桜子の王子様はどこにいる?

簡単にあらすじを説明すると、超貧乏な漁師の家で生まれ育った神野桜子(松嶋菜々子)が、自身の幸せ——もとい“最高級の玉の輿”をつかむために、富裕層の男性達との合コンに明け暮れていた中で、本当の恋を見つけていく話である。

自分を貧乏な生活から救い出してくれる”王子様“と出会うことをずっと夢見て育ってきた桜子は、ある夜、ひとりの男性と出会う。

彼は馬主バッチをつけたとびきりのお金持ち……と聞かされていたが、実は身分を偽って合コンに参加していた超貧乏な魚屋の跡取り息子・中原欧介(堤真一)だった。

欧介は貧乏ながらも飾らない性格で、桜子が抱えた過去の痛みや意固地を優しく溶かしていく。

しかし、桜子には自身の出生を偽って婚約してしまった、大病院の跡取り息子・東十条司(東幹久)の存在も。

揺れ動く自分の気持ちと葛藤しながらも、欧介と、東十条と、何より自分自身と向き合っていく。

■お金持ちの王子様・東十条を選ばなかった理由

この作品の主軸となるのは、すれ違いながらも心を通わせていく桜子と欧介のラブロマンスなので、お金持ちイケメンの東十条というキャラクターは当て馬のような二番手ポジションとして話が進んでいってしまう。

実際、桜子が幼い頃に見た夢の中で、泣いている彼女に手を差し伸べてきた王子様は、お金持ちイケメン・東十条ではなく、魚屋の跡取り息子・欧介の容姿と酷似しているのだ。

物語が進むにつれて桜子は、自分の気持ちが欧介にあると認めることになるのだが、桜子はずっと「東十条か、欧介か」で揺れていたのではなく、あくまで「玉の輿に乗るという自身の欲か、欧介か」で揺れていたように思う。

さらに極端なことを言ってしまえば、お金持ちイケメン・東十条という人間の内面は、桜子にとってはどうでもいいことだったのかもしれない。

しかし私は東十条こそ、彼女が長く待ち望んでいた“王子様”だったように思うのだ。仮に桜子が東十条と結婚したとしても、彼女は幸せになっていたと断言できる。

「お金か、心か」がこの作品の大きなテーマではあるが、桜子を想う東十条の真摯さは、彼女の出生が偽りだと明かされた後でも変わらなかったことで明白である。彼はお金も心も持ち合わせた、まさしく“王子様”だった。

しかし最終的に桜子は東十条ではなく、欧介を選ぶ。それはどうしてか。

桜子には最初から、“王子様”なんて必要なかったからだと思うのだ。

■『やまとなでしこ』は、王子様と決別する物語

桜子という女性の魅力は、その並外れたたくましさにある。

超貧乏という生まれ持った運命をはねのけてひとりで漁師町を飛び出し、努力をもってその美貌をさらに磨き上げ、どんな状況であっても自分の願望に忠実に突き進む。

男性に媚びているようで、実は誰に対しても一銭たりとも自分を安売りしない彼女は、“王子様”など待たなくても自分で自分の人生を切り開いていける勇壮な女性なのだ。

故に私は、この作品は「桜子と、(桜子の中の)王子様との決別の物語」であると考えている。

欧介との出会いの中で、芽生える恋心や彼に惹かれていく自分に戸惑いながらも、まっすぐ前を向いて自分の幸せをつかみに行く彼女の姿は、最後まで清くて眩しい。

最終的に桜子は、自分の意思で欧介を選び、その後を追ってニューヨークへ飛ぶのだが、「王子様を選ばなかった桜子」がその足で選んだ未来が幸せなものであるかどうかは、ぜひその目でご覧いただきたい。

どこまでも強くて美しい“大和撫子”そのものである彼女の背中は、見る人の心にもそっと一輪の花を添えてくれるような、清々しい余韻を残してくれるはずだ。

(文:琴子、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)